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    名無し

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    メイン呪術、最近pkmn、他作品の小説をあげます
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    名無し

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    棘乙

    真ん中バースデー記念校庭での鍛練の時間。
    今日の真希さんの武器は薙刀だ。間合いは拾いが大振りは隙が出来やすい。薙刀の一閃をギリギリでかわし、体勢を崩した所を背後から一本取る。
    …つもりの僕だったが、突如腹部へ痛烈な一撃を喰らってしまった。得物をかわしたことに気をとられ、彼女の蹴りが飛んでくることを予測できていなかった。痛みでうずくまり視線を外したら最後、首に薙刀の刃が当てられる。

    「そこまで!勝者真希!」

    判決を下すパンダ君の声が響く。同時に緊張が途切れ力無くその場に座り込んだ。見上げる真希さんの顔は、若干汗に濡れているものの息も乱さずニヤリと笑っている。

    「今日だけでお前の首、十回は飛んだな。」
    「…はぁ、はぁ、今のは、いけたと、思ったのに…。」
    「一つ一つの動きに満足すんな。一瞬の隙が命取りな事くらいもう分かんだろ?鍛練だからって油断してると死ぬぞ。」
    「も、もう一本!お願いします!」

    鍛練用の武器を構えてもう一度真希さんへ向き直る。だが、突然足に力が入らなくなりその場に崩れ落ちてしまった。

    「あ、あれ…?」
    「三十分攻撃をくらいっぱなしじゃそりゃ持たねぇよ。休憩してこい憂太。」

    審判をしていたパンダ君は、そう言うと僕に手を差し出す。その手をとって立ち上がらせてもらうが、未だに足が震えていて立つだけで精一杯だった。

    「あちゃー…こりゃダメだな。仕方ねぇ、パンダさんの特別サービスだ。」

    パンダ君は僕の腰を掴み、あっという間に肩へ担ぐと、そのまま校庭の端に連れて行ってくれた。

    「ほいよ。元気になったら声かけてくれ。」
    「うん、ありがとうパンダ君。」

    僕を降ろすとパンダ君は真希さんの方へ戻って行き、直ぐ様二人の組手が始まった。
    前より動きを追うことはできている。組手をしても直ぐに不覚をとられることもなくなったし、何十回に一回くらいは相手から一本取ることも出来るようになった。だけど、実践経験がまだまだ全然足りない。

    「もっと、鍛練しないとな…ひゃう!」
    「ツナツナ!」

    突然首筋に冷たい物が触れ、驚きのあまりピクリと体を震わせた。見上げると、狗巻君が『してやったり!』と言ったような顔をして立っていた。手には水の入ったペットボトルを持っている。首筋に触れたのはこれだろう。

    「もう、ビックリして変な声出ちゃったじゃないか…!酷いよ狗巻君…!」
    「こんぶー。」

    狗巻君はむすっとして、『折角あげようと思ったのにー。』と言うと、わざと手の届かない位置にペットボトルを上げてぷらぷらと動かす。
    先程まで動き回っていたので喉はカラカラだ。冷たい飲み物は喉から手が出るほど欲しい。

    「ご、ごめんなさい!お水を恵んでください…!」
    「しゃけー?」
    「…はい、本当に反省してます。」
    「すじこ。」

    ご機嫌になった狗巻君は、にっこりと笑ってペットボトルを僕に手渡した。ひんやりしてとても気持ち良い。
    直ぐにキャップを外して中身を一気に飲み下した。

    「はー…生き返るー。」
    「高菜こんぶ?」

    狗巻君は僕の横に腰を下ろし、僕の顔をじっと見てと問いかける。

    「大丈夫だよ。ちょっと休憩したらまた元気になるから。」
    「…いくら。」
    「心配してくれてるんだよね?ありがとう。でも本当に平気だから…うわっ!」

    大丈夫だ、という前に腕を引っ張られ、その場に仰向けに倒された。
    雲一つない青空が眼前に広がる。

    (そういえば、青空なんていつぶりに見ただろう。空ってこんなに綺麗だったっけ…。)

    ぼーっとしていると頭を上げられ、直ぐに柔らかい物に降ろされた。それが狗巻君の膝だと分かったのは、青空に狗巻君の顔がひょっこり現れたからだった。
    突然の事が重なり状況を整理しようとするも、狗巻君に頭をよしよしと撫でられ、その心地よさに体の力が抜けていく。

    「狗巻君、これは…何?」

    尋ねてみるも狗巻君は答えてはくれず、頭を撫で続けながら口元に呪力を込めだした。考える間もなく、それは言霊となって僕の耳に入り込む。

    【眠れ】

    それは耳から脳内に響き渡り、直ぐに強烈な眠気が襲ってくる。優しく微笑む狗巻君に見守られ、ふつりと僕の意識は無くなった。





    ー棘sideー
    あの日、特級から四級に落とされた憂太は、前以上に強さを求めるようになった。鍛練に任務に積極的に出る姿は、以前の弱々しさを全く感じさせなくなった。
    それは本人の思っている以上に力になっている。だが、同じくらいの疲労が体を蝕んでいた筈だ。
    日に日に痩せ細り、目の下の隈は濃くなっていく。目に見えて分かっていたのに、憂太は無自覚にも休ませる隙を与えてくれなかった。
    呪言がかかったのは、それだけ弱っていた証拠なのだろうと思う。
    頭を撫でる手を止め、目の下の隈を、痩け始めた頬を、慈しむように撫でる。どうか少しでも元気になりますように、と願いを込めて。
    今だけは何も考えず、穏やかに眠って欲しい。

    ーおやすみ、良い夢をー
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