彼シャツ『彼シャツ』
それは名前の通り彼氏のシャツ。恋人との生活の、ちょっとしたスパイスにも使える手段のうちの一つだ。
ネットの意見その一、だぼっとした洋服を着た恋人は可愛い
ネットの意見その二、ちらりとはだけた所がセクシーでエロい
反対意見はあるものの、肯定的な意見が多い気がする。(無論ネット調べ)
任務で使用する為の安いYシャツをネットで探していた時、たまたまそれが目に入った。別に僕達の仲がマンネリ化してる訳じゃないけど、狗巻君が喜んでくれるならやってみたい。
そう思ったが早く、たまたま所要で出掛けている彼の自室から、こっそり緑色のYシャツを拝借した。つい先日任務に赴いた時に着ていたやつだ。同時に蝶ネクタイに黒スーツとサスペンダーを着用していたが、彼は子供っぽいから二度と着ないと言っていたな。とても可愛くて似合っていたのに勿体ない。
手に取ると、柔軟剤と狗巻君のいい匂いがふわっと鼻を擽った。これを身に纏ったら抱きしめられてる気分になれそうだな、と思い袖に腕を通したのだが。
「き、きっつ…!」
サイズが小さかった。
本来女性が男性のシャツを身に纏う事が発端な為、体格より大きいのが鉄則だ。が、如何せん男同士のカップルである僕達。さらに恋人より逞しく成長した僕は、彼のサイズだと袖を通す事で精一杯だった。胸元のボタンは、どの場所もかけることは出来ない。鏡で見てみる全身像は、とても魅力的とは言い難い。とてもじゃないけど、見せられるものではなかった。
喜ばせる事を諦めて脱ごうとした、時だった。
「ゆーたぁ!たーかー…!」
「あっ…。」
「…な…。」
扉が勢いよく開かれて、今会いたくない人が沢山のお菓子を抱えて現れた。
狗巻君は目を丸くして、お菓子を床にぼとぼとと落としていく。二人揃って微動だにせず、気まずい空気が流れる。
僕の目から見える狗巻君は、少なくとも喜んではいなさそうだった。喜ばそうとした行動だけど、かえって気分を悪くさせたかもしれない。
「ご、ごめんなさい勝手に着て…!そ、 その、あの…!」
「…。」
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!すぐ脱いで返すから…あ、あれ、脱げない!何で…!」
無理矢理袖を抜こうとしたが、冷や汗が布に張り付いて肌にピッタリと張り付いてしまったらしい。それでも脱ごうと袖を思い切り引っ張った。
それはビリッと嫌な音をたて、音が部屋中に響く。恐る恐る腕を見ると、縫い目に沿って布が破れていた。
「ぎゃぁあ!破いちゃった!」
「…。」
慌てれば慌てるほどシャツは嫌な音をたて、緑の布から汗ばんだ肌が現れる。混乱しながら、それでも焦って脱ごうとする僕を、狗巻君の手が制した。
「おかか。」
もういい。と言ってくれたようだった。申し訳無さがじわじわと込み上げてくる。
「…ごめん、シャツは弁償するね…いくらした…うわっ!」
突然狗巻君は僕を横抱きにして、そのまま自分のベッドに転がした。起き上がろうとした僕の腕をベッドに押さえ付け、馬乗りになってこちらを見下ろす。スヌードをゆっくり下ろし呪印を舌で舐め上げた。薄紫色の瞳に欲情の熱がこもる。
「すじこ。」
「え?ええ?あの、いぬまき…ぁっ…。」
シャツの上から敏感な所を撫で上げられて、あられもない声が漏れた。お腹にぐんっ、と固さをもったモノが擦り付けられ、嬉しいと同時に何処に刺さるものがあったのか疑問に思う。
まぁ、喜んでもらえたみたいだからいっか。