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    名無し

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    名無し

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    チリ主♀

    飛ぶ鳥オトす看板娘~検温~「失礼します。チリさん、来ちゃいました。」

    私の姿を見たチリさんは目を大きく見開いた。
    リーグでの用を済ませ、チリさんの顔だけでも見ようと、彼女がいつもいる事務室に立ち寄った。軽い手土産を渡して帰るつもりだったのに、チリさんは無言で私の側に歩み寄ると、腕を引いて室内に引き込んだ。直ぐ様片方の手でドアを閉めると鍵をかける。

    「ど、どうしたんです…んっ!?」
    「…はぁぁぁ……よりにもよって、疲れて限界の所に来るとか間が悪すぎるわ…。誰もおらんし、もっかいキスしたい…えぇか?」

    さっき強引に唇を重ねたくせに、今更トレーナーに置いて行かれたパピモッチのような目でお願いしてくる。本当にずるい。そんなすがるような顔をされたら頷くしかない。
    私は縦に首を振ると、顎を掴まれて噛みつくように唇を奪われた。いつものように口を少し開き、チリさんの舌を口内に招き入れると、貪るように暴かれる。数週間ぶりの激しいキスに腰が砕けそうになった。

    「んっ…チ、リひゃ…はぁ…っ…んぅ…。」
    「……ん?」

    チリさんは突然動きを止めると唇を離してこつんとおでこ同士をくっつけた。目を閉じて何かを確かめるように数秒そうしていると、おでこを離して頬を何度も撫でられる。

    「…少し熱い。」
    「へ?」

    チリさんは部屋の隅にある引き出しから機械を取り出すと、今度はそれを私のおでこに当てた。ピッと音が鳴るとチリさんは機械を見て眉を潜める。

    「37.5か、微熱やな。」
    「…微熱?ですか?」
    「せや。これはもしかしたら上がるかもしれん。リーグの用事は終わったんか?」
    「はい。事務室には皆さんにお菓子と、チリさんの顔を見に来ただけで。」

    私はリュックから手土産のクッキーを手渡す。それを受け取ったチリさんは微笑むと、私の頬にキスをくれた。

    「おおきに、チリちゃんの所に来てくれてめっちゃ嬉しい。でも、今日はもう家に帰りや。宝食堂の女将にはこっちから連絡しとくわ。」
    「分かりました、ありがとうございます。」
    「ほんまなら家まで送りたいけど、今仕事詰まって出られへんねん。かんにんな。そらとぶタクシー呼んだるさかい、寄り道せんと真っ直ぐ帰るんやで。具合が悪くならんでも寝る事。辛くなったらきちんと女将に言うんよ。」
    「ふふっ、はい。」

    お母さんみたいな優しいチリさんに、思わず笑みがこぼれてしまった。不謹慎だとは分かっているけど、心配してくれてとても嬉しい。

    「あ、でもどうして私に熱があると?」
    「ん?口ん中熱かったからそうやろなーって。」
    「く、口の、中…?」

    まさかさっきのキスだけでそんな事まで分かるなんて。そう言えば中途半端に止まってしまったから、思い出すと口が寂しくなってきた。
    私は無意識に唇に触れていた。出来るならもう一度したいけど、風邪か分からない体でキスはしない方が良いよね。
    静かな空間にごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。そちらを見ると、チリさんが熱の籠った瞳をして私を見ている。

    「そない可愛い反応せんといて…。」
    「え?か、可愛い、ですか?」
    「…あかん、小首傾げんのめっちゃ可愛い。何しても可愛い。何処にも帰しとうない。アオイしか勝たん。…しゅき。」
    「し、しゅき!?」
    「っ!?い、今のは何でも、そう何でもないねん!忘れてな!?あ、タクシーやったな!直ぐ呼ぶわ!」

    チリさんは慌てて背を向け、スマホロトムで電話をかけ始めた。そろっと顔を覗き見ようとしたけど、直ぐに背を向けられる。でも一瞬だけ見えてしまった。真っ赤な顔をしたチリさんを。
    それにあのチリさんが、しゅきだなんて。

    「……可愛い…チリさん、ぎゅってしたい…。」
    「っ~~~!もぉ…もぉおっ!」
    「ひゃっ!?」

    私は正面からぎゅっと力強く抱き締められた。胸に顔を押し付けられて、呼吸がしにくくて少し苦しい。

    「もしもし!そらとぶタクシーですか!?至急リーグに来て下さい!今すぐ!」

    それからタクシーが来るまで、私はこの状態を維持させられた。ばくばくと高鳴るチリさんの鼓動に気を取られ、ぽそりと呟かれた一言は私の記憶に残ることはなかった。

    「こんな情けない姿見せんの…アオイだけやねんで…。」
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