Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    minareetecco

    @tecconoheyadayo

    pixiv→https://www.pixiv.net/users/82094657

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 19

    minareetecco

    ☆quiet follow

    ばじふゆが足つぼマッサージに行ったお話です。
    ギャグです。
    仲良く悶絶して欲しくて書きました^^

    ・名前ありモブ(店員)が出てきます。
    ・直接的ではありませんが二人が致してるシーンがあるので苦手な方はご注意。
    ・実際のリフレクソロジーとはいろいろ異なりますので、あくまでフィクションとしてお楽しみください。

    #ばじふゆ
    bajifuyu

    ばじふゆが足つぼマッサージに行ったらいろいろバレた話「あっ……ぁ、……それっ…………もぉむりっ……」
     千冬は耐えきれず身を捩って膝にかかるバスタオルをぎゅうっと掴んだ。
    「千冬ぅ……もうヘバんのかよ……さっきまでの勢いはどーしたぁ?」
     場地が額に汗を滲ませながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
    「だっ……て……こんなんだとは思ってなくて……っ……あっ……やっぱむりっ……」
    「無理とか言うんじゃねーよ……もっといけんだろ」
    「場地さんだって……限界な癖にっ……やっ……オレ、もうっ……」
     千冬はバスタオルを握りしめる指にぐっと力を込めた。堪えきれず涙の滲む目で場地に訴える。
    「あっ……むりっ……そこだめっ……うぁっ……ぁ……」
     千冬の体が不規則にビクビクと跳ね、どこでもいいから何とか体を逃がそうともがく腕が背もたれに伸びる。
    「んっ……オレも……もう限界っ……」
     これまで歯を食いしばって耐えてきた場地が、苦しそうに眉間にシワを寄せながらいよいよ限界を伝える。その時、ようやく二人の足裏を支配していた鋭い痛みがフッと遠のいた。


    「お客様、力加減少し弱めましょうか?」
    「お願いしますっ!!」






     久しぶりにどっか行くか、という場地からの提案で、二泊三日でやってきたのは空と海とのどかなサトウキビ畑が視界いっぱいに広がる南の島。
     梅雨真っ只中でここ連日じとじとと肌に不快な生ぬるい雨が続く東京と違って、早々に梅雨明けを果たしたこちらは晴れやかな空が広がっている。灼熱を孕んだ挑発的な青に、もくもくと濃厚な眩しい白。完全に夏の空だった。

     初日は一日ダイビングを楽しんだ。その時の非日常の光景は、二人にとってこれ以上無い最高の旅の土産となった。
     水面下では、太陽の光はいくつもの形を成していた。まるで意志を持ち合わせているかのようにゆらゆらと揺れながら波と戯れる。光と青がすべてを支配する完璧な世界だった。そんな世界で唯一繁栄を許された楽園。見渡す限り花畑のように色とりどりに咲き乱れる珊瑚の群生と、その間をひらひらと舞うネオンのような極彩色の魚達。そこにあるすべてが息を呑む光景だった。
     マンタが見られるスポットで、実際に目の前に現れたナンヨウマンタはとんでもない迫力だった。ゆったりと優雅に海中を浮遊するその巨体に、千冬は興奮を隠せなかった。思わず場地の方を振り返ると、場地も同じように目を輝かせながら何やらよく分からないジェスチャーを送ってきた。残念ながら千冬には伝わらなかったが、興奮を隠せない場地が子供のようにはしゃいで必死に訴えようとする様があまりにかわいくて、千冬はマンタを指さしてから親指を立てると、場地もマスクの奥でニッと笑って親指を立てた。

     そんな感動と興奮のダイビングを満喫して、その夜はホテル近くの居酒屋で、海の青さが半端なかったとか、魚がカラフル過ぎだとか、マンタはマジでやばかったなんてビールを片手に大いに盛り上がった。
     ホテルに戻ってからもまだその興奮は冷めやらず、むしろ今度はじっとりと粘度の高い熱まで帯び始め、そのまま二人きりの熱い夜にどこまでも溺れていったのだ。

     そのおかげで二日目の今日は二人揃って見事に寝不足だった。なので船で離島へ行って一日のんびりと過ごす事にした。
     離島に着くと二人はレンタルサイクルをして昔ながらの建物の残る風景の中を颯爽と走った。汗ばんだ額や首筋を撫でては流れ去ってゆく風が心地よかった、のも束の間。出だしこそよかったものの、寝不足で炎天下のサイクリングは想像以上に過酷で、体中の水分と体力を容赦なく持っていかれてしまった。途中、汗だくになって入ったカフェで頼んだかき氷は、今までの人生で食べたどのかき氷よりも、優しく体を労ってくれた。
     その後は水牛と写真を撮ってはしゃいだり、砂浜で出会った猫と戯れたり、思っていた「のんびり過ごす」とはだいぶ違ったものの、想像以上に楽しくて十分満足だった。

     ホテルの近くに戻った時にはまだ時刻は三時ちょっと過ぎだった。
    「だいぶ中途半端な時間っスね」
    「夕飯まで時間あるしな」
    「外にいても暑いしどっかカフェでも入ります?」
    「だな。つーかあの店カフェっぽくね?」
    「本当ですね。行ってみますか」
     二人が目指して来た店の前には、イーゼルに手描きのメニューがかけられていた。立ち止まってよく見ると、それは想像していたカフェメニューではなく、何故か足裏の絵が描かれている。しかもそこにはまるで地図のように線でいくつも区切りがついていて、各箇所に心臓だの胃だの腎臓だの、様々な臓器の名前が表記されていた。それは、場地と千冬にも少しだけ見覚えがあるものだった。
    「なんだ。カフェじゃねーじゃん」
    「マッサージの店……だったんですね」
    「へ〜、足つぼかぁ。オレやった事ねぇんだよな」
    「オレもないですね」
    「これどこが悪ぃとか分かるんだよな?ちょっと興味あんだけど」
    「ですよね。オレも気になります。でも予約とか必要なやつじゃないっスか?」
    「聞いてみっか」

     取手部分がゴツゴツした木でできた重厚感ある入り口ドアを開けると、全身に冷房の涼しい風がブワリと押し寄せた。ホッと一息ついていると本来の目的を忘れそうになったが、カウンターにいた若い女性のスタッフが声をかけてきた。
     場地がこれから二人一緒にできないか訊ねると、彼女はしばらく予約表を確認した後、四十分程待てば空きがあると言った。千冬の方を振り返るとニッと口角を上げてコクコクと頷いたので、再び女性スタッフの方を向き、お願いしますと伝えた。
     カウンターに置かれたメニュー表を見ると、思った以上にたくさんのコースがあった。場地達が興味を惹かれた足つぼだけではなく、他のコースも豊富だった。ドライヘッドスパだとか、バリニーズトラディショナルだとか、ホットストーンだとか、それぞれに名前が付いているが、二人にはどれもよく分からなかった。
    「全身のコースもあんだな。疲れてっから全身でもいいなー」
    「いや、オレ全身は……今日すげぇ汗だくになったから申し訳なくて無理っス」
    「確かにな。まぁそもそもの目的は足つぼな訳だし」
     千冬がメニューの一つを指して場地を見る。
    「この四十分のコース、足裏だけじゃなくてふくらはぎまでやってくれるみたいっスよ。これ良くないっスか?しかも足湯付き!」
    「それいいな。じゃ、決まりで。……あの、これで予約いーっスか?」
     場地が顔を上げてスタッフに告げると、彼女はカウンター脇にあったペンを取り、メモの用意をする。
    「はい。ではお名前をお伺いしてよろしいでしょうか?」
    「場地」
    「では場地様、二名様様でお待ち致しております。事前にカウンセリングがございますので、ご予約時間の十分前にはこちらにお越しください」
     女性スタッフに礼を言い、二人はどこかで時間を潰すため店を後にした。
     幸いな事に、近くには土産屋を始めとした観光客用の店が数件並んでいたので、三十分は案外簡単に潰す事ができた。

     受付スペースに置かれた、まるで東南アジアのリゾートホテルを思わせるようなラタンのソファに座って待っていると、先程とは違うメガネをかけた女性スタッフからカウンセリングシートを渡された。名前や今日の健康状態、既往歴や施術に対する要望などを記入するらしい。
     ひと通り書き終えると、再び同じスタッフが来て二人のカウンセリングシートを回収し、細かくチェックしていく。二、三質問されてから、こちらへどうぞ、と店の奥に通された。

     間接照明のみの薄暗い空間に、お香のエキゾチックな香りが立ち込める。壁にはアジアンテイストのタペストリーが掛かり、見渡すといかにも東南アジアのどこかの国にありそうな、花をモチーフにした装飾品が至る所に飾られていた。
     マッサージなのでてっきりベッドがあるのかと思いきや、部屋には白い一人掛けソファとオットマンが三つ並んでいた。案内されるままに荷物を脇の籠に入れてソファに座り込む。程よく沈んで、疲れた体には最高の座り心地だった。
    「それでは足湯のご用意を致しますので少々お待ちください」
     そう言い残して女性スタッフが去って行く。部屋には場地と千冬の二人だけが取り残された。
    「やべぇこの椅子……寝ちまうぞ、こんなん」
    「ですよね。オレすでに眠いっス」
    「昨日も今日もフルに動いてたからな」
    「昨夜は誰かさんが寝かしてくれなかったんで……」
    「お前だって喜んで乗っかってきたじゃん」
    「ちょっ……場地さんっ!」

     そんなやり取りをしていると、入口の方から失礼します、と声がかかった。慌てて姿勢を正すと、二人のスタッフがそれぞれ桶のような物を抱えて中に入って来た。どうやらこれが足湯らしい。
     運ばれてきた木の桶にはたっぷりお湯が張られており、目の前に置かれると薬草と花を混ぜたような匂いが立ちこめた。
    「あ〜……、やべぇな……」
    「うわぁ〜……めっちゃ気持ちいい」
     ゆっくりと足を浸した途端、全身がじんわりと包み込まれるようだった。思わず温泉に入った時の模範のような声が出る。二人が足を浸けた事を見届けると、スタッフ達は再び部屋の外に出て行ってしまった。
    「足つぼってさ、やっぱテレビで見るように痛ぇんかな?」
     桶の中でお湯をちゃぷちゃぷ揺らしながら場地が呟く。
    「どうなんスかね?でもオレ多分場地さんより痛くねーっスよ」
     千冬も真似してちゃぷちゃぷ揺らす。
    「あぁ?ンだよその自信は。むしろお前の方が人一倍痛がってクソデケェ声で悶絶しそう」
    「そんな事ないですよ。だってオレ超健康体だし。病気とかした事ねーし」
    「言ったな。じゃあどっちが耐えられるか勝負だ」
    「負けたら?」
    「アイス奢りな」

     足湯が終わると、先程のメガネの女性スタッフと男性スタッフがそれぞれの足をタオルで丁寧に拭いてくれた。
    「肝臓やばかったらどうしよ」
    「そしたら禁酒だろ」
    「え〜っ、オレ場地さんとの晩酌が生き甲斐なのに」
     千冬が絶望的な表情で場地を見る。
    「生き甲斐って……大袈裟だな」
    「大袈裟なんかじゃないですよ。家に帰ったらうまいビールとうまいつまみと場地さんが待ってるって思うだけで、どんなに仕事がハードでも頑張れるんスよ。オレの最強の癒しです」
     千冬が必死で訴えている間に足の水気はすっかり拭き取られていた。今度はオットマンの上に揃えて乗せられ、手際よくタオルを巻かれる。隣の場地も、同じようにされていた。
    「まぁオレも、お前との晩酌は癒しだよ」
     場地の言葉に、千冬はまるで褒められた小学生のように嬉しそうな顔で、へへっと笑った。
    「それでは少しお待ちください」
     足を拭き終えたスタッフ達はそう言い残すと、二人を残し、足湯の桶を抱えて出て行った。

     廊下に出た女性スタッフが、ふと立ち止まりボソリと呟く。
    「…………同棲ですか」
    「えっ?」
     足湯の桶を抱えて後ろを歩いていた男性スタッフも立ち止まり、不思議そうに聞き返す。
    「山口さん、何か言った?」
    「いえ、何も」
     彼女のメガネの奥の瞳がギラリと光った。

    「本日担当させて頂きます山口と申します」
     千冬の担当になったのは三十代前半くらいの女性だった。口数もあまり多くなく、メガネの向こうの表情がいまいちよく読めない。お世辞にも愛想が良い方だとは言えないが、作業はテキパキと素早く丁寧だった。
     場地の担当は四十代半ばくらいの男性で、こちらは随分と気さくで話しやすい印象だが、きちんとベテランの空気も纏っていた。彼がこの店の店長らしい。
     自己紹介が終わると軽いストレッチから始まった。足首を伸ばしたり回したり、無理のないゆったりとした動きはウォーミングアップといったところだろうか。
    「一般的には足つぼと言われる事が多いですが、うちのは正確にはリフレクソロジーと言います」
     ストレッチをしながら店長が説明する。
     いわゆるツボと呼ばれているものは、正確には経穴と言うらしい。体を巡るエネルギーの流れの交差点のようなもので、点で表されるそうだ。だがこの店でやっているリフレクソロジーというものは、反射ゾーンと呼ばれる面を刺激するのだという。
     何となく分かるような、よく分からないような説明をされて、場地と千冬は顔を見合わせる。
    「こういった図を見た事があるかとは思いますが、この図のように足裏は体の地図のようになっていますので、それぞれの場所を刺激していきます」
     入り口のメニューにあったような足裏に胃だの肝臓だの書かれた絵図を出されて、ようやくピンとくる。彼曰く、その各箇所をやさしくほぐす事で溜まった疲れを癒やし、刺激によって自身の自然治癒力を引き出そうという施術なのだそうだ。
     ストレッチが終わると、次は脛の辺りを骨に沿って指で押される。それが歩き疲れた足には最高に気持ち良くて、次第に身も心も深いリラックスに向かって緩み始めるのが分かった。
     なんだ、こんなん全然余裕だな、と千冬は密かに安心して心地よい柔らかさの背もたれに身を沈めた。

    「お兄さん、もしかして剣道とか柔道とか、そんな感じのスポーツやってました?」
     場地を担当する店長が、足裏をあちこちチェックするように触りながら訊ねた。
    「いや、ガキの頃から空手はやってたんスけど……」
    「おお!空手かぁ〜、なるほど」
     彼は驚いた様子で顔を上げると、次の瞬間、妙に納得したように再び場地の足裏に視線を戻した。
    「足裏が硬いから剣道かなって思ったんですけどね。裸足のスポーツやってる人って、足裏の筋肉も皮も硬くなってる事多いんですよ」
    「へ〜、マジか」
     場地が感心したように答える隣で、千冬も興味津々に身を乗り出す。
    「ガタイもすごい人だと本当に硬くてねぇ、車のタイヤか!って時ありますからね。本当、料金倍額払ってもらいたいくらい」
    「ははっ。タイヤはヤバいっスね!……あ、俺はどうですか?」
    「お兄さんは大丈夫ですよ」
    「倍額取られなくて良かったわ」
    「いや冗談ですから!」
    店長はカラカラと笑いながら「取りませんからね」と念を押すと、場地の足にクリームを塗り始めた。

    「力加減のご要望とかありますか?強めがいいとか弱めがいいとか……」
     千冬の担当の山口が、クリームを塗り込みながらあまり抑揚のない口調で訊ねる。千冬は待ってましたとばかりに「全然強くて大丈夫です!」と言い切ると、隣の場地に向けて不敵な笑みを放った。今度はそれを受け取った場地の目が、一気に戦闘モードにギラつく。かつて喧嘩に明け暮れた青春時代を思い起こさせる目だった。
    「オレも、強めでお願いします」
     こうして、二人の間で不毛な戦いの火蓋が切られたのだった。


     ……で、結果は見事、冒頭の通りである。


    「あ、あの……やっぱもうちょっとソフトでお願いします」
     数分後、二人は涙目になりながらあっさりギブアップに至ったのである。
    「足裏はとにかく痛くすりゃいいってもんじゃないんで……」
     店長が半ば呆れ顔で言う。
    「……すんません……」
    「まぁたまにいますよね、耐久レース始めようとする人」
     まさに今の自分達の愚行なので堪れない気分になる。
    「気持ちいいって思える事が大事なんですよ。痛くてもせいぜい痛気持ちいい、までですね」
    「はい……」
     こうして二人の闘争心はあっさり霧散したのだった。

     力加減を緩めてもらうと、先程の拷問が嘘のように気持ちよかった。まさに痛気持ちいい、というやつだ。足裏を次々と移動しながら絶妙な強さで刺激され、千冬がそこは何かと訊ねると、消化器系だと返ってきた。
    「やっぱ痛いとこって悪いとこなんですか?」
     心地よい刺激に身を委ねながら、千冬は気になっていた事を質問してみる。
    「いえ、一概に悪いという訳ではなく、お疲れの箇所って感じですかね」
     山口は足裏の内側、土踏まずの上辺りをグリグリと押しながら答える。
    「なるほど」
    「この辺りは横行結腸から下行結腸、S状結腸になります」
     そう説明しながら、今度は足の中央付近の柔らかい場所を、絶妙な力加減で流していく。
    「あ、その辺気持ちいいっスね。強さもすげぇちょうどいいです」
    「ありがとうございます。……もちろん、ご病気などで悪くなったところも痛かったりしますが、そうでなくても日頃から酷使しているような所は疲れが溜まって……」
    「痛っ!」
     ある一点に到達した途端、それまでとは打って変わって襲いかかってきた刺激に、千冬は思わず声を上げた。
    「え〜、千冬ぅ、どこ痛かった?」
    「いや、分かんねっス……え、何スか?そこ」
    「ここは……えっと……」
     山口が足裏と千冬を交互に見ながら口を開く。
    「直腸と肛門ですね」
     その瞬間、隣の場地が吹き出した。千冬は頭が真っ白になり、「え、え、」とひたすら狼狽える。そんな彼を横目に、場地は口元を押さえてひたすら笑いを堪えてる。
    「直腸と……肛門……」
     千冬は呆然と、今しがた言われた事を復唱した。
    「……まぁ、酷使したもんな」
     隣で場地がボソッと呟くと、ようやく意味を理解した千冬に一気に羞恥が込み上げる。真っ赤になってギッと場地を睨みつけた。
    「……」
     そんな二人をしばらく見つめていた山口は無言のまま力を弱め、そっと優しく、だが念入りにその箇所をマッサージしてあげた。

     場地の方も順調に進んでいたが、ようやく少し痛いなと感じるポイントが現れた。
    「ここ、痛いですか?」
     場地の体の強張りから察したのか、店長が顔色を伺いながら訊ねる。
    「ちょっと痛いっスね、その親指んとこ」
     場地は背もたれから上体を起こし、自分の足元に視線を向ける。
    「ここは頭部が現れてるとこですね。結構硬い人とか痛がる人が多いんですよ」
    「頭?頭んとこ痛ぇって事は、頭悪ぃって事?」
    「場地さんはバカじゃねぇぞ」
     千冬が身を乗り出して店長にメンチを切る。場地が吹き出しそうになりながら「千冬、出てるぞ」と嗜めると千冬はハッとして恥ずかしそうに下がっていった。
    「頭の良し悪しは関係ないですよ。ていうか、出たら怖いよね」
     店長が笑いながら言う。
    「ストレス多い人はここ硬くなる傾向がありますね」
     山口の施術も親指に入ったので、会話に参入してきた。
    「オレもちょっと痛いっス」
     千冬が少しだけ顔を歪める。
    「千冬ぅ、お前ストレスでも溜まってんのかよ」
     場地が不満そうに覗き込むと、千冬は慌てて首を横に振った。
    「いや、自分ではそんな自覚ないっスけど……」
     狼狽える千冬に、店長が説明を加える。
    「ストレスばかりではないですからね。寝不足とかもいけませんよ」
    「そーなんスね」
    「お兄さんも親指のとこ、もしかして寝不足じゃないですか?二人とも、昨夜ちゃんと寝れましたか?」
     店長が場地と千冬を交互に見て心配そうに問いかける。その時反射的に千冬の脳裏をよぎったのは、まさに寝不足の原因である昨夜のあの情事だった。
     昨日はもう、本当に凄かった。せっかくきれいにベッドメイクされた真っ白なシーツを、これでもかという程ぐちゃぐちゃに掻き乱しながらひたすら体を繋げ合った。南国の熱に浮かされていたのか本能はあまりに肉欲に従順で、何回も、何時間も、それこそ体力が尽きるまで夢中で求め合った。
    「昨日はまぁ……全然寝かせてもらえなかったっスね……」
     恐らく同じ事を考えていたであろう場地がしみじみと答えると、千冬はもうどうして良いのか分からず、ただただ真っ赤になった顔を隠すように下を向くしかなかった。
    「…………なるほど」
     一方で納得したように山口は頷くと、そこも優しく念入りにほぐしていった。

     施術も終盤に向かい、次第にほぐされた箇所からすっきりと軽くなっていくのを二人は実感し始めていた。
    「ここは胸椎、そして腰椎です」
     足裏の内側を流すように刺激される。
    「背骨ラインですね。背中のお疲れなんかが出ます」
    「背中はどうなんスかね?硬いっスか?」
     千冬がが訊ねると、山口はうーんと少し考えながら踵の方に指をずらす。
    「胸椎より腰椎の方が硬いですね」
    「腰椎……」
    「つまり、腰ですね」
     隣では場地も、ちょうど同じ箇所を施術されていて、やはり店長に言われている。
    「お兄さんも腰椎のとこ硬いですね」
    「そっスか?別に腰が痛ぇとかはねぇんだけどな……」
    「無意識のうちに負担になってる事もありますからね」
     店長曰く、座りっ放しや重い物を運ぶような仕事の人は腰に負担がかかりやすいそうだ。デスクワークや運送業の人間が当てはまる言う。
    「あとは建設現場とか農業とか……あ、介護職なんかはもうすごい酷使してるから辛そうな人多いですね」
    「仕事でやっぱ出るんスね」
    「お兄さん達は腰大丈夫ですか?無理してない?」
    「腰……無理は……」
     言われて場地は再び昨夜の事を思い浮かべる。ベッドの上で千冬に覆いかぶさり、涙目になって悲鳴のように喘ぎ続ける彼にひたすら腰を打ち付けていた記憶が甦る。
     千冬もまた、心当たりにぶつかった。自ら場地の上に跨り、両脚を広げて夢中で腰を振っていた昨夜の自分。情欲を滾らせた場地の、舐め回すような視線に犯されながら普段ではあり得ないくらい乱れに乱れてしまった事が急に思い出される。
    「してるな……」
    「してますね……」
    「ですよね」
     三人が呟く。唯一仲間に入れない店長が一人ワンテンポ遅れて声を上げる。
    「そりゃ大変だ。いくら仕事でも若いうちからあんまり無茶しちゃダメですよ」
    「っス……」
     店長のどこまでも純粋な反応に、千冬はもはやどうリアクションするのが正解なのか分からなくなっていた。ついつい下を向いてしまい、膝のバスタオルを弄っているとふいに正面から声がかけられた。
    「お客様、大丈夫です。この山口が責任を持ってほぐしますから」
     彼女は力強くそう言うと、グッと親指を立ててサムズアップを決めた。

    「この後はまだどこか観光されますか?」
     施術が終わり、心身共にリフレッシュした二人が会計をしていると、レジを操作しながら山口が言った。
    「いや、後の予定は飯だけっスけど……」
     最初の無口な印象からは随分変わった彼女にやや驚きながら千冬が答える。
    「もしよかったら、おすすめの夕日スポットがあるんですよ」
    「夕日スポット?」
     返されたカードを財布にしまいながら、場地が意外そうに聞き返す。
    「このお店の裏の通りを、市街地とは反対方向に行くと砂浜に出るので、そこです。すごく小さいし、ビーチとかではないのでガイドブックにも載ってなくて、割と穴場なんです」
    「へ〜、穴場っていいですね」
    「海もキレイで、周りの岩とかもいい感じに夕日に映えて、結構ロマンチックですよ。全然人もいないんで、是非お二人で行ってみてください」
     最初はだいぶ口数の少ない女性だと思っていたが、意外と喋るし最後にはニコニコと満面の笑みで親切な情報まで教えてくれたので、人見知りがひどいだけで案外良い人なんだな、と千冬は思った。
    「お前夕日スポットとか好きそーじゃん。行ってみっか」
    「そうっスね。飯まで時間もありますしね」

     二人が出て行くと、ドアの向こうから小さく彼らのやり取りが聞こえてくる。
    「場地さん、オレ肝臓は大丈夫でした!オレの生き甲斐は守られたっスね!」
    「いや、つーかオレはお前の直腸と肛門が心配なんだけど。やっぱ昨夜のアレはさすがにヤリ過ぎ……」
    「ちょ……つ!場地さん!ここ外っ!」
     遠ざかる声を聞きながら、カウンターで伝票処理をしていた山口はごちそうさまですと心の中で合掌した。
    「山口さん、あの穴場を教えてあげたの?あそこってカップルの聖地じゃなかったっけ?」
     隣に来た店長が、次の予約を確認しながら不思議そうに訊ねる。
    「……」
    「いやー、それにしてもすごいイケメン二人だったね。友達同士かな?いや、敬語使ってたから職場の先輩後輩とかかな?」
    「違います」
     食い気味にピシャリと言い放った山口は、口数も少なくあまり愛想が良いとは言えない、すっかりいつもの彼女だった。
    「え、そうなの?ていうかさ、山口さんがお客さんにあんなに喋ってるとこ初めて見たよ。どうしたの?もしかしてタイプだった?」
    「私は推しカプの幸せを願ってるだけです」
    「えっ?は?オシ……?何だって?」
    「店長」
    「うん?」
    「私、仲間達に報告しなければならない事ができたので先に休憩入ってもいいですか?」

     旅先の南の島で、こんなやり取りがあった事を場地と千冬は知らない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💖☺☺☺💘💘☺💯💯💯💯💯💯💯💯💯💯💯💯💯💯👍❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works