フィネ+ファ ネロは不調を隠すのが上手い。同じくらい、見えないところでサボるのも上手いのだが。だから、基本的には彼自身の自己管理能力で帳尻を合わせることができる。ただ、ネロは人に頼られることに弱い。他に頼める人がいなくて、なんて弱りきった賢者に申し訳なさそうな顔で乞われれば、己の不調など勘定せず安請け合いをしてしまうのだ。
そうして、ネロが安請け合いをしたのが数日前。食事を終えて、用済みの皿を厨房まで運んだ。いつもならネロが食べ終わった頃を見計らって回収しにくるのだが──厨房にいたネロの顔色は見るからに悪い。全く、どうして誰にも言わないのか……そんな風に呆れつつも、今日の授業は休めと、声をかけるつもりだった。
「ネーロ」
「……うげ」
別の出入り口から厨房に人が入って来る。フィガロだ。ネロは来訪者の顔を見るなり、分かりやすく嫌そうな顔をした。日頃からオズをはじめとした北の魔法使いを恐れている奴とは思えない振舞いに、少し引っかかりを感じた。
盗み聞きはよくないと思いながらもその場で様子を窺っていると、フィガロがネロの頬に手を添えて顔を覗き込んだ。……近くないか? それとも、アレにとってはあの距離感が普通なのか? ……わからないことだらけだ。
「また安請け合いしただろう。顔色、悪いよ。子供たちに心配される前に休んだ方がいいんじゃない?」
「あー……マジか。そんなに顔、ヤバい?」
「少なくとも、ファウストあたりはそろそろ気づくんじゃない?」
いきなり名前を呼ばれてどきりと心臓が跳ねた。なんとなく見てはいけないものを見ているような気がして、静かに立ち去ろうとした、その時。僕の背後でにゃお、と猫が鳴いた。二人の視線がこちらに向く。
「その、……盗み聞きをするつもりじゃなかったんだ」
「…………は」
ちらりとネロの方を見ると、さっきまでとは別の意味で具合が悪そうだ。なんというか、これは……気まずい、のか? 何か言いたそうにしているが、言葉が見つからないのか口をぱくぱくさせるばかりだ。それを見ていたフィガロが楽し気に笑みを浮かべる。
「ねぇ、ファウスト。そういうわけで、ネロは今日の東の国の授業はお休みだ。いいよね?」
「ああ、僕からそう申し出るつもりだったが……」
「それじゃ、ネロは俺が借りるね」
「は? おい、ネロはちゃんと休むべきで──」
「わかってるよ。俺は南の優しいお医者さん先生だからね。ちゃあんと休ませてあげるさ」
そう言ってネロを連れていってしまった。……何だったんだ、一体。