「貴方は何をやっているのですか?」
「…すみません。」
「貴方が崖から落ちて怪我をした。と伝えられた時の自分の気持ちが分かりますか?その理由が、色違いのマメパトを追いかけていた。と聞いた時の自分の気持ちが分かりますか?」
「……返す言葉もありません。」
半袖半ズボンから守られてない肌に大量の擦り傷を作り、左足首は治療として包帯を巻いてもらっている。そんな僕はリーグの控え室にある備え付けのソファに座り、見下ろされているアオキさんからの棘のある言葉を俯いて受け止めた。
僕がボロボロになっている理由はアオキさんの言った通りだ。しかも過去に似たような理由でナッペ山の崖から落ちた事がある。落ちた距離が短かったのと雪が幸いしたのか、軽い打ち身程度で済んだけど。あの時も真顔でこっぴどく怒られ、周囲に気を付けるよう念を押されていた。
チラリと様子を見ると、あの時と同じ顔でこちらを見下ろしているが、眉間に皺が寄っている。これは相当怒っている。
「すみませ」
「もう貴方から反省の言葉は聞きません。」
アオキさんらしからぬ強い言葉に、胸がずんっと重くなる。言うことも聞かず心配ばかりかける子供など、恋人として飽きられてしまったかもしれない。
そう思っていた僕の腕を取り、アオキさんは突然戸惑いもなく擦り傷に唇をつけた。
「なっ、何を!?」
「…苦い。」
「消毒液塗ってもらってるので」
「…他は?」
腕を上げられ、二の腕の内側にあった傷と、反対の腕の擦り傷にそれぞれ唇を当てられる。僕の軽い抵抗は力で抑えられ、対象は足の傷に向かっていった。
「やめっ…!」
「嫌です。自分の言うことを聞かないのなら、貴方の言う事を聞く必要性を感じません。」
太腿から脹脛へ、傷ついた箇所には一つ残らず唇を付けるアオキさん。何故こんな行動を取るのか分からないまま、されるがままに身を任せた。それが左足首に触れた瞬間、ピタリと止まった。
「…心臓が止まると思いました。」
「えっ?」
「貴方が、二度と目を覚まさないような怪我を負ったのではないかと、頭が真っ白になりました。」
包帯の巻かれたそこには、数秒唇を押し付けられた。
「…自分は怪我を治療する術は持っていません。だから、傷付く貴方を見るだけしかできない事が歯痒い。」
「…はい。」
「…本当に気を付けてください。お願いします。もう、こんな思いは沢山です。」
「アオキさん…本当にすみま」
僕が言い終わる前に視点が変わり、体が倒されソファに押し付けられた。その上に馬乗りになり、アオキさんはこちらを再度見下ろしている。いつも覇気のないと言われている顔が、悲しそうでもあり、楽しそうに見えるのは気の所為だろうか。
「と、言った所でどうせ守れないのですから、別の方法を考えました。」
「別の、方法?」
「はい。今日から貴方には怪我を負う度に罰を受けてもらいます。」
「ば、罰?そ、それはいったい…。」
「それは…。」
アオキさんの手は自身のスーツのボタンを外し、勢いよく脱いで床に投げ捨てた。呆気に取られている僕を他所に、今度はネクタイに手をかけ始める。
「抱き潰します。それこそ動けなくなるくらい。」
「だ、だき…!?…」
「これから同じような事をするとどうなるか、しっかり体で覚えてください。」
「い、いや、あの、何故そんな事に…?というか、ここ、リーグで…。」
「開始します。安心して下さい、暫くここは人払いをしてますので誰も来ません。」
アオキさんのネクタイが解かれ、スーツの方に飛んでいく。それを横目に罰を受ける覚悟を決め、シャツを脱がそうとするアオキさんに口付けた。
その後、言う事を聞かなければ体に覚えさせたら良い。と教えたのはチリさんだと分かった。痛めた足に配慮されつつ、それでもよれよれの体になるくらい抱かれた体を支えながら、余計な事を。と思いながらもチリさんへのお茶菓子を選ぶ僕。だって
「…あの荒々しいアオキさんも、かっこ良かった…。」