マスターキーのような男 鍵というものは錠前を開けるために存在しており、大抵は錠前と一対一の関係を築くものだ。
ただ、この世にはマスターキーという鍵も存在する。これは、それ一本あれば複数の錠前を開けられてしまうという代物で、ホテルやマンションの管理人などによって使用される。
朔間零とはマスターキーのような男だった、と薫は回想する。
少し話しただけで理解した。零は、人が心の奥深くに秘めているはずの扉を、いとも簡単に開けてしまえる人間だった。彼に近寄られれば、数多くの人間が心の扉に付いている鍵穴を、「朔間零」という鍵が差し込めるように変形させてしまう。それはもう、コミュニケーションが上手いとか、そういう次元の話ではなかった。
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