ペパー先輩のお手製サンドイッチが食べれると良い事がある。
昼食をごちそうになり、何気無くテーブルシティを散策していると、目に入ったのは見知った美形の姿。ベンチに腰掛け、長い足を組み、スマホロトムとにらめっこしているのは、恐れ多くも私の恋人だった。
こんな所で会えるなんて!ペパー先輩のサンドイッチありがとう!
私は悪戯心から気付かれないように、そっと斜め後ろから近づいた。何故斜めなのか?チリさんのお顔が見たいから。
「うーん…どないしよ。」
どうやら何か考え込んでるらしい。そんな真剣な所も格好いい。
私は更に距離を詰めて、目隠しをしようと手を伸ばした。
が、
「誰やー?チリちゃんに悪さしようとする子はー?」
「え?きゃっ!」
手首を掴まれぐいっと前に引っ張られる。拍子に前のめりになった瞬間、頬に柔らかいものが触れた。
「何やアオイちゃんやったか~。」
「うぅ…チリさん…いつから気付いて…。」
「自分がここ通りかかった時から。可愛いから様子見とっただけ。」
「…完敗です。」
チリさんはクスッと笑うと、組んでた足を解いて膝をぽんぽんと叩く。乗れということだろうが、流石にちょっと恥ずかしくて首を横に振る。でも、有無を言わさないような笑顔に根負けして、おずおずと膝に座らせて貰った。チリさんの片手は私のお腹に回り、離さないといわんばかりに巻き付く。
見えなくても分かる。私の顔は真っ赤だろう。
居たたまれなくなって、私は別の話題を振った。
「そ、そういえば、チリさんはどうしてここに?お買い物ですか?」
「せや。パーティードレス探しとって。」
「パーティー…ドレス?」
あまり彼女からは想像できない言葉に、思わずイキリンコのように聞き返した。
「明後日地方のリーグスタッフと会食があるんよ。今まで面倒やったから断り続けとったけど、流石に出ろって委員長に言われてな。」
「会食…ごはん…美味しそう。」
「ふっ、自分が気になっとんのはそっちかい。」
かわいー。とチリさんは私の頬にキスをする。嬉しいけど恥ずかしくて、私は慌てて話題を戻した。
「で、でも、それがパーティードレスと何の関係が?」
「その会食な、ドレスコード必須やねん。パーティードレスはそない着んから、ちっとでも安い店探してここに来たんよ。」
「そんな!チリさんには素敵なドレスを着て欲しいです!高いなら私がお金出します!」
「何子供が阿保言うとんねん!それくらい出せんほどチリちゃん貧乏ちゃうよ!勿体ない思うただけや!」
ほんまやで!と言うチリさんを他所に、私の脳内は華やかなドレス姿のチリさんで埋め尽くされた。
チリさんらスタイル良いから、ふわっとしたドレスも、ピッチリとしたドレスも絶対似合うんだろう。それできっと、会場で知り合った王子様のような男性と…。
~アオイの妄想~
『美しいお嬢さん、僕の心は貴女に奪われてしまったようだ。』
『わ、私は…。』
『どうか、この手を取ってください。今夜は返さない。』
~終了~
「だ、駄目です!」
「な、何やねん急に!どないしたん!?」
「嫌です!チリさんお願いです、男の人とめくるめく一夜を過ごさないでください!」
「めくるめく一夜って何!?自分がおるのに男となんて何も起こらんわ!」
私は悲しくなって、チリさん胸で涙を流す。
「うぅ…チリさんドレス着ないでくださいぃ…。」
「…ほな、スーツで行くか。ドレスコード必須ってだけで、別にドレスで行けなんて言われてないしな。」
その言葉に、私の涙は一瞬で止まった。そして脳内にはスーツ姿のチリさんで埋め尽くされる。
スーツ姿、絶対格好いい…!きっといつもみたいに、スマートに女性をエスコートして、そして…。
~アオイの妄想2~
『素敵なお方、私のお部屋までエスコートしてくださいません?』
『部屋の前までなら構いませんよ。』
『あら、そんなつれないことをおっしゃらないで。二人で熱い夜を過ごしませんこと?』
~終了~
「だ、駄目です!」
「だから何やねんさっきから!」
「嫌です!チリさんお願いです、女の人と一夜のアバンチュールを楽しまないでください!」
「一夜のアバンチュールって何処で覚えたんや!?せやから、自分がおるのに他人とどうこうならへんよ!」
私はまたチリさんの胸でしくしくと涙を流す。
「うぅ…チリさん…スーツも駄目ぇ。」
「どないせっちゅうねん…。」
うぅ、チリさんきっと面倒だと思ってる…。でも、チリさんが私以外の人に色目を使われるのが嫌だ。
「行かないで、下さい…。私の側にいて…。離れちゃ…嫌、です…。」
「ふーん…。」
思わず出た本心だった。でもこんな面倒臭い私をチリさんが嫌だと思ったら、本末転倒じゃないかな。自分の言った言葉に冷や汗が出て、訂正しようと口を開こうとした時だった。
「あー委員長!明後日予定入ったからキャンセルで!アオキさんにでも頼んでください!ほな!」
チリさんはスマホロトムを仕舞うと、ぽかんとする私にニヤリと笑いかける。
「自分の望み通り、ずぅ~~~っと側におったるよ?ドレスでもスーツでも望むもん着たるから…
。」
そう言うと、私の耳元に唇を寄せた。
「帰さへんよ。煽ったのは自分や。」
「ひ、ひぇ…お、お願いしましゅ。」
こうして私はチリさんとめくるめく一夜のアバンチュールを過ごしたのだった。