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    ろまん

    @Roman__OwO

    pixivに投稿中のものをこちらでもあげたり、新しい何かしらの創作を投稿したりする予定です。倉庫です。

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    ろまん

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    矢後くん誕生日おめでとうのSSです。ワヒロの認可校ヒーロー全員と神ヶ原さん、そして話しませんが指揮官さんも出てきます。
    2021年8月3日にpixivに投稿したものの再掲です。
    お誕生日おめでとう、これからもずっと大好きです。

    YeahGo to the birthday party 遠目に見えるアスファルトがゆらゆらと波のように揺らめき、道路上に大きな水たまりを創り出している。炎天下に浮かび上がったそれ──蜃気楼は、実際のところ空気の温度差により生じた光の屈折が起こした視覚的マジックの産物でしかないらしい。
     果てのない砂漠を彷徨ってようやく見つけたオアシスが自然の作り出した幻想だと判明したとき、人はどんなに落胆することだろう。

     熱せられたアスファルトの上を汗水垂らして歩きながら、久森は朝方見た情報番組のアナウンサーが「本日は、東成都の今年の最高気温を更新するほどの真夏日です」と言っていたことを思い出した。ついでに涼しげなスタジオの様子と汗一つかいていない爽やかな笑顔も思い出し、勝手に恨めしくなる。
     こちらは照りつける太陽の下、都内の安全維持に努めているというのに。この茹だるような暑さはあんまりだ。
     せめてもの抵抗として可能な限り影を踏みながら歩いているものの、この熱気のなかにいてはそれも気休めにすぎない。瞼の上を伝っていた汗が目に入り、酷く沁みた。
     ああ、エアコンが効いた自室に帰りたい。
     鳥肌が立つくらい冷気が充満した部屋で、甘いアイスを食べながら絶賛イベント開催中のゲームをやり込みたい。しかしそう想像すればするほど、肌に刺さる日差しが強く感じられるのはいかがなものか。

     よし、と久森は決心をした。これはヒーロー業務の一環なのだからさっさと未来を視てしまおう、と。そうすればパトロールなんてすぐ終わってしまう。
     だが悲しいかな、それは何度目も久森の脳内で提案され、結局実行には至っていなかった。それには訳がある。今朝久森は、合宿所のリビングにて御鷹に「晃人くん。今日のパトロール、頑張ろうね」と言われたのだ。あのキラキラの笑顔で「パトロール、頑張ろうね」と。
     その一言は、久森に絶大な効力を発揮した。今この瞬間も、勤勉で誠実な御鷹がエリア内をはにかみながら闊歩しているかと思うと、到底自分だけサボるわけにはいかないのだ。
     ただ、熱中症警報も発令されているほどに今日は暑い。指揮官からは身体が第一でありくれぐれも無理しないようにとお達しがあったけれど、しかしだからといって、ヒーローが一日中自室に篭っている訳にもいかない。
     ぐーすかと気持ちよさそうに寝ている矢後を起こすのもいつも以上に億劫だったが、このままサボりを見逃して自分ひとりでパトロールをするのだけは絶対に避けたかった。不公平を許すわけにはいかない。灼熱地獄への道連れだ。

     ……とはいえ、覚悟はして出てきたものの本当に暑い。少しでもこの暑さから気を紛らわすことができやしないかと考えて、久森は矢後に話しかけることにした。幸いにして、久森にはあるひとつの話題が頭に浮かんでいたからだ。

    「あの、」
     口を開いた瞬間、熱気のかたまりが口内に入ってきて少し後悔する。会話をすれば気は紛れるかと思ったが、体感温度が上がってしまうなら元も子もない。しかし開いた口をこのまま閉じるわけにもいかず、そのあとに続く言葉を紡いだ。

    「明日、矢後さんの誕生日じゃないですか?」
    「ふあー……あ?あー、そうかもしんねえ?」

     熱のこもった空気をあんなに呑み込んで口の中が熱くならないのだろうかと疑問に思うほど、矢後は大口を開けて欠伸をした。
    「自分の誕生日くらい覚えててくださいよ……。じゃないといろいろ面倒ですよ?」
    「ふーん、例えば?」
    「うーーん……。書類記入とか?それこそALIVEへの提出書類とか……」
    「……?覚えてねえ」
     そりゃそうだろう。何せほとんどの書類を久森が矢後の分まで書いているのだから。矢後の誕生日を覚えているのはそのせいだ。

    「あーくそアチい……」
     ふいに苛ついた矢後の呟きが耳にするりと入り込む。それは脳内で反響し、ドッと久森を疲れさせた。なんとか暑さと怠さを堪えて取り組んでいたものの、矢後の一声で我慢のストッパーが外されてしまった気がする。
     そしてとうとう久森は、心の中で御鷹に懺悔した。

    「……未来視、使いますね」

     そうだ、パトロールが無事完了したら、アイスを買いにスーパーへ寄ろう。「頑張ろうね」と言ってくれた彼への罪滅ぼしのためにも、少しだけ高級なものを買わなければ。
     そう決意した久森は、冷気の漏れ出るオアシスを求めて瞼を下ろした。


     ◇


     アライブチャットに連絡が入り、一階にある食堂の扉を開けると、テーブルの上にはいつもより豪華な夕食が並べられていた。寮母さんが張り切って用意してくれたらしい。彼女はもう帰ったようで、レンジで温める時間などの簡単なメモ書きが置いてあった。
     部屋を見渡すと、認可代表校のヒーローの半分がもうすでに食堂に来ているようだった。
     今日は月曜日で平日だが、高校生はすでに夏休みに入っている。といっても、夏休みこそ絶好の鍛錬期間であるヒーローたちに休みはあまり関係ない。
     本日は武器種ごとの特訓があり、術式は午前、午後の第一部に迅式、第二部が重式の訓練スケジュールが組まれていた。このようなスケジュールのおかげで、この頃合宿所にはほとんどの認可ヒーローが揃っている状態だ。

     まあ、ここまで揃っているのはそれだけが理由じゃないんだろうけど……と考えたところで、あれ?と久森は首を傾げた。そういえばここにいなければならない人がいない。
     きょろきょろと見回すと、テーブルの下から不自然に足が出ていることに気づいた。近寄って椅子の隙間を覗き込むと、やっぱり。そこには本日の主役である矢後が寝そべっていた。
     久森が矢後をどうするべきか迷っていると、そこに斎木が駆け寄って来た。

    「久森。悪いが矢後さんのことを起こしてくれないか?何回か声をかけてみたんだが全然起きないんだ」

     その人が起きないと何も始められないだろう?と苦笑する斎木を見て、久森はとてつもない罪悪感に襲われた。
    「斎木くんの手を煩わせてしまうなんて……。これは風雲児の連帯責任だよ、本当にごめんね」
    「い、いや。どう考えても久森に責任は全くないと思うが……?」
     二人で話していると、そこへ武居と志藤もやって来て矢後の周りを囲んだ。
    「おい久森、このバカどう起こせばいいんだ?コイツが自力で起きるまで待ってたらメシ食うより先に日付変わっちまう」
    「まだ全員揃ってないうちから急がなくてもいいんじゃねえか、と言いたいところだが……矢後だしなあ。久森、申し訳ないんだが……」
    「はい勿論です!全力で叩き起こします!」
    「え?いや、穏便な起こし方を教えてもらえればいいんだが……って、聞こえてないな、こりゃ」

     志藤にまで頼られてしまっては、久森も断るわけにはいかない。まあ、他のヒーロー達に迷惑をかけるわけにはいかないので、元より断るつもりはないのだが。それに、こういう面倒な役回りは自分がやるべきだ。
    「みなさん本当にすみません……!!今すぐこの人を起こしますので……」
     久森は椅子をどかし、矢後の身体を揺さぶりながら声をかけた。

    「矢後さーん!起きてくださーい!」

     しかし案の定、矢後はピクリとも動かない。たまに呼吸が止まっている場合もあるので念のために手を口元に当ててみると、元気な寝息が返ってきた。熟睡しているようだ。

    「まあ、これで起きるわけないよなあ……」
     しょうがない、と久森はキッチンに向かう。
     キッチンでは佐海や御鷹など数人で何かを作っていた。しかも何故か浅桐もいる。途端に出来上がる料理に対してとてつもない不安が込み上げるが、久森は佐海と御鷹という認可ヒーローきっての良心を信じることにした。
     久森も他所の心配をしている場合ではないのだ。さっさと矢後を起こさなければ。
    「佐海くん、そこの鍋とおたま使ってなければ借りてもいいかな?」
    「いいっすけど……。何に使うんですか?」
    「ええっと……猛獣を起こすため、かな」
    「ああ…お疲れ様です…」
     佐海は理由を察してくれたらしい。拝借した鍋とおたまを装備して、準備は完了だ。

    「すみません!うるさくするのでみなさん耳を塞ぐことをお勧めします!」
     リビングに戻ると早々に久森は注意喚起をした。
     そして右手におたま、左手に鍋を持つと、矢後が寝ているテーブルに近づき、しゃがみ込んでそのふたつを思いっきり近づけた。寝相での反撃を受けない程度の距離を保ちながら、おたまで鍋を思いっきり叩く。

     カンカンカンカンカンカン!!!!!

     そしてありったけの大声で叫んだ。こういうとき、合宿所が防音壁で本当に良かったと思う。

    「矢後さーーん!!!起きてくださーーい!!!!」

     叩きながら、はやく起きてくれ、と祈る。
     皆、耳を塞いでいるとはいえ、手でカバーするだけではこのカンカン音は鼓膜を響かせてしまうだろう。
     みなさんうるさくしてごめんなさい、と心のなかで謝りながらも自らの手で騒音を生み出すのは、罪悪感でどんどん精神が削れる。

    「あーー……うる……っっっせぇ……!!!」
     一分ほど騒音を鳴らし続けた頃、ようやく矢後が身を起こした。いつにもまして凶悪な目つきで睨んでくるが、久森はもう慣れたものだ。
    「あー!良かった……!やっと起きましたね」
     とりあえず安堵する。訓練でもないのにどっと疲れてしまった。

     でも、この人が起きたならようやく始まりだ。久森がほっと息を吐いた瞬間、いきなりリビングのドアがバンッと大きな音をたてて開いた。そういえばやけに静かだと思ったらこの騒がしい人がいなかったからか、と気づく。
     飛び込んできたのは、伊勢崎だった。その後ろには透野がいる。

    「勇成!!!!ハッピーバースデー!!!」
    「矢後さん起きてたんだね。ふふ、お誕生日おめでとう」

     相変わらず二人は元気だ。こんなに楽しそうに祝われたら嬉しいですよね、と近くに立っていた三津木が穏やかに笑った。その笑顔に癒される。久森も笑って「そうだね」と返したかったが、残念ながらそれよりも気になるものが目に入っていた。

    「い、伊勢崎さん……それはなんですか…?」
    「えっ、なにって、カブトムシ!!!」

     伊勢崎がそう告げた瞬間、視界の隅で斎木が席を離れ、ドアから一番遠い壁際に張り付くように避難したのが見えた。そう、伊勢崎は右手にカブトムシを捕らえていたのだ。
    「光希と一緒に山で採ってきたんだよなー!」
    「うん、ほんとはクワガタムシも捕まえられたら良かったんだけど、見つからなかったんだ。カブトムシとクワガタムシを戦わせて矢後さんに見せたかった」
    「まーでも、でっかいカブトムシ捕まえられたし!!な、勇成!!」
    「…………」
     肝心の矢後は、どうやら寝起きでうまく反応できないらしい。矢後が伊勢崎と同じように喜ぶとは思えなかったが、本人達が満足しているのだから突っ込むのは野暮だろうな。と、久森がそう思っていると、志藤と武居が現れて食卓のあるリビングにカブトムシを持ち込んだ伊勢崎を叱っていた。いつもの白星の光景だ。

    「でも、これで落ち着いて矢後さんの誕生日パーティが始められ………え?」
     久森が言いかけたまさにそのときだった。

     ブイイイイ……ブイイイイ…

     いきなりキッチンの方からエンジン音のようなものが聞こえてきた。この音には聞き覚えがある。嫌な予感がしてキッチンの方を見ると、霧谷がこちらに向かって全速力で逃げてくるではないか。霧谷の背後からは、ものすごい勢い飛んでくる味噌汁が見える。

    「う、うわああああ!!!!!」
    「ギャーーーーーー!!!!!!」
    「どわああああ!!!!!!」

     一気に場が騒然とする。
    「誰だあんなモン作った奴は!?俺には一人、見当ついてるがなあ!!!」と、武居の叫びが聞こえた。

     味噌汁の勢いは、止まらない。霧谷は抜群の運動神経でこの狭い部屋を走り回っているが、もうすぐ追いつかれそうになっていた。もう駄目か、と皆が思ったとき、間一髪。味噌汁が動きを止めた。
     かと思えば、ターゲットを変更したらしい。次は矢後に狙いを定めてすごい勢いで迫っていた。

    「矢後サン!!!!逃げて!!!!!」

     霧谷が矢後に向かって大声で叫ぶ。
     このままぶつかったら味噌汁の中身が全部矢後の身体にかかってしまう。湯気が立ち上っていたし、火傷をしてもおかしくない。
     久森は思わず目を瞑ってしまったが、再び目を開けたとき視界に映った光景に唖然とした。

     さすがの動体視力というべきか、矢後は最小限の動きで味噌汁の突撃をすべて躱していたのだ。あんなに動いているのに溢れていない味噌汁もすごい。何故溢れないんだろうか?

     摩訶不思議な光景を呆然と眺めていると、横から笑い声が聞こえてきた。
    「ヒーッヒッヒ……ちとロマンは足りねぇが、不良にはこれくらいがちょうどいいだろうよ」
    「あ、やっぱり浅桐さんが作ったんですね……」
     キッチンに浅桐がいたのはこれを作っていたからなのだろう。嫌な予感が的中してしまった。
    「うわーー!!味噌汁と勇成が戦ってる!!!すげーー!!!俺も混ぜて!!」
     窓からカブトムシを外へ逃がしたらしい伊勢崎が目を輝かせながら乱入していく。それを、浅桐は笑って見ていた。
    「浅桐。あの味噌汁はどれくらいで止まるように設定したんだ?」
     戸上が冷静に浅桐に問いかける。
    「矢後を見つけたらエンジンが止まるまで追いかけるように設定したからなァ……。ま、あと三十時間はあのままってトコか」
    「ええっ!?」
     それだと、今日どころか明日までずっと矢後が味噌汁に追いかけ回される場面を見ることになる。明日も風雲児でパトロール任務が入っているので、それは勘弁してほしかった。
     すると、会話に御鷹と三津木が加わってきた。
    「本当にすみません……」
    「僕もごめんなさい……」
    「え!?何で二人が謝るの!?」
    「……もしかして、あの味噌汁の製作には寿史と三津木も協力したのか?」
    「はい……。作っているうちにいつの間にかどんどん没入しちゃって…」
    「僕も、エンジンを改造するのが楽しくなってしまって……」
    「ヒヒ……良輔は止めてたが、こいつらは変な方向に真っ直ぐだからなァ。あの味噌汁はもうすでに味噌汁(改)の状態だ」
    「味噌汁(改)……!かっこいいね」
     三津木と共にいた透野がビー玉のような透き通った純粋な瞳で浅桐を眺めている。
     久森は「アハハ…」と笑うしかなかった。

     阿鼻叫喚のリビングはもうめちゃくちゃだ。かろうじて志藤、武居、佐海、霧谷のおかげで夕食は守られているものの、いつ食卓に被害が及ぶかわからない。もう救いの神に縋るしかないのか……と久森が天に祈ったとき、リビングのドアが突然開いた。見ると、ALIVEからこちらに来てくれたらしい神ヶ原と指揮官が並んでいる。

    「みんなー!!ケーキ作って買ってきたよー……ってうわああああ!!!」

     ちょうど矢後がドアの方へ走っていたため、味噌汁が間近に迫ってくる光景を見てしまった神ヶ原がケーキの入った箱を落としかけた。
    「何やってるのみんな!?あ、浅桐くん……!!止めて!!!」
    「チッ、センセーが来ちまったんじゃしょーがねえな」
     浅桐が名残惜しそうに手元にあるリモコンのスイッチを押す。ようやく味噌汁の攻撃が止まり、そこにいた全員が心から安堵した。
     救いの神とはまさしく神ヶ原のことだったらしい。
     そこへ、場違いに暢気な声が響く。
    「あれ、もー終わんの?」
     どうやら、矢後の眠気は味噌汁のおかげでようやく吹き飛んだようだった。


     騒ぎが沈静化した頃、ようやくパーティーが開始できることになった。
     しかし、頼城の帰宅が遅れるということでまだ全員は揃っていない。先に進めておいてくれ、とは言われていたが、パーティーと名のつくものに一番ふさわしそうなキラキラした人がいないのは、やはり物足りない。
     食卓の真ん中に置かれたホールケーキに神ヶ原と指揮官がろうそくを刺していく。ショートケーキとチョコレートケーキの二種類を買ってきてくれたらしい。これは吹き消すのが大変そうだ。

    「あれえ!?いちごの数を数えたら全部で十六個だ!頼城サンも入れたら一個足りないよ。こういうときいちごを食べられないあぶれ者の役回りには、やっぱり底辺のボクがふさわしいよねえ!?」

     突然、およそこれからお祝いという雰囲気とは思えない発言をしたのは北村だった。すかさず佐海の突っ込みが入る。
    「またお前はそんなこと言って……。俺の分はいいから北村が食べろよ」
    「おや、佐海ちゃん!さすが慈悲深いなぁ!!」
    「倫理、俺の分もやるぞ?」
    「ありゃま、正義くんまで?やめてよ、施しなんていらないよ!」
    「柊。俺の分のいちごいるか?」
    「え…いいの?巡くん。じゃあ……頂きます」
    「ほら、霧谷も斎木からもらってるだろ?」
    「うへぇ〜……」
     結局、いちごをめぐった言い合いは、指揮官が遠慮したことで決着した。ただ神ヶ原が一粒を二つに分け合うと申し出たので、誰か一人が食べられないなんてことにはならないだろう。

     これでいよいよ誕生日パーティーらしいことができる…と思ったとき、再び大きな音が部屋にこだました。

     バラバラバラ…

     いきなり外からプロペラ音が聞こえてきたのだ。カブトムシを逃してから閉じていたはずの窓も、いつの間にか開かれている。
     「ああ……」とラクロワの2人が額を押さえた。

    「はーっはっは!!!全員揃っているか!?」

     高らかに笑いながら窓から飛び込んできたのは、キラキラオーラに包まれた頼城だった。
    「うわ、くそうるせーのがきた……」
     矢後が眉を顰めた。しかし、頼城は全く怯まずに、満面の笑みを携えてまっすぐ矢後の元へと向かっていった。
    「普段ならばお前のその粗雑な言葉遣いを正すところだが、今日はめでたい日だ。誕生日とはどんな生物でも例外なく祝われるべき日だからな。それに免じて許してやろう!」
    「お前、それが人を祝う態度か?」
     毎度のことながら、二人の間には一触即発の空気が漂う。そこへ、マイペースを崩さない戸上が「頼城、遅かったな」と声をかけた。その見事な手腕に、久森は思わず感嘆してしまう。ああいう風に二人の喧嘩を仲裁できたらどんなに良いか。
    「ああ、少々準備に手間取ってしまってな」
    「準備…?何の準備だ?」
    「それは勿論、この不良へのプレゼントだよ。用意したのは……これだ!!!!」

     そう言って頼城が自信満々に取り出したのは、キラキラにデコレーションされた看板だった。
     頼城の話によれば、看板の文字を書いたのは高名な書道家の方で、装飾はただのガラスなどではなく本物の、価値がある宝石類だという。
    「風雲児生徒の看板嗜好は理解しづらいが、この看板は世界に二つとない素晴らしい出来映えで思わずこちらまで魅了されてしまいそうになったよ。矢後の審美眼を磨くのには十分すぎる代物だ」
    「う、うわあ……」
     久森は若干後退りした。ただ、風雲児の生徒ならば例外なく喜ぶ代物であることは確かだ。風雲児の生徒達はキラキラした派手な、珍妙なものが大好きだから。
     横目で矢後を見ると、やはり目をギラつかせて看板を眺めていた。
    「へぇ……。じゃあそれを手に入れるには、お前を倒せばいいってことだな」
    「はて……なんでそうなる?」
    「あの、頼城さん……風雲児の人たちはなぜか他校の看板を戦果扱いしていて……って、あー……」
     久森が説明しようとしたが、遅かった。もうすでに矢後と頼城は言い合いを始めている。合宿所でもここは皆が集まっているリビングなので、おそらく手は出ないはずだ。そう祈ろう。
     

     結局、パーティーが始まっても騒がしさは留まることを知らなかった。
     ひたすら笑うもの、呆れている者、我関せずと黙々と食事に手を付けている者。それぞれ自由に過ごしながら、それでもリビングを離れる者はいない。
     この大層賑やかな夜は、まるでお祭りのようだった。



     用意されていた夕食を平げ、皆がケーキに手をつけ始めた頃、久森は一人キッチンに向かった。冷凍庫を開けて、昨日のパトロール後にスーパーで買っておいた冷凍カレーまんを手に取る。そして、ポケットに入れていたマーカーペンで、カレーまんを包む袋にメッセージを書いた。

    「『矢後さん、お誕生日おめでとうございます』っと。まあ、これでいいかな」

     数分間レンチンしたカレーまんを手に、久森は矢後のもとへと歩き出した。
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