かしゃさに 手を動かす。さき、とはさみの音がして、髪の束が床に落ちる。その動作をさっきからずっと繰り返している。
切り落とされた髪は床に流水を描き、まるで何かの生き物のようにも見えた。変なもん憑いてないだろうな、とちらりと頭の隅で考える。髪って人の怨念とか憑きやすいし。まあ、それならこうして切り落とすのは正解なんだけど。
「火車切、髪切ってくれない?」
陽も傾いてきた黄昏時、今日の仕事ももう終わりだという頃、主が唐突にそんなことを言い出した。
「は? 何で俺が……」
意味わかんない。言いかけた言葉を奪うように、主が重ねて言う。
「失恋したから髪切りたいの」
ますます意味がわからなかった。それとこれと何の関係があるというのか。
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