2022/2/20司冬ワンドロワンライ「にゃんにゃんお」「語呂合わせ」「お兄ちゃんっ!とーやくん!見てみて〜!!」
咲希は徐に席を外し、何かを背に隠しながら戻ってきた。
にこにこと可愛らしい笑顔で、隠し持った何かを見せたくてたまらないといった様子だ。司と冬弥は互いに目を見合せたが、検討もつかなかった。司が訊ねると、咲希は待ってましたと言わんばかりにそれを二人へと見せた。
「じゃ〜ん!猫耳カチューシャ!」
可愛いでしょ〜!と咲希は嬉しそうに白と黒の二つのカチューシャを眺めているが、司と冬弥には訳が分からなかった。カチューシャ……?何故猫耳?困惑した二人を余所に咲希は飛び跳ねるような笑顔と声で説明していく。
「昨日ね、かわいいお店で見つけたの!ねこちゃん!もうすぐ2月22日だから、ごろあわせ?でにゃんにゃんにゃんの日、なんだって!」
咲希は持っていたカチューシャの黒い方を手に取って身につけ、くるりと一回転した。とーやくんが来るから!といつもより入念に手入れをしたツインテールが靡く様子は最早どこかのお姫様のようだと司は思った。
「可愛いでしょ〜!」
「すっごく似合っているぞ!!!!!」
「似合っています」
えへへ、と雑誌で見ただろうモデルのポーズを決める咲希。横で声援を浴びせ続ける司。落ち着いているが、リラックスし楽しんでいる様子の冬弥。
誰が見ても微笑ましいと思う空間であった。
しかし、咲希は急にポーズを取ることをやめ、冬弥を呼びかけると、冬弥は戸惑いがちに近付く。
「お兄ちゃんはあっち向いてて!」
その言葉に、これが噂に聞く反抗期か!?と内心で混乱する司だったが勿論顔には出さずに(と言いつつも出ていたが)言われた通り咲希が指さした方向へと顔を向けた。
耳は咲希と冬弥へと向かっているが、二人は小声で話しているのか何を話しているのかはわからず、幼い司は悶々として待った。
「お兄ちゃん〜もういいよ!」
何時間待っただろうかという面持ちで(実際は数分もかからなかったが)司が振り向くと、可愛らしい黒い猫耳のカチューシャをつけた我が妹咲希……の背に隠れようとするが、咲希に背を押されて前に出たのは白い猫耳のカチューシャを身につけた冬弥。普段は白い顔色が、恥ずかしそうにほんのりと赤く染まっていた。
「とーやくん!かわいいよ!自信もって!」
「……え、えぇ……?」
目の前でじゃれつく黒猫(我が妹)と白猫(我が弟のような存在)。あまりの尊さに司は言葉を失った。ここは天国か?天国はオレの家だったか……。最早現実逃避し始めた司だったが、そんな司へと近付く影があった。
「え、えっと……あの、司さん。似合って……ますか?」
これは余談だが、司はこの当時感情が昂った所為でどう答えたか記憶が定かではないらしい。
(懐かしいな。結局あのカチューシャは子供用で、成長してサイズが合わなくなって捨ててしまったんだっけか)
ショーの買い出し中、ふと目に入った猫耳のカチューシャ。様々な色のカチューシャが並んでおり、掲示されているPOPにはカラフルな文字でにゃんにゃんにゃんの日と書かれている。白猫のカチューシャを手に取って思い出に浸っていると、オレの手元を横から誰かに覗き込まれる。
「……司くんはこういうのが趣味だったんだね……!次のショーの演出もこの方向で」
「だーー!!違う!!やめろ早まるな考え直せ!!」
「ふふ、でもどうしたんだい?そんなにそのカチューシャを見つめて……やっぱり……」
「断じて違う!!!!」
「……ふむ、ではつまり着させたい相手がいる、ということだね」
「……な、なぜそれを……!?」
「……まさかとは思っていたが……そのまさかだったようだね」
「る、類!?!?!?嵌めたな!?!?!?おい!!!!!」
「ふふ、何でもいいけど集合を忘れないように、とだけ言っておこうか」
つくづく嵐のような男だと思う。あの聡明な錬金術師にはオレの想いも、その向かう相手さえもバレているのかもしれない。
司はしばらく考えた末、白と黒の二つのカチューシャを手に取って会計へと向かった。