Serenity「簡単な事だと思うけどな」
高いところから、子供の声が降ってくる。
「黙れ。貴様に何が分かる」
せせらぎに足先を浸しながら、ラーハルトが鼻を鳴らす。
初夏の木漏れ日が小川に跳ねて、透明な流れに彩りを添える。
地上のどんな生物もかなわない俊足も、柔らかな水の中では剣呑さを欠いて穏やかだ。
「大好きだったら、大好きだって言えばいいじゃないか」と、また小さな声が言う。
「何の見返りもないのに? 時間の無駄、精神力の無駄だ。よく聞け、クソガキ――俺は、効率に全てを賭けてきた。無駄をそぎ落とし、使命に集中し、いついかなる時にも目標を見失うことは無かった。だからこそ、最速の域に到達したのだ。我が肉体の限界を、至高の感覚を、主君への忠誠を、絶え間なく磨いてきた。脆弱な思念の付け入る隙はない」
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