バニラケーキとピザ 誕生日。この世に生まれた人が平等に持つ唯一無二で、誰もが特別な1日。
今年の誕生日はサプライズをしてくれる気配はない。
というか、誕生日なのに僕だけ残業だ。残業だ。……なんでこうなった?
今日の重大犯罪課は珍しく平和な1日だったはずなのに。午後から交通課の案件を手伝うことになり、それが思った以上に時間がかかってしまいオフィスでひとり残業することになったのだ。
ウキウキと帰って行ったボスは、セントジョンズへ帰ってきたミアのライブに行くからと言っていた。(やっぱりミアのファンだったのだ。まぁ、気づいていたけどね)
サラは、引き出しに忍ばせている入浴剤を選んでいるところを見たからお風呂に直行なのだろう。
チャーリーは、帰り際に僕のデスクへ来て「誕生日おめでとう」と言ってくれた。
レックスは、僕におやつのオネダリをしてきた。
一人だと仕事が捗るはずなのに今日はやる気がでない。キーボードに伸ばした手を引っ込める。あと少しだとは分かっているのに。
お腹が空いたからかな? 残業と言えばすっかりお約束になったピザだ、スマホでメニューを拡大しながら眺める。マッシュルームって抜いてくれるのかな? 抜いてくれないならもともと乗ってないものを注文しようかな? と思っていたら、ピザ屋が箱を抱えて開けてと扉を揺らしていた。
僕はまだ注文していないので、届け先を間違えたのかな? と扉を開けると
「ジェシー?」
「……? はい」
そう答えると箱を渡された、3箱も。
配達の人がポケットから紙を取りだし、「えーっと、チャーリー、ジョー、サラからです。ていうかひとつでよくね? こんなに食べれます?」
確かに食べられるかちょっと心配だが、笑って誤魔化した。受け取った3箱をテーブルに乗せて一つずつ蓋を開ける。思わず笑いが出た、どれもマッシュルームが乗ってないピザだった。
ひとりぼっちの誕生日パーティか……
椅子に座り直し、ピザを眺めながらため息をつく。しょうがない、楽勝だと思って受けたのは自分だから。
チャッチャッチャッと聞いたことのある音がオフィスに近づいてくる。扉の外を見るとレックスが何か箱のようなものが入った袋を銜えてやってきたのが見えた。
「レックス! どうしたの?」
銜えていた袋を僕が受け取ると、吠えた。
「これ僕に? 分かった、開けるよ」
袋から箱を取りだし、中を覗くと、原型を留めていないケーキだったものが見えた。そっと取り出すと奇跡的にビスケットできたプレートは埋もれずに乗っていた。
〝ジェシー、誕生日おめでとう〟
どこからかレックスがここまで銜えて持って来てくれたのだ。プレートビスケットを半分にして崩れたケーキからバニラバタークリームを掬ってレックスの口に入れてやる。もう半分は僕の口に入れる。
「美味しい」
レックスも同じ気持ちだったらしく大きな声で吠えると、袋の中に頭を突っ込みだした。
「もっと食べたいの?」
レックスが袋から顔を出した時、カードを銜えていた。
「これは?」
〝誕生日おめでとう♡ジェシー! 仕事終わったら残ったピザを持ってチャーリーの家へ来て、みんなで待ってる サラより〟
時計を見た。明日になるまでまだある。今すぐ仕事が終われば僕の特別な日を僕の特別な人たちと過ごすことが出来る。
「レックス、帰ろう!」