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    ※暁月6.0メイン前提。
    エルピスにて正体を明かす前。ヒカセンの気持ちはメーティオンに伝わっちゃうおはなし。


    ※この小説はご都合・捏造を含みます。雰囲気で楽しめる方が読んでください。

    ヒカセンの容姿設定無し。自由に補完して楽しんでいただければ幸いです。

    #エメ光
    emeLight
    #FF14
    #エメトセルク
    emetoselk
    #エメトセルク大好き
    iLoveEmmetserk.
    #暁月のフィナーレ
    dawnMoonFinale

    エメ、トセルク、大好き! その個体彼女はオパールのような、煌めく虹色の心を持っています。
     ヘルメスからむやみに心と直接交信することは良くないと教えられているので、詳しく視てはいません。
     彼女からデュナミスが溢れてくるのです。
     ここでそのように心を輝かせるものはいません。ヘルメスも他の人間とは違う心をみせますが、それは暗く滲んでいることが増えました。
     彼女はエーテルの薄い仲間であり、その素敵な心に惹かれ、お友達になってもらいました。彼女のデュナミスは私を優しく迎えてくれています。視なくとも心がわかってしまうのは申し訳ない気持ちがしますが、とても嬉しくて、くすぐったい気がします。


    ◆◇


     私と彼女は視察に来たエメトセルクとヒュトロダエウス、案内するヘルメスと共にエルピス内を回っていました。
    2人でお話をしていると、うねった森の道を先に進んでいたエメトセルクが木立の向こうで立ち止まり、厭きれたような目を彼女に向けています。ヘルメスとヒュトロダエウスの姿は見えません。
    「お前、なんのためにここに来たんだ。使い魔のトモダチづくりか?」
    彼女は口を噤んでエメトセルクを見つめました。
    「私が、お話してほしい、って、お願いしたから……!」
    言語の発声に慣れていなくて、たどたどしくなってしまいます。エメトセルクの目は私に向きましたが、溜め息をついて彼女に目を戻しました。
    「お喋りがしたいなら帰ってろ。この辺の創造生物に食われても知らんぞ」
    気づけば獰猛な創造生物を放っている地域でした。道を歩いている分には危険はないはずですが、私は彼女の手を引いてエメトセルクの元まで駆けました。
    「ごめん、なさい」
    エメトセルクは私と彼女を見遣ると、
    「ちゃんとヘルメスについていけ」
    と歩き出していきます。さっきの位置では見えませんでしたが、道の先にはヘルメスとヒュトロダエスが見えました。
    「行こう」と私が彼女の手を引くと、彼女はエメトセルクの背中に視線を残します。
     エメトセルクが好き。
     私は驚いて彼女を見上げます。彼女の思いが伝わってきます。彼女は私の視線に気づくとにっこりと微笑みました。
    「エメトセルクが怖かったかな?」
    「う、ううん」
    本当に怖くはありませんでした。
    「エメ、トセル、ク、優しい」
    握った彼女の手がピクリと動きました。
    「あなたが、そう思ってるから」
    また彼女の思いが溢れてきました。
    「あなたは、エメ、トセ、ルクが好き」
    知っているのに黙っているのはいけないと思い、彼女に伝えました。
    「えっ?!」
    彼女は変な声を上げて顔を真っ赤にしました。先を行く3人が彼女に振り向きます。ヘルメスが心配そうです。
    「何かあったか? メーティオンが何か……」
    「なんでもない! ごめんなさい!」
    「なんで、もない! リンゴが好き!」
    ヘルメスは笑ってくれました。
    「それは僕だろう?」
    リンゴのように真っ赤な彼女を見上げて、3人には届かないよう「ごめんなさい」と呟くと、彼女は眉を下げて微笑みました。
    「伝わっちゃってるんだね」
    私が頷くと彼女は「そっか」と優しく明るく言って、手を握り直して歩き出しました。少しも怒っていなくて、安心しました。


    ◆◇


     夕方に差し掛かり、遠方の案内は明日になりました。
     アナグノリシス天測園に戻ると、私は生物の心を読んでみせると彼女を連れ出しました。しかし、選んだ鳥にいくら集中しても考えが視えません。
    「わからない……というか……無……?」
    なんとか考えを読もうと私が唸っていると
    「不気味な鳥だな……」
    エメトセルクとヒュトロダエウスが彼女の傍にいました。
    「鮮やかでもないし、可愛げもない」
    「個性的なイデアで、いいんじゃない?」
    「エメトセルクに似てるよね」
    彼女がころころと笑うとエメトセルクが「どこが?」とさも不満である顔を彼女に向けました。
    「羽色とか、毛先が跳ねてるとことか、目の感じとか」
    彼女は身を屈めて鳥の特徴を指差しながら楽しそうに答え、「似てるでしょう」とエメトセルクに顔を向けました。
    「ェ……大好き……!」
    私は思わず声にしていました。慌てて口を両手で塞ぎます。
     エメトセルクの発音が難しくて、出てこなくて本当に良かった。
     彼女は花火が弾けたように顔を赤くしています。エメトセルクは怪訝な顔で彼女と私を一瞥しました。
    「この鳥が……? お前もおかしな奴だな」
    エメトセルクは眉間を押さえて首を振り、去っていきました。ヒュトロダエウスはお腹を抱えて笑っています。彼女は恐る恐るヒュトロダエウスを見ました。1人では立っていられないほどお腹が捩れているのか、彼女の肩に手を置きました。深呼吸をしながら、笑いながら、落ち着こうとしています。
    「これは、困ったね……。このままだといずれメーティオンが告白しちゃうよ」
    彼女は眉を寄せて目を閉じました。
    「ごめん、なさい、私……」
    「メーティオンのせいじゃないよ。わたしが……」
    彼女は言葉を詰まらせ、唇を結びました。
     苦しい。
    「……言ってごらんよ。少しは気持ちが落ち着くかもしれないよ? メーティオンを介して漏れちゃってるくらいなんだから」
    ヒュトロダエウスが優しく彼女を促します。彼女はぎゅっと目を瞑ります。
     苦しい。
    「あなたが言えないなら、わたしが、大声で、言っちゃう!」
    彼女はハッと目を開けて私を見ました。潤んだ目を細めて微笑んでくれて、涙が一筋零れました。
    「わたし、エメトセルクが好き……」
    とても小さい声だけど、めいっぱいのデュナミスが溢れています。私までエメトセルクを好きになってしまいそうなほど。
     ヒュトロダエウスは彼女の背中を、あやすようにぽんぽんとたたきました。私も彼女を抱きしめました。


    「でも、伝えたいとは思ってない」
    彼女は涙を拭いました。その表情はしっかりとした意思があるように見えます。
    「こんなに、好きなのに?」
    私は胸に手をあてて彼女を見上げました。彼女も自分の胸に手をあてて微笑みます。
    「こんなに、好きだから」
    ヒュトロダエウスは柔らかい瞳で彼女を見ています。
    「そっか……。キミは不思議だね。初対面なのにそんなに彼を想っているなんて」
    彼女は頬を染めながら、難しい顔で目を伏せます。
    「まあ、それはワタシたちも同じかな。キミにはつい、友人と同じように気を許してしまうから」
    ヒュトロダエウスは彼女に優しく微笑みました。
    「伝えるつもりがないと言うならキミの意思を尊重するけれど、このままではいつメーティオンから告白してもおかしくないね」
    彼女はうーんと唸ります。私も考えます。
    「わたしが、一緒にいなければ……」
    私がいなければ、勝手に告白してしまうことはありません。ヒュトロダエウスは私を見て「うーん」と首を捻りました。
    「ワタシたち、せっかく協力できるんだから、それは最後の手段としよう」
    「気持ちが高ぶらなければいい訳で……デュナミスを溢れさせないように……」
    彼女はぶつぶつと唸っています。
    「あ」とヒュトロダエウスが目を見開きました。
    「エメトセルクにもうちょっとエーテルを貰ってきたらどうだろう? エーテルを濃くすることでデュナミスを発する力を掻き消せたりしないかな」
    私と彼女はヒュトロダエウスを見上げてなるほどと感嘆の声を漏らしました。
    「行ってくる」
    彼女は立ち上がります。
    「彼なら、あっちの宿舎の中だよ」
    ヒュトロダエウスが経ち並ぶ宿舎のひとつを指差すと、彼女は「ありがとう」と快活に歩いていきました。
    「フフ……気持ちを隠そうとしたところで、そんなにわかりやすいんじゃ、さすがのエメトセルクだって気づいちゃうかもしれないよ?」
    ヒュトロダエウスは彼女の背中を見送りながら、笑って呟きました。


    ◆◇


     夜が更け観察者の皆がアナグノリシス天測館に帰ってきて、1階の広い談話室で各々が穏やかに過ごしていました。観察対象について報告し合っていたり、創作中のイデアについて論じていたり。エメトセルクとヒュトロダエウスはテーブルを挟んでぽつぽつと話しながら、周りの会話を聞いているようです。
    「あの人は?」
    夕方にエメトセルクを訪ねに行ってから、彼女を見ていません。
    「知るか。いない方が清々する」
    エメトセルクは窓の外へ顔を向けました。ヒュトロダエウスはにこにこと笑っています。
    「ワタシも姿は見ていないよ。……今頃、どこで寝ているんだろうね?」
    エメトセルクに向かって問いかけたようです。
    「寝てるの……?」
    私が首を傾げるとヒュトロダエウスはにこにこと笑んで頷きました。


     談話室の人数もだんだんと減ってきた頃、
    「メーティオン、そろそろ行こうか」
    ヘルメスに声をかけられ、いつもの用事を思い出しました。
    「はーい」
    ヘルメスの元へ走り、2人で玄関へ向かいます。ドアを開けた時、その先に彼女の後ろ姿がありました。追いかけたくなりましたが、定期報告を優先しなければいけません。彼女の行く先を気にしながらヘルメスについていきました。

     
     定期報告は滞りなく済みました。
    「わたし、あの人、探しに行く!」
    勝手に行動するときっと心配させるので、ヘルメスに伝えました。
    「こんな時間に外に……どうしたのだろう」
    彼女は天測館から西の方へ、十二節の園への道を歩いていたと記憶しています。その道を辿ってみると、彼女のデュナミスの痕跡を見つけました。肉体的な苦痛を訴えるデュナミスの光粒が点々と道に落ち、風に揺らいで散っていきます。
    「こっち! 体、大変みたい!」
    ヘルメスは息を飲み、不安になっています。早く見つけなければと私は痕跡を辿り走りました。
     十二節の園が見えてきて、彼女のデュナミスの輝きも視えました。昼間よりも輝きが強いように視えます。
     道の先、余剰環境エーテルの咲く花壇の辺りで彼女が倒れていました。その傍にはエメトセルク。
     私は咄嗟に木の後ろに身を隠しました。
    「なぜそうまでしてエーテルを欲しがったんだ。力が欲しいとかいうただの愚かな欲望か?」
    エメトセルクの詰問が聞こえてきました。
     私は無性に苦しくなって、いけないと思った時には叫んでいました。
    「エメ、トセルクが、大好き……!」
    彼女はエメトセルクからエーテルを貰いに行ったはずなのに、昼間より薄くなっています。そのせいか強くデュナミスが伝わってきます。どうしてこんな想いを隠しておけるのでしょう。私はどうしてもエメトセルクにわかってほしいと思いました。影から姿を出して、込み上げる想いをどうにかしたいと胸に手を当てます。
    「彼女は、エメ、トセルクが、大好き!」
    何度言葉にしても尽きません。エメトセルクに直接交信して伝えたいくらいですが、人間に届くものではありません。
    「からかってるのか」
    顔を真っ赤にした彼女を見て、エメトセルクは呆気にとられているようです。
     違う! 彼女は貴方のことを心から愛している。隠したい想いが私にこんなに伝わるほどに。そんな目で見ないであげて。
    「彼女は……、だから……、エメ、トセルク、信じて……!」
    溢れる思いが言葉にできず、思わず両手を振りながら訴えました。もどかしくて堪らなくて彼女を見ました。
     貴女の想いを伝えたい。上手くできないのに、また勝手に言ってしまった。
    「ごめんなさい、また、わたし……!」
    彼女は優しく笑ってくれました。
    「大丈夫だよ。本当のことだから」
    私は彼女に走り寄り、その手を両手で握りました。冷たい。目を閉じて、ごめんなさいとありがとうと、いろいろな気持ちを込めて温めるように包みました。
     彼女の一方の手が私の肩を撫でました。
    「大丈夫。ありがとう。わたしの気持ちを、メーティオンの方が大事にしてくれてるね」
    「……あなたの気持ち、とっても、あたたかくて、苦しくて……」
    彼女は優しく肩を撫でてくれます。
    「エメ、トセルクも、好きになってほしい」
    彼女が息を飲みました。余計なことかもしれないと思ったけれど、言いたかったのです。
    「メーティオン、もう、大丈夫だから。明日またお話しよう」
    彼女は優しく明るく言ってくれて、私は彼女に目を向けました。にこりと笑ってくれて安堵します。
    「わかった。またね……」
    伝えきれない気持ちを呑み込んで、私は道を引き返しました。少し走ったところでヘルメスが落ち着かなさそうにうろうろしていました。
    「少し聞いてしまったよ……。エメトセルクがいたから、彼女の体については大丈夫だろうと思って離れたんだけど……」
    「わたし、悪いことした、かな」
    「……彼女には、自分からも謝ろう。でも君が悪い訳じゃない。安心してくれ」
    「うん、でも、ちゃんと謝る……」
    私たちは並んで天測園へ帰りました。


    ◆◇


     エメトセルクを探してアナグノリシス天測園の宿舎を覗いていると、ドアの開いた宿舎があった。近づくと窓から穏やかな風が吹き込み、縦に細長く切り取られた退紅色の空を背景にテーブルセットに掛けて書き物をしているエメトセルクがいた。部屋に一歩踏み入って声をかける。
    「エメトセルク……」
    彼は書き物を続けていたが、ハアと溜め息を吐いて羽ペンを持っていた手を横に払うと、帳面とペンが風に溶けるように消えた。
    「なんだ?」
    エメトセルクは腕を組み、窓の外に視線を投げた。
    「エーテルを、もっとください」
    「不満があるのか? ちゃんと補強してやったぞ」
    「今のままだと、ちょっと困ってるの。できるだけエーテルを貸してほしい」
    神妙に頼むと、エメトセルクは疎ましそうに目を細める。
    「過不足ないエーテルをやったんだ。まだ多少の余裕はあるが、やらない方がいい」
    「それでもお願い」
    胸の前で両手を合わせて拝む。
     エーテル過剰の痛みは知っているが、あれほどの苦痛にはならないだろう。
     エメトセルクは大きな溜め息を吐いて腕をほどいた。
    「……こっちに来い」
    「ありがとう……!」
    手を合わせたまま歩を進める。近づくほどに金の瞳に射竦められるようで、神前に立つような心地がした。
     エメトセルクの目の前へ立つ。最初にエーテルを貰った時に目を閉じるよう言われたのを思い出し、視界を断って祝福を得るように待つ。
     全身の血管を巡るようにエーテルの温かさが伝わってくる。このまま空に飛び出してしまいたいくらいに、体に活力が湧いてくる。
    「……満たしてやったぞ」
    目を開けるが、「ありがとう」と声が発せたかどうかわからない。視界がぐらりと揺らいで、力強い腕に抱き止められた。
    「だからやめた方がいいと言ったのに……」
    そう呆れられた気がする。体がふわふわして気持ちが悪い。
     彼女はううんと唸ってエメトセルクの腕のローブを握りしめた。結局面倒を被ったとエメトセルクは悪態をついた。
     器いっぱいにエーテルを満たしたが、やはりエーテル酔いを起こしている。
     あまり彼女の体を揺らさないよう支えながら歩かせて、ベッドに寝かせた。枕を積んで頭を高くする。
     エーテルを戻してやれば楽になるだろうが、彼女がそれでもエーテルが欲しいと言ったのだ。理由があるだろうと考えると奪うのもためらう。彼女がここで吐かないことを祈るのみだった。
     ベッドに横になった女と2人きりなど居心地が悪く、エメトセルクは静かに部屋を出て行った。
     

    ◆◇


     彼女が目を覚ました時には、窓から美しい星々の煌めきが見えた。
     ヘルメスとエルピスのことをもっと調べなければいけないのに、貴重な時間を眠って過ごしてしまったと後悔する。
     体を起こすとぐらぐらと脳か体が揺れた。これではデュナミスがどうこうという場合ではない。どうにか発散してしまった方がいいだろう。
     覚束ない足取りで、なるべく壁を伝って部屋を出た。


     そよぐ風が本来は気持ちの良いものなのだろうが、今の彼女は肌に浮く汗を冷やされ、体の中で発熱と冷却が入り混じってとても不快だった。木から木へと腕をついて道を辿り、十二節の園を目指した。
     十二節の園では環境エーテルの管理がされている。余剰分はエーテル塊として生成されると聞いた。うっすら使い魔もどきと呼ばれる程度のエーテルではたいした量ではないだろうが、発散するならここがいいのではと考えた。
     やっとの思いで花壇に到着し、糸が切れたようにどさりと地面に倒れる。衝撃で頭がズキズキと痛んだ。両腕を天へ伸ばして、エーテルを解放した。ざわざわと蒸発するように熱が体を離れ、星空にエーテルの煌めきが立ち上っていく。美しい世界だ。もし自分がこの世界の人間で、エメトセルクと共に終末を生き延びていたら……自分がアシエンになる可能性を否定できない。……なんて、そんな妄想をしても仕方がない。
     物思いをしているうちに、目を開けているのも億劫なほどの倦怠感が体を蝕んでいた。
     ああ、やりすぎた。エーテルを発散しすぎてしまった。
     風が体を冷やし、寒気がしてくる。
     自分の愚かさを自嘲した。
     どうしてこんな自分が、星の命運なんてものを背負っているのだろうか。ああ、いけない。心までエーテル不足だ。
     彼女は考えるのもやめて、エーテルが回復するまでそのまま眠ったように地に体を預けた。
    「何をしているかと思えば、このまま消えそうじゃないか」
    僅かに怒気を含んだ声が落とされる。冷え切った耳に熱が灯るような心地がした。目を開けて彼の顔を見るのが怖くて、閉じたままにしておく。
    「ごめんなさい。貰ったエーテル……無駄にしちゃった……」
    言葉にすると本当に情けなくて、目に熱が湧いた。おもむろに瞼を上げると、常夜灯に仄かに照らされた銀髪と黒衣、赤い仮面。闇の中でも真理を貫くような金の瞳が見下ろしている。目が合うとその目は逸らされ、花壇に向けられた。
     エメトセルクは花壇に腕をのばすと、掌大の虹色のエーテル塊を取り上げた。
     エメトセルクの目には、彼女と自分のエーテルが混ざり、重なり、溶け合って揺らぐ輝きに視えている。ヒュトロダエウスなら美しいと喜んで眺めるだろう。こういう状態は通常心と体を重ねたものに視られる。
    「心底愛し合った恋人同士のようだね」
    脳内で笑う悪友を打ち消すように、エーテル塊を空に還した。
    「起きるくらいはできるだろう」
    消えかけ使い魔もどきに目だけをやると、彼女は深呼吸をしてからノロノロと上体を起こした。いかにも怠そうに肩を落として目を伏せている。エメトセルクは溜め息をついて傍に膝をついた。
    「なぜそうまでしてエーテルを欲しがったんだ。力が欲しいとかいうただの愚かな欲望か?」
    彼女は首を横に振った。顎を掴まえて目を合わせる。彼女は驚いて目を丸くした。その瞳には星空が揺らめいている。
    「ヒュトロダエウスに免じてお前を連れてやっているが、何も答えずに済むと思うな」
    エメトセルクはなんでもいいから答えろと言わんばかりに彼女を見つめた。
    「エメ、トセルクが、大好き……!」
    そこに響いたのはメーティオンの声だった。声の方を見れば、木陰からメーティオンが姿を現した。胸に手を当てて、「彼女は、エメ、トセルクが、大好き!」と振り絞るように続けた。
     エメトセルクは呆気にとられて彼女を見る。顔を真っ赤にして目を泳がせている。
    「からかってるのか」
    いくらか呆けた声を漏らすと、彼女は強く頭を横に振った。
    「彼女は……、だから……、エメ、トセルク、信じて……!」
    メーティオンはもどかしそうに言葉にしきれない想いを身振り手振りで表そうとしている。そして彼女に目を向けた。
    「ごめんなさい、また、わたし……!」
    「大丈夫だよ。本当のことだから」
    メーティオンは走り寄り、彼女の手を両手で握った。
    「大丈夫。ありがとう。わたしの気持ちを、メーティオンの方が大事にしてくれてるね」
    メーティオンは青い睫毛を伏せて震えている。
    「あなたの気持ち、とっても、あたたかくて、苦しくて………」
    彼女はメーティオンの肩を撫でて宥めた。
    「エメトセルクも、好きになってほしい」
    彼女は一瞬表情を固め、メーティオンの肩を摩る。
    「メーティオン、もう、大丈夫だから。明日またお話しよう?」
    メーティオンは潤んだ瞳を上げて頷いた。
    「わかった。またね……」
    メーティオンは立ち上がり、彼女に微笑まれて走り去っていった。


     彼女はやっと風が心地良く感じられてきた。自分の中で膨れ上がった想いを全てメーティオンが曝け出してくれた。エメトセルクへの想いも、それへの戸惑いも。
    「あっ」と彼女は息を飲んだ。
    「あの、好きになってほしいは、違うから」
    気持ちが落ち着いたと言っても、エメトセルクを直視するのはためらった。
    「ただ想ってるだけだから……気にしないで」
    深呼吸をしてエメトセルクの顔を窺うと、金の瞳がじっと彼女を捉えていた。心まで貫くような目に彼女は肩を竦めた。その肩がエメトセルクの手に包まれる。ビクリと震えてしまった。
    「どういうことか説明できるな?」
    ぎゅっと心臓を握られたように感じる。メーティオンがいたら、また好きだと叫んだことだろう。
     このエメトセルクには出会ったばかりだというのに、こんな想いをする自分が悔しくも思う。そして、こんな想いをしているなんて、彼に話したところで真に受けはしないだろう。だから意識すらしないでおきたかったのに。
     彼女は目を伏せると、諦めたように、自嘲するようにふわりと笑った。
    「わたしはエメトセルクが好きなの」
    「馬鹿言え」と切り捨てられると思った。しかしエメトセルクは黙っている。
    「それがメーティオンに伝わって、何度も言葉にさせてしまって……。デュナミスを断つには、エーテルを強化したらいいんじゃないかってヒュトロダエウスが提案してくれたの」
    「……何度も……?」
    エメトセルクは不思議そうに呟いた。思わずふふと笑って彼を見上げる。
    「そう、何度もだよ」
    エメトセルクは記憶を探るようにどこともなく目を向けた。はと目を瞠り、顔を顰めた。
    「ヒュトロダエウスめ……」
    「エーテルが欲しかったのは、それだけです。……ご迷惑をおかけしました」
    彼女は、問われたことには答えた、言うべきことも言ったと思い、両腕を地面につき、足を腹に寄せて立ち上がろうとした。
     肩にあった手が背中へ下り、一方で膝裏を掬われた。軽々と宙へ上げられ、思わずエメトセルクの胸にしがみついた。
    「お、おろして……」
    慣れない体勢に咄嗟に上げた声は、エメトセルクの横顔の近さに動揺して思いがけずか弱くなった。エメトセルクは聞いていないのか、天測園への道を歩き出した。
    「こんなことされると困る。お願いだから下ろして」
    「エーテルも満足に溜まっていない癖に動くな。放り投げられたいか」
    「でも……」
    嬉しいような恥ずかしいような、悲しいような気分になった。
     自分の真意が信じられないから、エメトセルクは試している、または弄んでいるのだろうか。
     エメトセルクの靴音より、どくどくと打つ自分の鼓動の方が速い。
    「あの、苦しいから……下ろして……」
    エメトセルクは彼女の上体を高く抱え直した。体が揺らされて頭がぶつかりそうになり、不安になった両腕がエメトセルクの首にまわる。
    「そ、そういうことじゃない」
    「煩いな。抱えづらいからちゃんと掴まれ」
    彼女は小さく呻いてから、上体をエメトセルクに寄せた。体重を委ねる不安を感じないほど彼の体は筋肉で厚く頼もしい。
     やっぱりやめてほしい。
     エメトセルクを感じて嬉しいと思うほどに苦しい。切なくて目頭が熱くなり、彼女はぎゅっと瞼を閉じた。
    「……意地悪でしてるとでも思うのか?」
    エメトセルクが溜め息混じりに呟いた。彼女は意を問うように彼を見上げた。
    「こんな長い道を、よくフラフラと歩いてきたものだ」
    聞き慣れた呆れ声だ。
    「……意地悪のために、わざわざこうして歩く筈が無いだろう」
    一言一言が甘く胸に響いて、きゅっと締めつけられる。
    「それって、どういう意味なの?」と問いたかったが、ぐっと喉でとどめた。
     これ以上、何を求めるだろうか。告白してしまって、聞いてもらえて、こんなに触れ合って。こんなことを夢にも見るものか。充分すぎるほど、身に余るほど幸せだ……。
    「ありがと……」
    それだけを喉から絞り出した。天測園までの残りの道のりを、ただエメトセルクの温もりを、刻み付けるほどに覚えておこうと、静かに揺られていた。


    ◆◇


     翌日朝から視察の続きを始めます。天測館の前で待ち合わせていますが、ヘルメスは観察者から急用を受けて先に出かけていきました。次に出てきたのは彼女です。
    「おはよう! あの、昨日、ごめんなさい」
    駆け寄って頭を下げると、彼女は私の頭を優しく撫でてくれました。
    「大丈夫だってば」
    「うん」と頭を上げ、彼女の笑顔に安堵の笑みを返しました。
    「おはよう。今日も視察日和だね」
    朗らかな声と共にヒュトロダエウスとエメトセルクがやってきました。エメトセルクは「おはよう」と短い一言だけです。
    「おはよう」と彼女が2人に返しました。ああ、やはり気持ちが伝わってきます。
     昨夜はどうなったのでしょう。彼女がまだそれだけ想っているということは、悪いことにはならなかったのでしょうか。とても気になってウズウズするけれど、心を覗き見してはいけません。
     私は思わず彼女とエメトセルクを交互に見上げました。私の視線に気づいたエメトセルクはぎろりと鋭い眼を向けてきました。
    「何も、聞くんじゃないぞ」
    そう釘を刺されてしまい、私はただ頷きました。
    「え? 何かあったの?」
    ヒュトロダエウスは興味深そうにエメトセルクに笑みました。
    「何もない。ある訳がない」
    エメトセルクは腕を組んで目を伏せました。ヒュトロダエウスは「ええ~?」と楽しそうに声を上げて手を顎にあて、何か考えるような、エメトセルクを観察するような目を向けています。
    「ヘルメスはまだなのか」
    エメトセルクはむずむずと眉をひくつかせて、吐くように言いました。
    「ヘルメス、先行った!」
    私が答えるとエメトセルクはヒュトロダエウスの視線をかわすように歩き出しました。私たちも続きます。
    「それで、うまくいった?」
    ヒュトロダエウスが彼女の隣を歩きます。彼女は溜め息をついて眉を下げました。
    「ヒュトロダエウスなら、エーテルを視ればわかるでしょう?」
    「うーんと、今日は目の調子が良くないみたい」
    彼女はヒュトロダエウスと目を合わせました。困った人だなと笑い、エメトセルクの背中に目を向けます。
    「メーティオン、言っていいよ」
    「えっ?!」
    他人の心を代弁するのは悪いことだと思っていたので、とても驚きました。
     この心をくすぐる気持ちを、高らかに声にしていいと? 
    「言ってくれる?」
     ああ、なんて嬉しいのでしょう! 素敵な気持ちを謳いたい。
     私は飛び跳ね、大きく息を吸いました。
     彼の心まで、あなたの想いが届きますように。
    「エメ、トセルク、大好きー!」


    ――つづく――
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    Starlit

    PAST※暁月6.0前提。
    「花の香り」つづき。
    エルピスでやばい薬飲まされた光。いかがわしいですが、健全です。
    こいつら、いつになったらヴェーネスに会って大事な話をするのかって?ちょっとこちらへ………カイロス発動。

    ※この小説はご都合・捏造を含みます。雰囲気で楽しめる方が読んでください。

    ヒカセンの容姿設定はエメよりいくらか背が低い。としか考えていません。
    エメトセルク、大好き!3 ~あぶないティータイム「ヒュトロ、ダエウス! 大変!」
    アナグノリシス天測園のベンチでお茶を飲んでいる彼を見つけ、走り寄ります。ヒュトロダエウスは「ん?」と穏やかな顔と、どこまでも見透かすような朝紫色の目を見せました。
    「エメ、トセルクが、おかしい!」
    ヒュトロダエウスはえっと短く声を漏らした後、ぶるぶると身を震わせ始めました。
    「ふ、フフフ……詳しく、教えて……」
    お腹を押さえながらベンチの席を勧めてくれたので、飛び込むように座り、私は話を始めました。

     ヘルメスと観察者の連絡のために天測園を歩き回っていたら、ある棟の前にエメトセルクがいたのです。ドアを背にひとりで顔を顰め腕を組んで立っていました。何をしているのかと近づいていくと彼は私に気づき、目を見開いて
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    Starlit

    PAST※暁月6.0メイン前提。
    エメ、トセルク、大好き!つづき。
    前作のように可愛い話にしたかったのですが、ちょっと違ったな。ゴメンナサイ

    タイトル通り花の香りの表現があります。苦手な方もいらっしゃると思いますので、お好みでイイ具合の香りだとお考えください……。

    ↓ヒカセンのひとこと
    インドでそういう風習があるらしいと見つけたので、やってもらった。
    エメ、トセルク、大好き!2 ~花の香り ヘルメスが先に向かった牙の園まで、4人で向かいます。
     ノトスの感嘆からナビを利用してゼピュロスの喝采へ移動すると、道沿いに鮮やかな花畑が見えます。
    「綺麗だね」
    彼女がそちらを眺めて顔を綻ばせました。
    「お花、皆好き。いろんなお花、創る」
     そこには様々な花が所狭しと咲き誇っています。足元に隠れるように咲く細やかな小花から、手を伸ばせと木の上から誘うように咲く花、宙を踊るように舞う花、人を飲み込みそうな大きな花も見えます。花の創造者達が好き好きに種を撒いていくのです。
     花は気持ちを伝える素敵なプレゼントのひとつだと聞いています。
    「ねえねえ、皆で、花束、作りたい!」
    3人を見上げると、ヒュトロダエウスが穏やかな顔を明るくします。
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