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    名無し

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    名無し

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    二年+棘乙

    乙骨憂太誕生日ネタ2021時は3月7日。
    東京都立呪術高等専門学校昼休憩。

    「~♪」

    乙骨は早く昼食を終えて、誰もいない教室の自分の席に座っていた。がさごそと机の中を探り、お目当ての物を取り出す。
    取り出されたそれは、青いビニール製の袋。

    「さてと…。」

    乙骨は一度辺りを見回し、再度誰もいないことを確認すると、その袋から更に小さな銀の小袋を取り出した。
    頑丈にとめられている小袋は封がとても固く、中々開く気配がない。仕方なく左右に引っ張り強引に破くと、中に入っていた物が勢いよく飛び出した。

    「うわっ、危なっ!」

    何とか落ちきる前にキャッチしほっと安堵する。改めて手の中の物を見ると、自然と笑みが溢れた。

    「…可愛い…。」

    乙骨はそれを机の上に置き、青い袋から更に小袋を2つ取り出すと今度は丁寧に開ける。
    中身を先程の物の横に並べた。

    「…へぇ、結構特徴捉えてるんだな…。」
    「憂太何やってんだ?」
    「うわぁっ!」

    突然背後から気配もなく現れた真希に対して、乙骨は机を背にし、真希からそれが見えないように体を動かした。

    「何だよ、何隠してんだ?」
    「隠してません!」

    乙骨は真希と攻防しながら、後ろ手に机の上の物を取ろうとした。だが先に真希の方が素早く動きそれを取ると、自身の目の前にぶら下げる。

    「なっ、お、お前、なんだよこれ…!」
    「違うんだ真希さん!これは、その…!」
    「真希、憂太、どした?」
    「すじこ?」

    だめ押しとばかりにパンダと狗巻がひょっこりやって来て、乙骨は反論する事も出来なくなり、ばつが悪そうに俯き目を反らした。
    真希が驚いたのも無理もない。乙骨がばつが悪くなったのも無理もない。

    乙骨が眺めていたそれは、同級生である狗巻、パンダ、真希の形を模したアクリルキーホルダーだったのだから。

    パンダと狗巻もそれを確認し、乙骨の方に顔を向けニヤリと笑う。

    「なんだよ憂太~そんなに俺達が好きか~?」
    「たぁかなぁ~?」
    「うん。」

    乙骨は顔を青くしながらも即答した。だが、いくら友達とはいえ、自分の姿をしたキーホルダーを持ち歩かれるのは流石に嫌だろう。

    「やっぱり、気持ち悪いよね…。」

    ちらりと二人の方に視線を向けると、何故かパンダと狗巻は目頭を押さえながら天を仰いでいた。

    「気持ち悪いわけあるか!良いに決まってんだろ憂太!」
    「しゃけしゃけしゃけ!」

    うぉおおおお!と叫びながらパンダは雄叫びをあげた。狗巻は叫びはしないものの、パンダと同じリアクションをしている。心なしか、二人が泣いているようにも見えた。
    想像と違うリアクションに呆気にとられていると、真希が持っていたアクリルキーホルダーを乙骨の前に突き返した。

    「も、持っとく分は良いが、あんまり外に持ち歩くんじゃねぇぞ!」
    「は、はい。」

    乙骨は恐る恐るそれを受け取り、大事そうに袋へ戻した後机の中にしまった。

    「でも、どうしたんだそれ?」
    「実はね、五条先生が僕の誕生日に、ってプレゼントしてくれたんだ。」

    乙骨の発言で三人はピタリと固まった。
    乙骨は何事かと首をかしげていると、三人は壊れた機械のようにギギギッと首を動かし乙骨の方を向く。後にパンダがこれまた壊れた機械のように尋ねた。

    「…憂太サン?オ誕生日イツ?」
    「今日だけど。あれ?言ってなかったっけ?」
    「「はぁぁぁ!?」」

    三人はほぼ同時に乙骨に詰め寄った。

    「「言ってねぇよ!」」
    「おかか!おかか!」
    「え、ご、ごめんなさい!」





    「というわけで、憂太欲しいもん言え。」
    「高菜。」
    「って急に言われても…特には…。」

    席に座らされている乙骨は、ちらりと目の前にたたずむ三人を見た。
    真希は眉間にシワを寄せ、狗巻は不機嫌そうにこちらを見下ろし、パンダは…判断しにくいが顔をしかめているのは分かった。
    端から見ればプレゼントを聞く顔ではない。

    「とりあえずケーキがいるな。誰か悟に買いに行かせろ。」
    「なんで五条先生!?」
    「私達に憂太の誕生日内緒にしてたんだから当然だろ。自分だけちゃっかり準備しやがって。」
    「しゃけ。」
    「うぅ…。」

    (五条先生ごめんなさい。)
    と乙骨は心の内で謝った。

    「で、何がいる?」
    「…う~ん…。」

    流石に今の今欲しい物、と言われても乙骨はぱっと思い浮かばなかった。でも友達が用意してくれると言ってくれるなら、と何か捻り出そうとしていると、

    「物がなけりゃ、お願い事でも良いぞ。」

    と、パンダが助け船を出してくれた。

    「お願い…か…。」
    「ツナマヨ。」
    「おっ、反応が変わったな。」
    「何かご希望があるか?」

    最近少し気になっていたことだったが、果たして伝えて叶うのだろうか。ダメもとで良いや、と思い乙骨は三人の目を見ながらお願い事を口にした。

    「今日、皆で夕御飯食べたい。」
    「へ?」
    「それだけで良いのか?」

    もっと何かないのか?と言ってくれたものの、正直これは乙骨がやりたいことでもあった。

    「うん。だって最近、皆任務が入って一緒にいれる事なかったから。」

    だめ?と乙骨は無意識に上目遣いで尋ねる。
    すると瞬時に三人は険しい顔をして向き合った。

    「えっ、あのごめん。やっぱり難しい…。」
    「今日任務あんの誰だ?」

    真希はスマホを取り出しスケジュール表を開く。
    どうやら今日の予定を確認しているようだった。

    「俺はこれから行くけど、そんなにかからないと思う。」
    「…高菜……こんぶ。」

    狗巻は少し険しそうな顔をして答えた。
    あの彼がそんな反応をするという事は、ちょっと厄介な任務なのだろう。

    「よし。悟にケーキ買わせるついでに棘の任務に付き合わせろ。」
    「へ?いくらなんでもそれは…。」
    「やらせるんだよ。棘、パンダ行ってこい。」
    「しゃけ!」
    「了解!」

    二人は真希に敬礼し教室を後にした。
    乙骨は真希へ視線を向けると、彼女はスマホで何かのサイトを見ているようだった。本日の特売!という文字と、続けて野菜や肉の写真が見える。

    「さて買い出しいくか。夕飯何が食いたい?」
    「えっ、もしかして真希さん作ってくれるの?」
    「お前が食いたいもんが作れりゃ作ってやる。『何でもいい』以外で答えろ。」

    先手を打たれてしまった。乙骨の性格を分かっている。

    「…はい。それじゃあ…。」



    「「「いただきます。」」」
    「しゃけ。」

    夕刻、真希の部屋。
    私物である真希の炬燵に入った四人は、ガスコンロの上でぐつぐつ音をたてている鍋を囲っていた。
    真希が蓋を開けると大量の湯気がぼわっと上り、美味しそうな水炊きが姿を現した。

    「お鍋久し振りだな~。美味しそう。」
    「鍋なんて具材切ってぶちこむだけだぞ?」

    真希はお椀に1人分ずつよそいながら配っていく。パンダと狗巻は各々好きな調味料を入れて、黙々と食べだした。
    乙骨も自分のお椀を受け取ると、手近のポン酢をかけて一口食べた。

    「そうだとしても、真希さんが作ってくれたお鍋美味しいよ。ありがとう。」
    「…そ、そうかよ。」

    真希は頬を染め、照れを隠すように自分の分を食べ始める。

    「おっ、真希が照れてる。」
    「高菜。」
    「うっせぇ!つかパンダって鍋食えんのか?」
    「まぁ俺呪骸だし。それに元々パンダは雑食だからな、問題ないだろ。」
    「そんなもんか。」

    ほのぼのと食卓を囲むのも久しぶりだな。
    と同級生達を眺めながら、乙骨も少しずつ食べ進めていると、ふと左隣の狗巻と目が合った。

    「狗巻君美味しいね。」

    と話しかけると、突然狗巻は自分のお椀から椎茸を箸で掴んで乙骨に向けた。

    「しゃけ。」
    「へ?な、何狗巻君急に…。」

    狗巻は驚く乙骨の反応を無視して、箸をぐいぐい口元に寄せてくる。

    「しゃけ。」
    「おっ、主賓へのちょっとしたサービスだな。食わせてもらえよ憂太。」

    パンダの説明で納得した。どうやら食べさせてやるということだったみたいだ。
    乙骨は恥ずかしくて断ろうかと思っていたが、思いの外狗巻がぐいぐい近づいてきて断れる雰囲気にならない。
    観念して乙骨は狗巻に向き直った。

    「じ、じゃあ、あー…ん。」
    「しゃーけ。」

    乙骨はおずおずと口を開け、狗巻はその口に椎茸を入れた。仄かに辛いのはもみじおろしを入れているのだろう。

    「…うん、美味しい。」

    狗巻はぱぁっと、目を輝かせ嬉しそうに微笑んだ。
    その姿を見てか乙骨の向かいにいるパンダも、自分のお椀から豚肉を掴んで乙骨に向けた。

    「じゃあ俺からも。」
    「も、もう大丈夫…ありがとう。」

    流石に二回は…と丁重に断ると、パンダはガーン!とショックを受けた声を出した。炬燵から出て部屋の隅で丸くなる。

    「何だよ、棘からは良いのに俺からじゃだめなのか?パンダだからか?落ち込んじゃうぞ…。」
    「そんな事ないよ!じゃあ、いただきます。」

    乙骨がそう言うと、パンダはキラキラした目をして戻ってきた。うきうきと先程の二倍程の量の豚肉を掴み、鍋越しに乙骨へもってくる。

    「そうかそうか、どうぞ召し上がれ。」
    「ちょっと、それは多い…。」
    「はい、憂太サンあ~ん。」
    「んぐっ!」

    パンダは有無を言わさず乙骨の口の中に突っ込んだ。要領を越えた量に、乙骨の頬は頬袋を膨らしたリスのようになっていた。

    「そんじゃ真希からも。」
    「んんっ!?」
    「あ?私は別にいいだろ。」
    「食わせてやれよ、今日の主役だぞ。」

    乙骨は、もういい!というリアクションのつもりで手を振った。だが、三人共そんな乙骨を無視して話を進めていた。

    「…ちっ。ほら、憂太食えよ。」

    乙骨は急いで噛みきろうとしたが間に合わず、真希は右側から一口では入りきらないくらいの白菜を掴んでいた。

    「ひょっと、まだ、くち…。」
    「良いからさっさと食え!」
    「んぐっ!…んんっ!」

    全て飲みきる前に追加で物を入れられ、乙骨の頬は先程以上に膨れ上がった。

    「ふふっ、あははは!あはは!」
    「ゆ、憂太、酷い顔にっ!わはははは!」
    「しゃけしゃけ!」
    「み、みんな、ひどいよ…。」



    「さて、おまちかねの登場だー!」
    「高菜ー!」

    水炊きを四人で綺麗に食べ、締めの饂飩までしっかり食べきり、空っぽになった鍋を下げた真希は台所からホールケーキを持ってきた。
    生クリームと苺のシンプルなケーキ。だが、中央に敷き詰められている苺の並びがとても綺麗だった。
    自分の年齢を型どった蝋燭が差されてあり、火が付いている。

    「わぁ…美味しそうなケーキだね…!」
    「悟が覚えのある中でも高級かつ美味いやつにしてもらったからな。財布も悟持ちだから気にするな。」

    そういえばケーキは五条に買わせろと言っていたが、本当に買わせていたとは思わなかった。

    「良いのかな…?」
    「良いに決まってんだろ。気にすんな。」

    真希はケーキを乙骨の前へ置き、部屋の明かりを消して先程いた場所へ座った。

    「誕生日おめでとう憂太。」
    「おめでとう、これからもよろしくな憂太。」
    「ツナツナ!ツナマヨ!」
    「皆、ありがとう。こちらこそ、これからもよろしくお願いします。」

    ケーキのろうそくを吹き消す瞬間、乙骨が願ったことはただ1つ。
    これからも皆で、笑い合える時間が沢山出来ますように。


    ー終わりー



    ー以下棘×憂太のちょっとした小話になりますー












































    オマケ棘×憂太
    キスは終了済みの清い関係


    突如行われた誕生日パーティーの数時間後。日付が変わる前にと御開きになり、後片付けも早々に全員各部屋へ帰っていった。
    乙骨は狗巻が部屋へ帰る前に呼び止めた。

    「あのね狗巻君。君から誕生日のプレゼントが欲しいんだ。」
    「しゃけ。高菜すじこ?」
    「何で今なのか、は…あ、あの。皆の前だと言いづらくて。」
    「しゃけしゃけ。」

    狗巻は何が欲しいのかと、言っているようだった。乙骨は顔を真っ赤にしながら、意を決し彼に近寄った。

    「ありがとう…。あのね、い、狗巻君の、その…!」
    「…?…っ!?!?」

    乙骨は狗巻の下半身に手をやり、股間をすっと撫でた。

    「こ、これを…ぼ、ぼっくの、な、なかにっ…くだ、さい!」

    狗巻は一瞬目を丸くするも、羞恥で真っ赤になりながら震えている恋人の背を撫でた。
    彼は結婚を約束していた子がいたとはいえ、それは幼少期の話だった。こういう話には初で不慣れなのは知っていた。足早に関係を進めたくて無理をしてはいないか、狗巻はそれが不安だった。

    「…明太子?」
    「ほ、本気だよ!いっぱい調べて、少しだけ、準備したから…!」
    「こんぶ!?」

    乙骨は狗巻の両手を取ると自身の両手でぎゅっと握りしめ、狗巻の目をじっと見つめた。
    先程までの、恥ずかしがっていただけの姿とは違う。真剣な眼差しだった。

    「誕生日に君が欲しい。僕の中を君でいっぱいにしてくださ…んんっ!」

    乙骨が言い終わる前に、狗巻はその口を自身の口でふさいだ。そんな熱烈に誘われるともう手加減できる気がしない。

    「しゃけ。ツナマヨ。」
    「うん、好きだよ。大好き…狗巻君。」

    今度は乙骨からそっと口付けた。
    その後どうなったのか、翌日幸せそうに登校した二人の顔で明らかだろう。
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