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    ※6.0メイン前提。※ご都合・捏造
    終末を越え、傍にいて満足している2人のおはなし。砂糖、どばどばだョ!
    友情出演、暁の仲間たち
    ※エメとヒュ生存if、ローブ以外の2人(具体的な指定無し)
    光の容姿は、身長がエメよりいくらか低い。その他設定なし。

    #エメ光
    emeLight
    #FF14
    #エメトセルク
    emetoselk
    #暁月のフィナーレ
    dawnMoonFinale
    #BeforeSleeping
    #ヒュトロダエウス
    hutrodaeus

    Talking before sleeping 青年らしき2人は町往く人と変わらぬ装いで、オールド・シャーレアンを歩いている。
     ローブを着ていたうちは「英雄の仲間」「イルサバードの魔道士」などと名乗っていたが、胡散臭いという顔をされるか、知的好奇心に詳しい話をと求められ、うんざりしたのだ。人々に紛れた服を纏えば、2人は俗世から放っておいてもらえた。
     人波を通り過ぎ、2人は知神の港にて海を前に足を止めた。
    「それで、彼女とはどお?」
    悪友は嫌味なほど満面の笑顔を向けた。知神サリャク像から止めどなく降り注ぐ知の水さえ悪魔の微笑のように聞こえて、エメトセルクはヒュトロダエウスを睨めつけた。
    「どうもこうもない」
    ヒュトロダエウスはその言葉が真実だと理解して「ええ?」と目を丸くした。
    「恋人なのに、せっかく帰ってきたのに、何もないの?」
    「恋人じゃない!」
    エメトセルクの赤らむ耳に気づき、ヒュトロダエウスは「ええ~?」と笑い出した。
    「頑固者のキミが彼女に折れて残ることにしたんだから、てっきりそういうことかと」
    エメトセルクは厭きれて表情から力を抜き、穏やかな海面に視線を落とした。
    「私とあいつは、命をやり合った敵だぞ。そんなものになる訳がないだろ」
    「彼女の方は違ったし、キミだって最後は味方だって示したじゃない。アツいね~」
    「それだけのことだ」
    「またまた~」
    エメトセルクが反論しようとしたところで、白い議員ローブの男、フルシュノが声をかけた。俗世が彼らを知らずとも、星の真実を求める者は彼らを放っておかない。議員と2人が対等のように話す様子を聞けば、端からは不思議な青年たちに見えたことだろう。


    ◆◇


    「あなたたち、星海に還るつもり……!?」
    「当然だ。ハイデリンの術に生かされるなど、願い下げだからな」
     彼女は大粒の涙を零した。次々と雫が滴るのに引き留める言葉はなく、自身でも気づいていないように、ただそうしていた。暁の仲間たちもそんな彼女を見るのは初めてで、自ずとエメトセルクに視線が集まった。
    「彼女が、今絶望に飲まれたら……」
    「あなたのせいよ!」
    「アリゼー、運命を受け入れた人にそんな言い方はいけないわ。……ねえ、もっといい男はいるわ。私がつくってあげてもよくってよ」
    「運命は切り拓くものです。貴女のために、私が星を手繰り寄せてみせましょう……」
    「俺も昔は女性を泣かせたもんだが、よりによって彼女を泣かせるとは……」
    「相棒の望みとあらば……串刺しにしてでも留めおこう」
    「それでも還るというなら、彼女のために、お前を召喚する術を創り上げるまでだ……」
    暁たちが口々に言う言葉がエメトセルクの胸を刺した。傍らのヒュトロダエウスは腹を抱えて笑いを堪えている。
     こいつらの諦めの悪さはよくよく知っていたつもりだが、こんな時にまで発揮されるとは。還るのも留まるのもばつが悪くなった。
     何より、終末が呼ばれてからというもの、彼女が唇を噛み締めて、非難を耐え、亡骸を悼み、自身に囁かれる絶望を掃ってきたことを知っている。その忍耐を自分が砕いた。そうなっては、三度みたびの別れを告げることはできなかった。
     情けないが、顛末はそれだけのこと。彼女と何かを確かめ合った訳でもない。


    ◆◇


     彼女が夜に庭へ出ていれば、なんとなく行ってやる。ウッドデッキに掛けた彼女はいつもカップを3つ用意している。椅子に掛けて見れば、ランプに照らされたカップにココアが注がれた。
     今日は早く寝るつもりか。などと予想がついてしまう。
    「ヒュトロダエウスが話してくれたよ。星海でエメトセルクがどうしてたか」
    にこにこと笑む彼女を一瞥し、エメトセルクは眉を寄せてココアを一口喉に流した。とろりと舌に残る甘みに気が緩む。
    「やっぱり、話してはくれないか。じゃあ、他の話を……」
    彼女もカップを持ち上げて、空を見ながら考えている。
    「アーモロートでのことを。テンペストへあなたを探しに行った時、古代の人から見学の子供だと思われたんだよ。そういうことはよくあったの?」
    「……議事堂に子供の見学者が入ることはあったな。私は相手をしたことはなかったが」
    そう答えると、彼女はニヤニヤとこちらを覗き込んだ。
    「本当かなぁ? ヒュトロダエウスにも確かめなきゃ」
    「なぜそうなる?」
    「エメトセルクは面倒見がいいから。本当は話したことくらいあるでしょ」
    「私をなんだと思ってるんだ……案内係じゃない」
    苦々しく目を逸らすが、確かに、一度もなかったとは言えなかった。私の様子を見て、彼女は微笑みながらカップに口をつける。
    「その頃、お前は酷い状態だったろう。持ち堪えるとは思わなかった」
    「ほんと、怖かった」
    責め合う訳ではなく、ただ懐かしい思い出を共有するように、言葉を交わして夜が更けていく。穏やかな時間は遥か遠い昔日を想わせた。
     そのうち、彼女はココアを飲み干したまま次を注がなくなる。
    「今日はここまで」
    そう言ってやらないと、彼女は眠るまで話を続ける。彼女は唇を結んでから、「ありがとう」と伸びをして立ち上がった。おやすみと瞼の重そうな顔を和らげる。おやすみと返し、茶器を持ってノロノロと家へ入る彼女を見送る。
     英雄と、その敵、あるいは同志が、望んだ平和な時間を享受できるだけで、身に余る。


    ◆◇


    「それで、奴とはどうなった?」
    忙しい傭兵とオールド・シャーレアンで顔を合わせたので、ラストスタンドで食事をしていた。
    「時々いろんな話をしてる」
    「それで?」
    「それだけ」
    2人共戦士らしい食べっぷりを見せていたが、サンクレッドは目を丸くして手を止めた。
    「そんなことあるか? お前はあんなに泣いて……奴も応えたじゃないか」
    「それだけだよ」
    もぐもぐと食を進めワインを流し込む彼女を呆然と見つめ、サンクレッドは難しい顔になった。
    「今なら、似合いのカップルになれそうだがな」
    彼女は喉を詰めて胸を叩いた。
    「わ、悪い悪い」
    サンクレッドは慌てて水のコップを彼女の前に差し出した。それを一気に飲み干し、ぷはぁと息を吐いて肩を揺らす。サンクレッドが見守っていると、グラスの中のワインも飲み干した。おいおいと眉を下げる。
    「……私の方は幸せだけど……」
    小さな呟きは瓶から勢い良くワインを注ぐ音に消えた。なるほどと男女の機微を知る男は頷いた。
    「俺たちの英雄も、こういうことには可愛いもんだな」
    彼女が複雑そうな目を向けると、サンクレッドはやれやれと首を振った。
    「気の迷いで決意を曲げる奴ではないだろう。俺が言うのも野暮だが、奴にもちゃんとあるんじゃないか? お前といる幸せが」
    彼女の顔がボッと赤らんだのはワインのせいではないだろう。サンクレッドは目を細めると、「いいか、男ってのはな……」と講釈を始めた。


    ◆◇


     今日は彼女とヒュトロダエウスが庭に絨毯を広げて寝転がっていた。
    「……双子座は、もう沈んじゃったかな」
    「そっかぁ」
    頭にクッションを積んで星空を見ている。私が行くと「おかえり」といつもの微笑みに迎えられた。用意されていたクッションを枕に、彼女の隣に四肢を投げ出す。厚い絨毯と芝のやわらかさ。暑くも寒くもない気温が気を凪いだ。
    「大三角形がほら、綺麗に見えるよ。乙女座と獅子座と牛飼い座の」
    ヒュトロダエウスが天を指す。彼女はうーんと唸って示された星を探している。肘を上げて指を鳴らし、彼女の頭上に補足線の繋がった小さな星座を3つ浮かべた。
    「あっ、わかりやすい」
    喜ぶ声にくすぐったく感じる。
    「ホント、ハーデスは器用だね。魔法の扱いは」
    「褒め言葉としてだけ、受け取っておく」
    「いやいや、訂正するよ。今は人たらしでもあるよね」
    「やめろ。仕事でしたことだ」
    彼女はクスクスと笑うと、そっと星座に触れ、ふわふわと動かして空と見比べていた。
    「見つけた!」
    とハグするように宙に腕を広げた。子供のような様子に厭きれた。
    「獅子座といえば、ファダニエルだ」
    「ヘルメス……」
    彼女は天の獅子座に小さな獅子を合わせた。そうして、終末が迫る時の十四人委員会のことなどを話した。古代だけでも現代だけでも払い切れなかった星の終末……。そのフィナーレを見届けられて良かった。生かされていて良かったとは、言わない。
     それぞれ想うことがあるだろう。言葉少なくなり、ちらちらと瞬く星々を仰いだ。風と、居住区のどこかから響く楽器のが聞こえる。
    「わたし……、アゼムじゃない……」
    くぐもった声に隣を見れば、彼女は目を閉じていた。寝言なのか、会話の続きなのか。その奥で仰向いてた紫の眼光と目が合った。空に目を戻す。
    「そんなことは百も承知だ」
    「キミは親友から生まれた素敵な女性だ。確かに魂の縁で巡り会ったのかもしれないけれど、今ワタシとハーデスが傍にいるのは、キミだからだよ」
    彼女は「ううん」と唸った。返事か寝言かわからない。
    「フフフ……じゃ、あとはキミに任せるよ」
    「お前……」と潜めた声を上げる間に悪友は立ち上がって微笑み、次元から消えた。「くそ……」と口の中で悪態をつく。指を鳴らして彼女に軽い布をかけた。気温が下がってきたら叩き起こそう。
     クッションと腕を枕にして、ぼんやりと世界を仰いだ。旧き日にもそうしたことがあるように、エーテルの漂う静かな世界を。
     たまにゆっくり寛げると思えば、いつもそうはいかない。今回もやっと星海で眠れると思ったのに。新たな役は彼女の傍にいること。好きなだけのんびりもできるかと思ったが、さっそくシャーレアンにつかまって人の真の歴史と知識の共有について、あれこれと話し合わなければならない。ガレマールのことも、戻ってきたからには我関せずという訳にもいかないだろう。ああ、厭だ厭だ……。1万2千年も働いて、また新しい仕事が山積とは。
     シャツの脇腹が僅かに引かれた。
    「ん?」
    横向きになった彼女が私の胸の辺りに頭を近づけていた。頭頂しか見えなくて様子はわからない。そのままにしておくと、頭が胸についた。ふと思いついた推測に、悪戯心が湧く。
    「……あー、まずいなぁ。女が傍で寝てしまうなんて……襲ってしまいそうだ」
    彼女の肩がビクと震えた。
     ほう、狸寝入りとは、また愚かなことを。いつからやっていたのだろう。まさか、こんな芝居を打って私に触れてくるとは。
     寄せられた頭にそっと手を置くと、彼女の肩がまた揺れた。髪の感触はぬるい。
     自分の鼓動が確かに高鳴っているのを聞く。
     女になら誰でも、いや、アゼムにならこうしたと勘繰っていやしないか。あれと比べるのは、とっくに厭きたのに。
     肌が冷えてきた。
     いつまでもこうしていたいと思うほど、その時間は長くは続かないものだ。
    「起きろ。もう中に入った方がいい」
    髪をわしゃと撫でて肩をたたいた。彼女は体を竦めて、ゆっくり起き上がった。顔はランプに赤く照らされて、瞳は揺れている。自分も上体を起こし、彼女の頭を見つめる。
    「……ずっといたくなっちゃった」
    小さく零れた声。耳に甘く聞こえるのは、本当は自分が望んでいるからだろうか。
    「ここで寝たフリをするくらいなら、ベッドに招いてくれた方が快適だと思うが?」
    彼女は更に赤くなった顔を戸惑わせた。
    「安心しろ。お前が厭がることはしない」
    彼女は眉根を寄せた。
    「わたしの意思に委ねてくれるのは、嬉しいけど……」
    彼女は膝の上で拳を握った。
    「エメトセルクには、好きなことをしてほしい」
    少し拍子抜けした。
    「もちろん、そうしてる」
    「……面倒なことも請け負ってるでしょ?」
    彼女の瞳が潤んだように見えたかと思うと、項垂れて頭で胸を軽く突いてきた。
    「そのくらいはするさ。生きていく以上、楽ばかりはできないもんだ」
    「そういうとこ……」
    彼女の言葉は小さく消えた。静かに息を抜き、背中を摩ってやる。
    「……そのくらいは引き受けてもいいくらい、大事な時間を得ていると……言わなきゃわからないか?」
    彼女は返事の代わりに私の胸に手をあてた。
     ただ傍にいればいいと思っていた。それだけで充分だ。今この瞬間もそう思うのに、彼女の体温を知って心臓は騒ぐ。
     徐に彼女の頭と手は離れた。つい手を握りそうになった。
    「ありがと……。エメトセルクも冷えちゃうね。今日はここまで」
    いつものようにおやすみと交わした。


    ◆◇


     彼女は数日家で過ごしていた。シトシトと生温い雨が続いている。夜には降っていなくとも庭はジトジト湿っていて、お喋りの時間を諦めていた。
     翌日に再び話していたら、続きのように話せただろうか。寄り添って、言葉を交わして……。
    『服の端でも握ってみろ。よっぽど潔癖か鈍感でなきゃ、悪い反応はしないはずだ』
    サンクレッドに悪知恵を教わって、ついやってみてしまった。ただ触れてみたい。そう思ったら止まらなくて。駆け引きとか、誘惑とか、そんな悪戯のような関係ではないのに。なんだか心の奥が繋がったような信頼感があって、そんな人が傍にいてくれるのだから、充分だ。
     今は頭を冷やすべき期間なんだろう。灰色の窓の外を見て、雨粒が自分の頭を打つことを想像した。
    「おーい、こんにちはー」
    玄関からヒュトロダエウスの声が。喜び慌てて向かう。
    「えっ?!」
    彼の姿に思わず叫ぶ。ヒュトロダエウスは頭からずぶ濡れで立っていた。
    訳を聞く前に傍のチェストからバスタオルを引張り出した。ヒュトロダエウスを抱きしめるようにそれで包む。
    「シャワー浴びて!」
    抱えるようにして風呂場へ連れていった。
    「ありがとう」と笑い声がし、ヒュトロダエウスがバスタオルを解く間にドアを閉めた。


    「晴れ間に用事を済ませようとしたら、この有り様だよ。キミが家にいてくれて良かった!」
    ソファに掛けたヒュトロダエウスはそう笑った。濡れた服は創り直したらしく、綺麗さっぱりに乾いて身につけている。浅紫の髪は解いてタオルを被っている。湯気の立つ紅茶をヒュトロダエウスに出した。いただきますとミルクを点してカップを口につけた。
    「美味しい。ぽかぽかして気持ち良くなっちゃったな。泊まってもいい?」
    彼女は仕方ないなと眉を下げながら、いいよと頷いた。
    「ワタシだけというのもなんだから、ハーデスも呼ぼう」
    彼女は「あ」と眉を寄せた。
    「2人となると寝床が……」
    「おや。スペースさえあれば寝具はなんとでもするよ。ハーデスが」
    彼女は困ったように苦笑した。
    「屋根裏部屋なら広く使えるかな……。布団はあるけど、急には使えないよ」
    「なんだ、それくらいならワタシに任せて」



     家の最上階は斜めの天井に覆われた、天窓のある空間だった。雨音がぽつぽつと窓に降っている。湿気で重みのある布団を2組敷くと、「もう一組あったでしょ」と目敏いヒュトロダエウスに言われて、3組並べることになった。満足そうに笑んだヒュトロダエウスは、「えい」とフラワーシャワーを撒くように腕を広げた。その腕から花火が弾けたように赤と緑の光が布団に降り注いだ。それを2、3度繰り返すと、心なしか布団がふっくらと膨らんだ気がした。ふうと息を吐いたヒュトロダエウスはぼふんと羽毛の海に飛び込んだ。
    「うんうん、上々だ」
    彼女もヒュトロダエウスを真似た。
    「わあ、すごい」
    日光の香りと心地好い肌触りに四肢を滑らせる。陣地を取り合うように、あるいは譲り合うように手足を動かした。
    「子供じゃあるまいし……」
    と悪態が聞こえた時にはぐちゃぐちゃの掛布団に2人大の字で目を閉じていた。



     3人は布団に寝転んで、暗闇から降る雨粒を見上げた。ランプの薄明かりが天井に揺れている。
    「これなら、天気が悪くてもお喋りできるね。次元の狭間で寝るのは味気ないしね」
    「お前が注文つけるから、いろいろ創ってやったはずだが」
    「例えば?」
    「何かの記事で、モテ男にはバラ風呂がマスト! とか見てね」
    彼女はエメトセルクに顔を向けた。
    「バラの匂いなんて……」
    「私は入ってない」
    「キミんちのお風呂もバラ風呂にしない?」
    彼女はふふと笑って少し考えた。
    「エメトセルクが創るバラのお風呂は、ちょっと興味あるかも」
    「おい、軽率なことを言うな。やらないぞ、私は」
    「じゃ、ワタシお風呂入りに帰る」
    体を起こしたヒュトロダエウスを、2人は間を空けて「は?」と見上げた。悪友は企みを果たしたという満面の笑みを浮かべ、手を振って消えてしまった。思考の止まった2人は呆然と天井を見る。
    「……戻ってくるのかな……」
    「……来ないな、あれは」
    隣でエメトセルクがハアと溜め息をつくのを、彼女は急に高まった鼓動の合間に聞いた。
     エメトセルクは特に動く気配がない。掛布団の上に横になっている彼は、枕と腕を頭に敷いて足を組んでいる。大きな裸足が揺れている。無性に気恥ずかしくなった。彼のあまり見ないところの肌を見てしまったと。
    「布団で寝たことはある?」
    どぎまぎする気持ちを紛らわせたい。
    「ないな。東邦にも何度か視察に行ったが、布団を使う機会はなかった」
    「そっか……」
    気の利いた言葉が続かなくて、雨音だけを聞く。
    「眠れそうにないか?」
    見透かされたように。
    「う、うん……」
    「今日は寝たフリはしないのか」
    気まずくエメトセルクを見ると、目が合ってにやりと口端を上げた。
    「またしてもいいんだぞ。悪戯されても構わないなら」
    「悪戯? そんなことしないでしょ?」
    エメトセルクはむっと片眉を歪めた。
    「どういう意味だ?」
    「この前だって……頭を撫でてくれただけだし……」
    言いながら顔が熱くなった。
    「あのなぁ」と苛立ちのある声を吐き、エメトセルクはわたしを檻に捕らえるように腕を突いて覆い被さった。金の瞳が苦しげにわたしを見下ろしている。
    「寝たフリなんて、体を差し出してるようなものだと考えなかったか?」
    「エメトセルクは、わたしが厭がることはしないんでしょ?」
    「当たり前だ。だが、お前が差し出したなら別だ。同意と受け取れるんだからな」
    「じゃあ、この前はどうして……」
    「別に、襲いたいと思ってる訳じゃない。私は……」
    エメトセルクは言葉を切った。目を伏せて、隣に仰向けに倒れた。
    「私のことはいい」
    溜め息と共に吐き出された。
    「エメトセルクのこと聞きたい」
    エメトセルクの瞳に射竦められてドキドキと興奮したままに、彼の胸に擦り寄った。厚くてあったかい。
    「もしエメトセルクがその……あの……したいことがあるなら……わたしでいいなら、叶えたい」
    「私がやりたがってるように言うのは止せ。お前にその気がないなら、絶対に触らない」
    エメトセルクは腕を組み、わたしを撥ね除けるように背を向けた。
    「拗ねてる?」
    「違う」
    堪らなくなって、エメトセルクの大きな背中に抱きついた。ごつごつした体を自分の体で包みたい。
    「わたし、エメトセルクが好き」
    背中に向けて呟く。雨の音が大きくなったような気がした。背中はあたたかいまま、動かない。
    「お前が好きだ」
    背中の向こうから、まるで文句のように聞こえた。声色と言葉の意味が錯綜する。心が締めつけられたように、思考が止まってしまった。
    「ほんとに……?」
    「疑う余地があるか。そうじゃなきゃ、お前の傍にはいない」
    締めつけられて軋んだところから痛みが、喜びが滲んでくる。
    「わかったら離れろ」
    反射的にエメトセルクの背中にしっかりとくっつき、腕を胸にまわした。
    「嬉しい。エメトセルク」
    「離れろと言ったんだが」
    「やだよ。離れないとどうなるの?」
    ぐる、とエメトセルクの体が捻られ、こちらに向くと腕に拘束された。エメトセルクの体に押しつけられる。
    「お前が死んでも離さない」
    わたしはくすぐったいような笑いが零れて、エメトセルクをぎゅうと抱きしめ返した。



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