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    しおん

    @GOMI_shion

    クソほどつまらない小説をメインに載せてます

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    しおん

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    『致命症』#08

    ##致命症

    忘れ物「なんか君......“レオン”に似ているねぇ。」
    一瞬、時が止まったかのように空気が凍りつく。『“レオン”に似ている』と言われてシュアンは紫色の鋭い瞳で雅楽を睨んだ。“レオン”とは、幼い頃ずっと一緒にいた双子の兄だ。だがもうシュアンとレオンは何年も会えていない。
    「...レオンを…知ってるの...…?」
    シュアンは警戒した様子で、少し距離を取りながら雅楽に問うが、雅楽はニヤニヤしているだけで何も答えない。そのままシュアンの顔を興味深そうにまじまじと見つめている。
    「...っふ、彼と違って素直そうな子だねぇ君。レオンより君の方が、あの方に気に入られそうだ。」
    そう言って雅楽は後ろを振り返り、早足で歩き始めた。
    「まって...!」
    止めようとしても止まってくれない。人混みに紛れて段々姿が見えなくなっていく。もう追いつけない。
    「......レオン...。」
    久々に聞いた兄の名前。シュアンは思い出さないようにしていたあの日のことを思い出し、大勢の人々が通り過ぎる道の真ん中で座り込んだ。邪魔そうに睨んでくる人や心配そうに話しかけてくれる人がいるが、そんなもの全て無視をして、シュアンはただ誰にも見えないように顔を隠しながら泣いていた。
    「っ…レオンの…嘘つき…。」
    「シュアン、こんな所に居たんだね。」
    声がする方を振り返るとリムが居た。相変わらず不審な見た目をしている。
    「...見回り...した......。」
    「そうだったのかい、今日は皆休みだからしなくても良かったんだよ?でもありがとうね。」
    「...うん。」
    リムはシュアンの涙ので濡れた瞼と頬を拭いた。
    「さあ、もう帰ろうか...。」
    「......うん...。」
    しゃがんだままのシュアンを立ち上がらせ、人混みの中で離れてしまわないように手を繋いで施設まで帰って行った。

    ....................................

    ムーア暴走事件(笑)から3日が経った。あの日以降休みばかりで特にやることも無く、時間になったらご飯食べて歯を磨いてお風呂に入って寝るの繰り返しで、正直とてもつまらない3日間だった。仕事とか学校とかが無いと意外と退屈なものだ。だけど、今日からはもうその退屈さから解放される。

    午前5時半、この時間に起きるのが完全に習慣化されて寝起きも少しは良くなった春馬は、大きな欠伸をしながら着替えている。
    2年生の証拠である赤いネクタイを適当に結んで、寝癖だらけの髪の毛を整えてから洗面所に向かう為に扉を開けた。
    「おおぉ!!おはよう春馬くん!!」
    扉をノックしようとしたような立ち方をしているリムが驚きながらも何故か嬉しそうに、ペストマスクの中で目をキラキラさせていた。今まで気付かなかったが、よく目を見ると左右で目の色が違うようだ。
    「院長さんおはよー!なんか俺に用っすか?」
    「今日から学校だろう?だから“お父さん”が起こしてやろうと思ってね!!」
    「お父さんってなんすかwwでもわざわざあざっす!自分の準備とかしてきてもらって大丈夫ですよ!」
    「そうかい?いやぁ余計なことをしてしまってすまないね!それじゃ!」
    本当に起こしに来ただけだったようだ。春馬の適当に結ばれたネクタイを綺麗に結び直してから早足でどこかへ歩いて行った。リムが言っていたように、今日から学校が始まる。春馬は授業自体は嫌いだが、学校という“場所”が好きだった。立ち去ったリムを見送ったまま廊下に突っ立っていると、ハンドタオルを畳みながら向かいから叶汰が歩いてきた。
    「あっ!叶汰ぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
    「うわ」
    春馬が両手を広げながら勢いよく走って叶汰に抱きつこうとしたが、スッと避けられ、物凄い勢いで転んだ。
    「なんで避けるんだよ!」
    「え。危ないから。」
    真顔でそう言いながら、転んだ春馬を起こす。
    「ちぇっ、そういえば何時に行く?」
    「あぁ、まだめっちゃ時間あるしな…。」
    時計を確認すると、まだ5時40分くらいだった。施設から学校までは歩いて30分かかり、8時までに教室に着けば良い為準備の時間に余裕がありすぎる。なのに叶汰は朝食以外の準備は全て終わらせてしまったようだ。
    「叶汰今から超暇じゃん。りこさんの“いっぱい甘い飲み物”量産してきたら?」
    「なんでだよ飲ますぞ。お前は今から顔洗いに行くんだろ、行ってこい。」
    「んぇぇ叶汰暇じゃん着いてきてよぉぉぉ」
    「そんくらい1人で行け!」

    嫌がりながら着いてきてくれた叶汰と話しながら顔を洗い、そのまま食堂で朝食をとった後に自室から学校用の鞄を持って叶汰の部屋で適当に持ち物の確認をした。時間はまだ6時20分。出発までにまだ1時間程ある。暇でなんとなく廊下に出ると、拓海が欠伸を何度もしながらウロウロしていた。何をしてるんだと思いながら春馬はその様子を見つめていた。視線に気付き、睨んでるかのような(拓海にとっては普通の)顔で春馬の方を向いた。
    「何見てやがる。」
    「えっ、あっいや何してるんだろうなって思って…。」
    「準備終わらせんの早すぎて暇なんだわ。」
    「拓海先輩もでしたか…w」
    久々の学校で、普段学校に行っていたみんなは時間の感覚が掴めなくなっているようだ。
    「そういえば、りこさんは起きてるんですか?」
    「あー、あいつ何故か今日は自分で早起きしてやがって今俺らと同じで暇そうにしとるわw」
    「今日に限ってww」
    「これから毎日自分で起きてくれたらいいんだが…。」
    「言ってることがお母さん…」
    「あ?誰がお母さんだって?」
    「なんでもないです!!!」
    その後も叶汰も混ぜ、3人で適当に世間話をして時間を潰した。

    出発の時間になり、春馬と叶汰、拓海とりこは玄関に集まっていた。外に出ようと扉を開けようとしたとき、シュアンが急いで走ってきた。
    「たくみ…!もう行くの…?」
    少し寂しそうに拓海の袖を掴んだ。
    「おう、もう行くけどなんかあったか?」
    「…何も無い……行ってらっしゃい…。」
    寂しそうなシュアンの頭を拓海が撫でると、叶汰の母と妹たち、ムーアとエリフィナとリムが見送りにきた。ただ学校に行くだけって言うのに全員が来るのは少し大袈裟に思える…。
    春馬は全員に手を振って施設を出た。

    外に出て早々、りこの友達であろう女子生徒が1人、手を振りながら走ってきた。
    「りこちゃーん!おはよー!」
    その人がりこの頭をもふもふと撫でるとりこは嬉しそうにふにゃっと笑った。
    「おはよぉ〜〜朝から元気だねぇ〜♪」
    「巫くんもおはよ!りこちゃん貰っていい?」
    「おう。持ってけ。」
    「わぁ〜♪りこちゃん連れていかれちゃ〜う♪」
    りこは久々に会った友人と楽しそうに春馬たちから離れていった。りことその友人が居なくなったと思ったら今度は拓海の友人が近付いて来た。
    「タクちゃん今日後輩連れ〜?虐めるなよ〜?」
    「虐めねーよお前じゃねぇんだから。」
    「はぁ?俺も別に虐めたことなくね!?タクちゃんの後輩君達もそう思うだろ?」
    唐突に話を振られたが春馬も叶汰も苦笑いをすることしか出来ない。
    「あんまこいつら困らせんなよw特に眼鏡の方は普段からこのピンクの奴に困らせられてんだからよw」
    「えっ!?ちょっと拓海先輩!俺別に叶汰の事困らせてませんよ!?」
    「いや先輩の言う通り困らせれてるよ……。」
    「ピンクの君…俺ら似た者同士だな…仲良くしようぜ…。」
    「そうですね…仲良くしましょ…。」
    最近は施設の人としか話していなかったの為、初対面の人とこうして話すのは新鮮で楽しい。気のせいかもしれないけど、久しぶりの友人との交流が嬉しいのか拓海の尻尾が揺れている気がした。

    学校に到着し、先輩2人と別れて自分たちの教室に向かう。そういえばボロボロになっていたがもう大丈夫なのだろうか。春馬も叶汰も、2人して同じ事を考えながら教室へと向かった。教室の前まで着くと、扉は閉まっているが中ではクラスメイトたちの楽しそうな声が聞こえてくる。
    「おはよー!!」
    扉を開けながら大声で春馬がみんなに挨拶をした。
    「え!?野田が朝からいる!!!」
    「なんだよ!!俺だって朝起きることくらいあるからなぁ!!!」
    中学生の頃から仲のいい友人がからかってきた。それを見て何も言わずに叶汰と他の友人たちが笑っている。この世界に来る前までの生活と何も変わらない平和な朝だ。春馬と叶汰は、またあの日々に戻った気分になった。久しぶりに会う友人たちに挨拶をしながら自分の席に座って、適当に荷物を机にしまってなんとなく教室を見渡す。何も変わっていないと思っていたが、やはりクラスメイトの数人に奇病の症状が現れている人がいた。奇病は思っていたより身近な存在のようだ。ぼーっと座っていると、教室の扉が勢いよく開かれた。
    「みんな久しぶり〜おはよ〜!」
    担任教師の山中先生だ。柴犬のような可愛らしい尻尾と耳が生えている。山中先生は獣化病のようだ。
    「いやぁ私はみんなに会いたかったよ!元気だった?」
    尻尾をブンブンとすごい速さで振りながら先生はニコニコとしている。クラスのほとんどの生徒たちはその尻尾に視線を送っている。
    「先生尻尾出てきたのー!?超可愛いじゃーん!」
    以前まで尻尾は無かったようだ。クラスのギャル寄りの女子生徒が先生の尻尾のことを指摘した。“超可愛い”と言われたのが嬉しかったのか尻尾を振る速度が上がった。
    「そう!そうなのよ!!尻尾のおかげで感情分かりやすくなっちゃったのは恥ずかしいんだけど“超可愛い”のよ…!」
    喜びで興奮している様子で目を輝かせている。
    …飼い主におやつを貰った時の飼い犬みたいだ。それから何故か長々と自らの尻尾について語り始め、朝のSTから一限の時間が丸ごと潰れた。(※どうでもいいけどSTって言葉懐かしい)
    今日は特に授業は無く、今後の学校生活の流れや委員会と部活についての話だけかされる予定で三限までしかない。その貴重な1時間(45分くらい?)を尻尾の話に使われた為、予定通りの話は出来るのかが心配だ。

    休み時間中、スマホをいじっていると1件のメッセージが届いた。送ってきた人の名前が何故か無い。恐る恐る開いてみることにした。

    { 忘れ物は無かった?

    「忘れ物…?」
    無かったはずだと思いながら持ち物を漁るが、特にこれがない!と言うものは無い。
    (なんだろ…今日は授業無いし、教科書がないとかじゃ無いだろ?)
    考え込んでいるうちに、いつの間にか二限開始のチャイムが鳴っていた。

    二限は流石に尻尾の話とか耳の話とかはせずに、今後の学校生活と委員会活動についての話をされた。今後もし学校に突然攻撃が来た時、一般生徒はすぐに避難出来るようにする為の非常用の通路が出来たことや、図書室と体育館の鍵が紛失して入れないから図書委員の仕事はほぼ無くなった、という話だけで終わった。三限も体育館を使う部活の人達は一時的に出来ないという話や、プールの工事だけがまだ終わっていないから水泳部の活動も一時中止されると言う話をされただけで、余った時間は適当に過ごしてそのまま帰る時間になった。春馬は“今日は学校がある”というだけでワクワクしていて学校に行くことを楽しみにしていたのに、思っていたより退屈だったようで、朝よりも少し機嫌を悪そうにしていた。

    「春馬〜帰るぞ〜」
    荷物を片付けようとしない春馬に、帰る気しか感じられない叶汰が声をかけた。
    「やだ。」
    「は?」
    「帰りたくない!まだ学校居たい。」
    「そうか、じゃ、先帰るわ。」
    無理矢理連れて帰ろうとしても嫌がられるだけで言うことを聞かない春馬の対処には叶汰は慣れている。(※さすが)置いていこうとすると必ず春馬は着いてくる。
    「叶汰のけち!」
    「学校居ても帰ってもどうせ同じだろ」
    「せっかく久しぶりに来たのに!?」
    「久しぶりっつっても何回か見回りで来ただろ…。」
    何故か見回りのことを忘れていた春馬はハッとしたような顔をした。その顔が面白くなってしまい、叶汰は一瞬笑いそうになった。
    「あ、そーだ。」
    春馬はなにかを思い出したかのようにスマホを開き、一限と二限の間の休み時間に届いたメッセージを開いた。
    「これ返事した方がいいかな?」
    「…?しといたら…。」

    { 忘れ物なんて無かったぞ!

    「返事しといた!」
    ニコニコしながら返事をした画面を叶汰に見せつけた。叶汰は「よかったな」と返すだけで特に興味もなさそうだ。
    「ねーねー叶汰!」
    話題が尽きるのが嫌なのか春馬はどんどん叶汰に話しかける。
    「なに?」
    「腹減った!」
    まだ時間は少し早いが、ほぼ昼食の時間だ。2人は適当に飲食店に行き、昼食をとってから帰ることにした。

    ………………………………

    { 忘れ物なんて無かったぞ!

    メッセージへの返信が届いた。既読を付けてスマホを閉じ、表紙には“記録帳”裏表紙の隅には“野田春馬”と書かれたノートを机の上に置く。
    「へぇ、君の忘れ物じゃないなら有り難く貰うね。」
    黄色い瞳を輝かせながら紺色の長い前髪をかきあげてニヤリと笑う。
    「そんじゃ、俺はそろそろバイト行ってくるから使えそうな情報あったら適当にまとめといてね〜。」
    その言葉に対する返事はなかったが、人形のような小さな少女が小さく頷いた。
    「あの猫カスクソ信者、人に面倒臭いとこだけやらせて…おい尊!アイツの言う事なんか聞かなくていいんだぞ!」
    苛立った様子の少年が、頬に咲いた紫色の花を触りながら人形の少女に寄ってきた。少女は何も言わず、記録帳と少年を交互に見てから首を傾げた。
    「なんで“言う事聞いて当たり前でしょ?”みたいな顔してんだよ!元々これはアイツの仕事だからお前がやる必要ないの!!」
    更に苛立ったようで机を拳でドンドンと殴っている。今にも穴が空いてしまいそうだ。だんだん机の表面が割れてきた。その手を止めるかのように、赤黒い内臓のような触手が少年の腕を掴んだ。
    「なんだよ!離せ!触るな!…何で離さないんだよ!元々ボクの体の一部のくせに何で言うこと聞かないんだ!」
    少年はそのまま持ち上げられ、どこかへ連れて行かれた。取り残された少女は、壊れかけた机をぼーっと眺めている。
    「あの子ったらまた物壊して…レオンが変な事言って悪いわねェ、でも彼はアナタの為に言ったと思うから許してあげてくれる?」
    女性のような口調の男性がそう言うと、少女は静かに頷いて記録帳を差し出した。
    「…わかったわよ、アタシが代わりにやっとくわ。絢斗ちゃんを見かけたらアタシがやったって伝えてちょうだい。」
    記録帳を手に取り、中身を雑にパラパラと目を通してから、少年が連れて行かれた方向にゆっくり歩いていった。それを見て少女は別の方向に去って行った。

    ………………………………

    夜__

    桃色の長い髪の女性が一人、巨大な鏡の前に立っている。悲しげな表情をしたその女性は、目の前の鏡を見ているようで見ていない。ただその瞳は、強い光を放っている。
    「……春馬…」
    鏡に触れようと伸ばした手を、もう片方の手で抑える。
    「…駄目よ、もう会いに行かないって約束したんだから……。」
    諦めたように鏡に背中を向け、鏡のある空間から出ていった。

    「姉さん。」
    鏡の空間から出ると、待っていたかのようにオレンジ色の髪をした、角の生えた女性が立っていた。
    「美晴…どうしたの?」
    「また行ってたの?」
    「鏡の前だけね…、もう夢にまでは行かないわ。春馬と…」
    そこまで言うと、話してる途中だというのにオレンジ色の髪の女性はどこかへ姿を消した。
    「…なんでそんなに嫌なのかしら……」
    光を放つ瞳を両手で隠しながら、後を追うように桃色の髪の女性も姿を消した。

    ………………………………

    翌朝、午前6:00
    いつもより遅めの時間に設定したアラームが春馬の部屋に鳴り響いた。大きく背伸びをしながらスマホを見る。
    「なんかよく寝れなかったな…。」
    ボソボソと小声で呟きながら目を擦る。しばらくスマホの画面を眺めていると、昨日届いた一件のメッセージが目についた。『忘れ物は無かった?』というあのメッセージだ。
    「忘れ物……なんかしてたのかな…」
    なんとなく机の上や引き出しの中、鞄の中まで隅々までそれらしいものを探したが見当たらない。寝起きのせいか回らない頭を無理矢理働かせる。
    「まず俺…何持ってるんだっけ…?」
    漫画や教科書、奇病の資料とノートが並ぶ本棚をぼーっと眺める。
    「あれ…無い…」
    何がないかまでは思い出せないが、確実に何かがないことに気がついた。そんなに重要なものではないだろうと思いながら顔を洗いに行った。

    学校に行く準備も全て終わらせ、いつも通り叶汰と共に朝食をとっているとリムが突然とびこんできた。
    「おはよう二人共!!」
    気配なく近づいてきて驚かせてこようとするリムに慣れた二人は特に驚くことなく挨拶を返した。
    「お、おはようございます…どうしました?」
    叶汰が嫌そうな顔をしながらリムの方を向く。
    「そんな怖い顔しないでよ〜★ただのうざ絡みじゃないよ〜?」
    リムは両手をパタパタと振りながら笑った。
    「んでねっ!昨日普通に何も言わず学校へ送り出したけど、何ももう異常はなかったかい?」
    「外見的な異常はなかったと思いますよ!ただどっかの鍵が無くなったとかはあったっす!」
    食パンを頬張りながら春馬が笑顔で答えた。それを聞いてリムはうんうんと頷く。
    「どこの鍵かは覚えてない?」
    「あー…覚えてないっす」
    「僕も覚えてないです。」
    二人の答えを聞いてリムは少し考えるような仕草をした。そして少し間をおいてペストマスクの嘴を軽く触りながら話し始めた。
    「う〜ん…何も関係ないかもしれないけど、一応“アイツら”に関係してるかもしれないからできる限り細かく記録帳にでもメモして帰ったらボクに見せてくれないかな?」
    「“アイツら”ってなんですか?」
    「あぁ、前に言っ…」
    「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!」
    叶汰の質問に答えようとするリムの言葉を遮って、春馬が突然叫んだ。春馬はやっと思い出した。
    「記録帳!!記録帳がないんだ!!!!」
    突然の大声にさすがのリムも両耳を手で覆った。
    「おぉ…それは大変だねぇ、新しいの渡しておくよ!…にしてもボクでも驚く大声を出すなんてやるねぇ…!!」
    リムはスッとどこから出したのか新品の記録帳を春馬に手渡した。叶汰は先程より不機嫌そうな顔をしたまま黙っている。
    「あざます!使ってたやつ見つけたらそっちに書きますね!」
    今日やることを頭に入れながら朝食を食べ切り、自分の部屋に鞄を取りに行くと丁度出発するのに丁度いい時間になっていた。昨日のように持ち物の確認もしたかったが、もうそんなことする時間はない。記録帳を失くした事もあって、何かまた忘れ物をしてないか不安だが、昨日と同じように叶汰と拓海とりこと共に施設をあとにした。

    …記録帳、どっか道に落ちてないかな……。

    ……………………………

    「姐さんごめんねぇ、俺の仕事なのに〜」
    「良いのよ、絢斗ちゃんいつも頑張ってるじゃない。」
    絢斗と女性口調の男性、ミアが開店前の猫カフェで話している。春馬の記録帳から必要になりそうな情報だけを二人でまとめているようだ。
    「まぁ…確かにこの記録帳?ってやつ持ってきたの俺だから褒めてほしいよねぇ?」
    「確かにこれは偉いわよ♡で〜も、女の子で遊んでるのはアタシまだ許してないわよ?」
    「えぇ〜?やりてぇ事やりゃいいって言ったの姐さんだよ?俺はその通りにしてるだけ〜」
    「はぁ…悪い子なんだから。」
    呆れたながら全ての情報がまとめ終わったのか、記録帳を閉じて絢斗に渡した。
    「もう終わったからこれ、本人に返してやんなさい。きっと困ってるわよ。」
    「は〜い、姐さん♪」
    不気味に笑いながら、店を出ていくミアを見送った。
    春馬に本当の自分を見せる日を想像しながら、今日も絢斗は良い人面を顔に貼り付ける。ニヤニヤしていると、店の扉が開いて雅楽が入ってきた。
    「桐野江くん、終わったかい?」
    「はい!」
    ミアがまとめてくれた書類を雅楽に渡すと、雅楽は頷いて扉の方に向き直した。
    「ありがとうね、それじゃ向かおうか。」
    雅楽がそう言うと、絢斗は雅楽の荷物を持ち、あとをついていくように店から出ていった。
    「ところでどこに向かうんですか?」
    「言わなかったっけね?あの子達の親鴉に会いに行くよ。」
    雅楽と絢斗は、親鴉…リムに会いに施設へと向かった。
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