幾百の輝きの中にあっても 歩く人、待ち合わせの人でごったす広場の端で、エメトセルクは建物の壁に寄り掛かって立っていた。急いで駆け寄ると、彼は組んでいた腕を下ろして、姿勢を直す。
「お待たせ!ハーデス」
「時間通りだな。珍しく」
「今日みたいな日は、さすがにね」
今日は二人でコンサートを聴きに行く。公務ではないので、目立たない様に二人して白い仮面を着けて。普段と違う装いが、“お忍びデート”みたいで、自然と心が弾む。
「さ、行こう!」
早速人々の集まる方へ、一歩踏み出した私の肩をエメトセルクが掴んだ。
「おい待て。……この人出だ。はぐれるぞ」
……はぐれる??彼の言っている意味が解らず目をぱちくりさせてしまう。だって、彼には“目”があるし。そうでなくたって、はぐれようがない。今だって、視界に入る何十人、何百人の中で、たった一人、エメトセルクの事をすぐに見つけた。それはまるで、不思議な力で吸い込まれるみたいに。彼の方も、私が見つけたのとどちらが早いか、駆けつける私の方をずっと真っ直ぐに見てくれていた。着ている物が同じでも、背格好、佇まい、歩き方……全部好きなんだ。絶対に、すぐに判る。
大丈夫だよ!と言おうとして───彼の大きな左手が、私の右手をそっと握った。ああ、無粋なのは私の方だったな、と悟る。
「……行くぞ」
こちらを見下ろす白い仮面と、動く唇をぼうっと見上げる。ぎゅっと掴まれてしまったのは、心の方かもしれない、なんて思ったことは、絶対に秘密だ。