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    名無し

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    POIPOI 58

    名無し

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    チリ主♀

    子供それはチリが外回りの仕事から戻ってきた時の事。残った書類を片付けようと事務所のドアを開けた瞬間だった。
    「おねえちゃん!ポピーにもあかちゃんだっこさせてください!」
    「良いですよ。腕を頭の下に…そう上手です。」
    「おねえちゃんのあかちゃん、やわやわですぅ…。」
    チリは動きをピタリと止める。ポピーは今何と言っただろう。
    (あかちゃん?おねえちゃんのあかちゃんって言った?ポピーが言うおねえちゃんはアオイの事やねんな。せやけど、アオイが浮気するなんて考えられん。となるとあの赤ん坊は…)
    「チリちゃん達の赤ん坊や!」
    「えっ、チリさん?どうしたんですか大声出して。 」
    「チリちゃん、しーです!あかちゃんおきちゃいますよ!」
    チリは迷いなくアオイの側に歩み寄り、その体をぎゅっと抱き締めた。2人きりならさておき、子供とはいえポピーの目の前でだ。アオイは軽く押しのけようとしたものの、思った以上にチリの力が強く、離れることが出来ない。
    「アオイ、水くさいやんか内緒にして!別にチリちゃん反対せぇへんで!2人で育てるんやから、せめて一言教えてくれな…!」
    「え?!ち、違います!この子はですね…!」
    「安心せぇ、チリちゃんは四天王やから!アオイと赤ん坊の世話出来るくらいの、金はある!」
    「そんな心配はしてません!私だってチリさんを養えるお金くらい稼ぎます!」
    「アオイ……好き。」
    「私も…じゃなくて!この赤ちゃんは私の赤ちゃんじゃありません!…あっ!」
    「ん?」
    「あら?」
    三人の視線はポピーの腕の中に向かう。先程まですやすやと眠っていたそれは、みるみる悲しげに薄い眉を潜めていく。慌てる三人を他所に、
    「ほぎゃぁぁあ!」
    赤ん坊は、案の定大きな声で泣き始めた。



    「スタッフの赤ん坊?」
    「はい。今産休申請に向かわれてる方のお子さんです。」
    何とか赤ん坊は泣き止み、今はアオイの腕でようやく眠りについた。先程まで大泣きしていたとは思えない程、すやすやと気持ち良さそうだ。
    「そうだったのですね。チリちゃんとおねえちゃんのあかちゃんかとおもいました。」
    「ポピーちゃん、残念ですが私とチリさんから子供は出来ません。」
    「どうしてですか?」
    「「えっ?」」
    「どうしてふたりからあかちゃんはできないのですか?」
    純粋な子供の質問にアオイは頭が真っ白になり、どう説明しようか困惑する。
    「えっと…ど、どうしてと言われましても…。」「どうしてですか、おねえちゃん?」
    追い討ちをかけるようにポピーは尋ねた。助けを求めるようにチリに視線を寄越すと、彼女は少し考えた後、ポピーと目線を合わせるように膝を折る。
    「ポピーちゃん、チリちゃん達から赤ん坊が出来へんのはな…。」
    「できないのは?」
    真剣な空気に、アオイは唾を飲み込んだ。
    「チリちゃん達がカチカチやないからや!」
    「カッチカチ~!?」
    驚くポピーに反論をさせまいとチリはさらに続ける。
    「せや。赤ん坊はなどっちかがカチカチにならんと出来へんねん。ほれ、チリちゃんもアオイも柔らかいやろ?」
    「…おねえちゃんはやわらかいですが、チリちゃんはカチカ」
    「せやせや!ポピーちゃんも大きゅうなったら分かる、なははは!」
    ポピーの頭をくしゃくしゃに撫でて大声で笑い誤魔化すチリ。何やら物言いたげなポピーだったが、運良く赤ん坊の母親が事務所にやって来た。頭を下げる母親に赤ん坊を預けると、最後のお別れがしたいとポピーが母親にお願いする。その光景を一歩離れて見守るアオイの側にチリが寄り添った。
    「あれで良かったんでしょうか…。」
    「まぁ、いずれ分かることやさかい大丈夫やろ。」
    そうですか。と溢すアオイの視線は、すやすやと眠る赤ん坊に向かれていた。
    「アオイは赤ん坊欲しいんか?」
    「どうでしょう。可愛いとは思いますが、無理して欲しいとは思いません。」
    「ほんまか?もし欲しいなら養子を貰ってもえぇんやで?」
    チリの問いかけに一瞬間を置いて、アオイは首を横に振った。
    「…いえ、やっぱり大丈夫です。チリさんと2人で暮らす事以上に、欲しいものなんてありません。」
    そう言ってチリの肩にこてんと頭を乗せるアオイ。少し寂しそうな声に何を思ったのか。
    同性であるが故に決して得られない家族の形。それを大切な人にあげることが出来ない現状。でもお互い手放す事は決してしないし、手放してあげられない。
    チリは何も言わず小さな肩を抱いた。
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