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    @Futa_futa_2222

    ジャンルごちゃまぜ闇鍋。
    カプは全部プラトニックです。
    官能表現に乏しすぎてどう脳内をほじくりかえしても生み出せないので……

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    2022/3/27 司冬ワンドロワンライ「桜」「怪盗」「そろそろ桜が満開だな!」
    「桜……ですか」
    「ああ!近くの公園の桜がすっごく綺麗なんだ!」
    家に来た冬弥に桜の話をするが、冬弥は浮かない表情のまま、俯いていた。また何かあったのだろうか。ピアノの話か、家族の話か。
    「冬弥?どうしたんだ?」
    「その……春休みに入ってから、次のコンクールの練習ばかりしていて……外にはあまり出ていなくて」
    『桜が咲いているのを見ていない』のだと伏し目がちな様子から伝わってきた。
    どうにかして冬弥に桜を見せたかった。けれど冬弥の親は厳しくて、遊びに行くことは許されない。
    司は悩んだ。悩んだ末に司は、普段とは違うショーをやると決意した。

    「我が名は怪盗ツカーサ!」
    ぽかんと目をまん丸にした冬弥。簡易的なマント(ビニール袋で手作り)と、両親から借りた大きな帽子(大きすぎてサイズが全くあっていない)を身につけたオレ。
    一息ついてから、腹の底から冬弥に届くように声を出す。
    「お前は良い子に過ごしている冬弥だな!!頑張っているお前にはこれをやろう!!」
    あたかもマジックのように黒いハットからそれを取り出した。(実際は普通の帽子の中から取り出しただけだが)
    綺麗な三角座りをしている冬弥の前にしゃがみこんで、冬弥にそれを手渡した。
    「司さん……いえ、怪盗ツカーサさん。これは……?」
    それを受け取った冬弥の目はきらきらと輝いて、とある一点を見つめていた。
    「桜だ!桜の、栞だ!」
    「さくら……」
    「冬弥は本が好きだろう?だから、桜を栞にしてみたんだ!」
    冬弥は確かめるかのように栞に咲くその花を指で撫でた。
    ラミネート加工されたそれは花びらの感触もわからないが、冬弥の手のひらの中で、咲き乱れた一瞬を切り取ったかのように鮮やかに咲いていた。
    じっと座ったまま栞を眺め続けている冬弥。気に入ってくれただろうか……と緊張するが、顔を上げた冬弥の表情は明るかった。
    「司さん、怪盗とは人の物を盗む人のことを言うんですよ」
    「ん!?これは……そ、そうだ!盗んだ物だ!桜の木の下に落ちていたんだ!だからオレは怪盗ツカーサだ!!!フハハ!!」
    「……ふふ、ありがとうございます。大切にします」
    冬弥が少し笑ったような気がした。今日も家に来るまでピアノを練習していたのだろう、暗い表情を浮かべていたが、やっぱり、俺 オレは冬弥が笑っている顔が好きだ。もっと笑わせたい。冬弥が悲しまないように。そんな気持ちを込めて作った桜の栞で冬弥が喜んでくれて本当に良かった。
    冬弥の様子に安心した司は、冬弥と向かい合って座り、帽子を横に置いた。
    「この間、桜を見に行ってな、その時の桜で作ったんだ」
    「一面に咲く桜はすっごく綺麗なんだ!次は、冬弥も一緒に見よう!」
    冬弥は、栞に咲いている桜が一面にある景色を目に浮かべて頷いた。その時の冬弥は、オレがこの間見た桜よりも綺麗な笑顔が咲いていた。



    冬が去り、暖かくなり始めた春のこと。まだ肌を刺すような冷風が度々吹くが、道端に咲く植物は風に負けず太陽へと芽吹いている。
    練習のために何度も立ち寄り、お馴染みとなった公園にて、冬弥は公園の隅に立つ大きな樹に目を奪われた。
    「桜か、もう咲いてるとはな」
    「ああ……」
    (すごく、綺麗だ)
    交わした言葉は少ないが、隣にいる相棒もきっと同じことを思っているのだろう。いつもの公園にこんな桜の樹があるとは知らなかった。もしくは、俺が下を向いてばかりでこの景色に気付いていなかったのか。
    心が晴れやかだ。これなら今日も良い歌が歌えそうだ。
    ぼんやりと桜を眺めていた冬弥は、おもむろに鞄を開き、本を取りだした。その中からある物を取り出し、空へと翳した。
    肌身離さず持ち歩いている、冬弥にとってのお守りのようなもの。
    雨風で散ってしまうが故に儚い桜と、冬弥の手の中にある永遠に咲き続ける桜。
    どちらの桜もとても綺麗なものだ。
    桜が散り始める頃には、自分は高校生だ。舞い落ちる桜吹雪に、ひらりと揺れるマントを空目して、入学予定の高校に在学している先輩を思い出した。
    (次の桜は、司先輩とも見れるといいな)
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