リボン最近、ちゃんと眠れないことが多い。
今日の配信後、なんとなくリビングには行きたくなくて、座ったままのゲーミングチェアをゆりかごの様にギシギシと揺らしながらツイッターを見ていた。
ファンアートや素敵な写真にいいねを押して、みんなにも見てほしいものはリツイートしていく。みんなからの愛でおれの心は溢れているのに、おれの心は一体何が不満なんだろう。
眠れない理由はいくら考えても思いつかなくて、スマホに飽きたタイミングであたりを見渡すと、棚にある黒い小さな箱が目に入ってくる。ふと思いついたようにその箱を手に取った。
その箱の中には、今までふーふーちゃんからもらったプレゼントや、花束についていたリボンが入っている。赤やピンク、オレンジ、グリーン。ラメの入ったもの、太いもの細いもの。一年でこんなにも集まるとは思っていなかったな、と箱の中のリボンをひとつづつ取り出していく。
どれも何のラッピングに使われていたかちゃんと思い出せる。
最初のプレゼントは、まだ会ってもいない頃に家に郵送で届いたんだっけ。
初めて会った時は恥ずかしいぐらい大きな花束を持ってて、ディナーに行くのも大変だった。
「ふふ、」
もう一年たったんだ。この活動を始めて、ふーふーちゃんと出会って。
箱の一番下にあるサテンの紫のリボンを取り出して、くるくると指に巻き付ける。
最初は俺のカラーのパープルが結ばれていることが多かったな、その次はピンクとか赤だったような気がする。
ふと思い返すと、一番最近のプレゼントにはグリーンのリボンがついていて、珍しいなと思ったのを今思い出した。
ふーふーちゃんのことだから、ラッピングをお願いするときも定員さんにお任せしてそうだなと思っていたけれど、わざわざ店員さんがグリーンのリボンをプレゼントにつけるんだろうか。
せっかくだし調べてみよう、と慣れた手つきでスマホの検索に掛け、検索結果にヒットしたページをスワイプして、お目当ての情報までたどり着く。
赤:愛情
ピンク:恋愛の幸福感
オレンジ:とても楽しい
グリーン:心の居場所
「一緒にいて安らげる、家族にぴったり、だって…」
家族って、おれは知らないものだけれど、ふーふーちゃんはそう思ってくれていたんだ。俺って知らない間にふーふーちゃんの家族になってたんだと思うと、さっきまでのなんとなく嫌な気持ちなんてなかったみたいになって、今すぐふーふーちゃんに会いたくなってしまう。
でも、今は配信中かもしれない、と自身の配信部屋のドアを開け、階下のリビングを覗いてもやっぱりいない。反対側の廊下の端、ふーふーちゃんの配信部屋のドアをゆっくりと開けると、中から話し声が聞こえてくる。
あぁ、配信してる。
それなら、と音を立てないようにゆっくりとドアを閉めようとすると、開いた隙間でおれの目とふーふーちゃんの目が合った。
首をかしげながらこちらを見るふーふーちゃんは、何を感じたのかこちらを伺うように見て、チャットにちょっと待つように言ってくれた。そんなつもりじゃなかったのに、と少しだけ罪悪感を感じるが、手招きに誘われるがままに静かに傍に行き、ふーふーちゃんのつむじに音が立たないように唇を押し当ててキスをした。
おいで、と手を広げて迎えられ、ふーふーちゃんの膝の上に向かい合うように腰を下ろすと、
ギシリとゲーミングチェアが悲鳴を上げて、
「Oh」
っなんて言うからチャットが「何?」「大丈夫?」「どうかした?」なんて騒いでるけど、ふーふーちゃんはにやりと笑って、なんてことないようにドッゴのせいにして、もたれかかるおれを好きにさせてくれた。
耳元で聞こえる柔らかな聞き慣れた声と、首筋から香るシャワーを浴びた後の石鹸の香り、とく、とくと動揺を微塵も感じさせない一定リズムの心臓の鼓動が、眠くなかったおれをいとも簡単に眠りに誘っていく。
次に起きたらあのリボンたちでバラを作ろう。
ただ箱に仕舞われるだけの記念品にならないように。
あとはおれからもグリーンのリボンで何かプレゼントしよう、もうすぐ誕生日だもんね。
最後にもう一度深く深呼吸をして、ふーふーちゃんの頬に頬擦りして、肩にくったりと頭を預ける。
ちょっと硬いけど、よく眠れそうだ。