微熱とさざ波「風邪だね」
ピピピ、と機械的な音を立てて、フィガロが文字盤を見せてくる。37.8度。微熱だが、熱を出すのが今日でよかった。いや、世間一般的に見れば今日みたいなめでたい日──元旦に風邪というのはよくないのかもしれないが。俺は昨日までバイトが詰まっていたから、年の瀬にぶっ倒れて迷惑をかけることがなかっただけホッとした。そんな俺の内心を知ってか知らずか、フィガロが言った。
「今日一日休めば治るだろう。良かったね、仕事ない日で」
「ん」
微熱とはいえ基本的に健康体で風邪をひくこと自体久々だから、頭がぼうっとする。悪寒に身震いする身体を起こして、俺はフィガロに言った。
「メシ……作ったの、キッチンに置いてあるから。俺は食えそうにないし、全部持って帰っていいよ」
3222