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    みちとせ🍑

    基本小説は支部 ここは短めのものあげる時とかに使う

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    みちとせ🍑

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    オリアカワンドロワンライ「陸遜」の開催、ありがとうございます。

    陸遜が見た、ほんの少しだけ長くて、あっけない程に短い夢の話。

    熱が下がらず布団でワンライ参加したので誤字脱字が目立つかもしれません。
    ⇧の事情からちょっと前にスタートしたので1.5hくらいです。

    どうか陸遜が、他の誰でもない貴方がこの先、笑顔でいられますように。

    灼灼たる夢の先「……ん、陸遜」

    おーい、と呼びかけるような声。それから肩を軽く揺らされて、意識を引きずり上げるように瞼を開いた。ちかりと光に眩んで、幾度か瞬きを繰り返した先で二人分の影が目に入る。

    「っ、孫策殿、周瑜殿!?」
    「なんだ、やっと起きたな」
    「陸遜、休むのなら軒先ではなくせめて部屋に入りたまえ」
    「いえその、ああ……言い訳をさせてもらえませんか」

    身なりをささっと正して先ずは礼を。寝起きだろうがその身体に染みついた礼儀作法は消える筈もなく、ただ縁側に腰かけて柱に頭を預けていたせいか陸遜の冠は微かに頼りなく揺れていた。当人は後から気付くのだろうが、それを目の当たりにした周瑜はまだまだ若いなと笑みを零す。

    「別に言い訳なんかしなくていいぜ、この季節は縁側での昼寝が気持ちいいからな」
    「孫策。威厳も何もあったものでは無い」
    「見られなきゃいいんだろ、見られなきゃ」
    「そう言って私に咎められなかった事があるか?」
    「無いな」

    そこで無いとはっきり答えるのもどうかと思いますが、という陸遜の内心を見透かしたように周瑜が悪戯っぽく目配せしてくるので、咳ばらいを一つ。

    「それで、僕は孫権殿に書簡を届けるために足を運んだのですが……あいにく、孫権殿は夕方にお戻りになるとの事で。今日は公務を済ませていますから、待つ間に少しくらい庭先で書物でも読もうかと思っていたら穏やかな陽気に負けてしまったのです」

    開いた頁の真ん中にひらりと舞い落ちて来た桃の花びらに顔を上げると、咲き誇る桃の花が風に揺られて花弁を散らしていた。その美しさに目を奪われているうちに夢心地になっていたのか、いつの間にか自分は柱に寄りかかって寝息を立てていたという訳である。周瑜と孫策にこんな所を見られてしまった事で今更羞恥心が湧いてきた。

    「孫権のやつ、出かけてたのか。道理で部屋に行っても誰もいない訳だ」
    「私と孫策は南の方に一狩り行こうかと思っている」
    「なるほど……今回は何を目当てに?」
    「人食い熊が出ると聞いてから、腕っぷしを試しに行くと孫策が聞かなくてな」
    「おいおい、そんなの聞いたらわくわくするに決まってるだろ!」

    人食い熊。獰猛な、人の二倍はあるであろう体格で血に飢えた獣の姿を想像した陸遜は苦笑しながら首を横に振る。自分がどれだけ屈強な男性であろうとも勘弁してもらいたいものだ。

    「ところで」

    周瑜の指先が、そっと陸遜の手元を指す。

    「渡すと言っていた書簡とやらが、私の目には見当たらないのだが」
    「……え」

    言われて初めて手元に目を落とす。
    ない。確かに、書物はあれど書簡はない。

    「そんな、何かの間違いでっ……あ、」
    「ふむ。心当たりがあるようだな」
    「……うとうとと微睡んでいた頃に通りかかった誰かが転んで幾つかの書簡を落としていたのですが、おそらくその時に勘違いから拾ってしまったのでしょう。総当たりするしかありません」
    「そりゃあ大変だ。よ~し陸遜、良い事を教えてやる。今の時間なら親父と黄蓋のおっさんが裏庭で酒を飲んでるぞ」
    「いくら総当たりとはいえ、孫堅殿と黄蓋殿が書簡を落とす筈はありませんから……」
    「ははは、違いない!」

    さて、そろそろ行くとしよう。
    ひとしきり笑った後で孫策が周瑜の声に応じて背を向けた。人食い熊の噂について談笑しながら去っていく二人に、何処までも彼らは変わらないなと安堵にも似た笑みが浮かぶ。ふと、くるりと振り返った周瑜が陸遜を見やった。

    「陸遜」
    「はい、何でしょうか」

    その瞳は、穏やかに澄んでいた。

    「──随分と、いい顔をするようになったな」

    「は、」
    「そういう所はまだまだ未熟なようだ。褒められただけで固まっていては女性たちに可愛いと言われてしまうぞ」
    「揶揄わないでもらえますか!?」
    「では、」

    ぽかんと取り残されたままの陸遜をその場に残して、言いたいことを言うなり嵐のように去って行ってしまった二人の背を暫く見つめてしまう。次第に雑木林の向こうにその背が見えなくなってきてから、ようやく陸遜は顔をあげて太陽の位置を見た。そろそろ本格的に書簡を探す必要がある。

    陸遜もまた周瑜と孫策に背を向けるようにして、母屋の方へと戻っていった。

    ◇ ◇ ◇

    「あれ、陸遜じゃねえか。こんな時間に稽古場へ来るなんて珍しいな」
    「太史慈殿に周泰殿。その……書簡を沢山抱えている方を見かけませんでしたか」
    「って言ってもなあ……何かそれっぽいの、見たか?」

    太史慈の問いかけに、汗を拭いていた周泰は静かに首を振った。可能性の低い所から順々に潰して行って、最後に可能性の高い場所に行けば行き違いの可能性も無くなるからと考え、まずは稽古場に来てみたのだが手ごたえなし。

    「なるほど。次は中庭でしょうか……ちなみにお二人は何時から此処で鍛錬を?」
    「朝からだな。ひとりで稽古をするつもりが、鉢合わせたからにはお互いの為になるだろうと思ってな」

    疲労の色は微かに見えるが、二人とも瞳がまだまだ闘志に満ち溢れている。太史慈の表情はまだまだやれると分かりやすく示しており、周泰は物静かではあるが瞳にやる気を宿していた。案外、根本的な部分は似ている二人なのかもしれないと考える。何にせよ彼らのように熱心な武将たちが江東にいて良かった、と心の底から思った。

    「僕は書簡を探しに戻ります。適度な休憩はとられてくださいね」
    「ああ」
    「おうよ。見つかるといいな」

    ◇ ◇ ◇

    「あれれ、陸遜じゃないですか。何でこんなところにいるんです?」
    「小喬様……探し物をしておりました。書簡を沢山抱えた方を見かけませんでしたか?」
    「私よりも姉様に聞くべきです。丁度お茶菓子を取りに行っていて、陸遜も少しくらいどうです?」
    「お気持ちは嬉しいのですが、書簡が見つからないままでは安堵できず」
    「難儀ですねえ、私は重要な書簡の運搬だけはやりたくないです」

    もぐ、もぐもぐ。持って来たというお茶菓子の入った袋から、菓子を一つ掴んではまた口に放り込んで、その繰り返し。小喬がほわほわと甘味に舌鼓を打っているのはとても良いことだと思うのだが、その速度では大喬の元に戻るまでに全て食べてしまいそうだ。

    「小喬様。そのままでは大喬様の分がなくなるのでは……」
    「……あ~っ!?」

    驚くべきことに無自覚らしい。小喬はきょろきょろと周りを見渡したあとで陸遜に向き直り、大喬の居場所を伝えた後でお茶菓子を追加で取りに行ってしまった。

    「絶対、ぜーったい、私のつまみ食いを告げ口しないでくださいね!」
    「は、はあ……約束しましょう」

    勢いに押し切られた陸遜が戸惑いながらも頷くなり、爆速で来た道を引き返して行った小喬の姿はすぐに見えなくなってしまう。きっといつもこうなのだろう、という不思議な確信があったけれど、微笑ましい光景というものはいくらあってもいいものだ。

    ◇ ◇ ◇

    「あら」
    「あれっ、陸遜じゃない。こっちにいるって事はお兄さまたちに用?」
    「大喬様、尚香様。ええ、孫権殿に書簡を届けに来たのですが……」
    「ですが?」

    かくかくしかじか。陸遜の説明を聞いた後、孫尚香と大喬は揃って首を横に振った。

    「ま、走り回ってちゃ大変でしょう? 少しくらい休みなさいな」

    小喬に勧められた時は断ってしまったが、というか誰に茶を勧められても断るつもりでいたのだが、流石に孫尚香の誘いを断るのは憚られる。では一杯だけ、と席に着けば大喬が新しく茶を注いでくれた。

    「は~、お兄さまたちったらまた狩りに行くの!?」
    「その様子ですと、尚香様には知らされていなかったのですね」
    「私が聞いたら一緒に行きたがるだろうからって毎回なあなあにされてるの。私にだって熊の一つや二つは狩れるわよ! ……大きさによるでしょうけど」
    「あらあら」

    やはり兄妹だな、と思う事がある。孫尚香もまた孫家の血を継ぐ者で、陸遜が仕える人の一人だ。時々、いやかなりの頻度で騒ぎを起こしたりはすれど、自分がやらなければならない事も、自分の立場も、本当は誰に言われるまでもなく分かっている。だから呉に長く仕える者には、孫尚香を面倒だと思う者など一人もいないのだ。

    「ねえ、今度お兄さまたちと小喬も誘って皆で兎狩りにでもいきましょうよ」
    「実は狩場に同行したことは一度もないのです。孫策様はお強いですから、私がいたら足手まといにならないでしょうか?」
    「なあに言ってるの、あの孫策兄さまよ? 三人くらいおぶっても元気に走り回るわよ。ね、陸遜」
    「えっ、は、はあ……そうですね……」

    孫策が両肩に一人ずつ、それから頭の上に一人乗せているような光景を想像してみる。常人であれば重さで潰れてしまいそうなものだが、確かに孫策であればいけるかもしれないと感じてしまうのが不思議だ。

    「きっと孫策様であれば、豪快に笑いながら抱え上げてくれそうですね」
    「そうよ、陸遜。それでも倒れそうになっちゃったなら皆で支えてあげればいいだけなのよ」

    ほら、と空になった湯吞の代わりにお茶菓子の包みを渡される。

    「それが孫策兄さまだろうが孫権兄さまだろうが、同じなの。支える土台さえしっかりしていれば、決して孫家は折れないわ」

    そうでしょう? と語りかけてくる笑みは、大人びていた。

    ◇ ◇ ◇

    「呂蒙殿、魯粛殿。こういった事情で書簡を探しているのですが……」
    「ああ、とりあえず頭を一尺ほど右に動かすといい」
    「え? ──っうわ!?」

    呂蒙の言葉通りに頭を傾けたあと、つい先ほどまで自分の頭があった所を訓練用の模擬刀が通り抜けていった。ぞぞぞ、と寒気を覚えながら振り返れば遠目に甘寧が悪い悪い、と手を振って来る。その隣では凌統が苛々しながら溜息を吐いていた。稽古場で見かけないと思ったら中庭で手合わせをしていたらしい。まあ確かに、この二人が手合わせをするともなれば他の兵たちがいる稽古場よりも被害が及びにくい中庭がいいだろう。その横で呑気に酒を飲んでいる魯粛と呂蒙もどうかとは思うのだが。

    「危なかったですね、陸遜」
    「魯粛殿……正直、今まで立ってきたどの戦場よりも命の危機を覚えました」
    「書簡ですが、おそらく文官ではないでしょう。今日は皆、貴方が休んでいた棟には行っていない筈ですから」
    「此処まで来たら探し回るよりも孫権殿の所に直接行った方が良いと思うがね」
    「なるほど……そうするしかないようですね。ありがとうございます」

    それでは、と立ち去ろうとした陸遜の耳に二人の会話が飛び込んでくる。

    「甘寧と凌統は、あれでいて良い二人組になってきた」
    「当初はどうなる事かと思いましたが、上手く落としどころが見つかったのでしょう。後続の将たちが育っていくのは良いものですね。いやはや、お陰で安心して休めるというものです」
    「こんな風に昼から酒を飲んでなあ、ははは!」

    随分とご機嫌な二人に、思わず振り返った陸遜の視界を桃の花が遮った。風に揺られて散った花弁で視界が一色に染め上がる。ひらひらと、儚く、その先にいる二人の姿が上手く見えない。けれど、二人が穏やかな笑みを浮かべて此方を見ているであろうことだけは、いっそ苦しいくらいに良く分かった。

    「──陸遜、まだ君には早いさ」

    そんな声が、もう行きなさいと促している。

    ◇ ◇ ◇

    ふらふらと歩を進めているうちに、いつの間にか陸遜は孫権がいるであろう本殿まで戻って来ていた。日は沈みかけていて、夕方には戻るという言葉の通り灯がゆらゆらと部屋を照らし出している。部屋に入ろうとした所で丁度出て来た丁奉と徐盛が、陸遜の姿に気付いて礼をした。

    「以前任された件の報告に来たのですが、丁度歩練師殿が来ておりました」
    「邪魔にならないよう、足早に済ませた方が良いっすよ」

    そんな何とも言えない忠告のあと、徐盛と丁奉は彼らの言葉通り足早に本殿を後にする。その背をしばらくぼんやりと見つめてから、微かに笑みを浮かべた陸遜は孫権の元へと向かった。聞いていた通りそこには歩練師もいて、

    「あっ」

    陸遜が思わず上げた声に、二人がきょとんと此方を振り返る。そう、他でもない歩練師の手に握られていた書簡こそ──陸遜が探していたものだったのだ。

    「……という事がありまして。まさかあの時書簡を拾ったのが歩練師様だったとは」
    「わたくしもついさっき、孫権様に宛てた書簡が紛れている事に気付いたのです」
    「なるほど、そういった事情だったのか。二人に苦労をかけたな」
    「きちんと見ていなかった僕に落ち度がありますゆえ歩練師様、届けてくださりありがとうございます。それと孫権殿、周瑜殿と孫策殿から言づてを預かっております」

    人食い熊を狩りに行くという二人の話を伝えると、孫権はまたかとでも言いたげに、しかし愉快そうに笑う。いつもの事だからもう慣れた、とその顔に分かりやすく描かれていた。

    「なんだ、じゃあ熊鍋の準備でもして兄上たちの帰りを待つか?」
    「では……わたくしは大喬様や小喬様にもお声がけをして、調理法を吟味しましょうか」
    「ふ、ははっそれが良いな。練師、任せた」
    「ふふっ。任されましたわ」

    完全に蚊帳の外になってしまったな、と陸遜は内心で苦笑する。これ以上長居しては馬に蹴られてしまいそうだな、と退出しようとした陸遜を孫権は止めなかった。その代わりに、

    「という訳だ、陸遜。皆お前を待っているぞ──此処、呉の地で」
    「は、」

    役目を果たせ、と。
    上に立つ者の瞳で、孫権が強く語り掛けて来る。

    それを最後に、陸遜の意識は急激に途切れた。

    ◇ ◇ ◇

    「都督殿、お目覚めですか!」
    「……ぁ、ぐっ」
    「っまだ安静にしてください! どうか!」

    身体を起こそうとしてすぐに、其処にいるのが後方支援の医療兵だと気付く。自分は確か馬に乗り、少数精鋭の兵を率いて孫権のいる軍営本部へと伝令に向かっていた筈なのだが。

    「馬から振り下ろされた事を覚えておいででしょうか、頭を強く打ち付けたのです。命に別条はないでしょうが……」

    徐々に記憶が蘇って来る。

    森の中を急ぎ駆けていたところ、敵軍が先立って配置していた兵が夜闇の中で投石を。木々で上手くそれを躱しながら走っていたが、運の悪いことに石の一つが陸遜が乗っていた馬の頭を強く打ち付けたのだ。痛みに藻掻いた馬は上に人を載せている事を忘れ、暴れ、陸遜を思いっきり振り落とす。そうして投げ出された身体は斜面を転がりこそしなかったものの、頭を打って気を失ったのだ。

    ここは後方支援の医療兵がいる馬車。ということは、陸遜を此方に護送する兵の速度を考慮してもあの少数精鋭の兵たちの道のりは今頃軍営本部まであと半分といった所だろうか。いくらかの計算を頭の中で済ませた後、陸遜は不安そうにしている医療兵たちにひとまず礼を言って馬車から顔を出す。

    今、自分が成すべきことを、陸遜は誰よりもよく理解していた。

    「そこの兵。早馬と、護衛に回せる数名の兵を」
    「はっ、了解いたしました!」

    それからすぐに顔を引っ込め、身なりを整える。治療のために巻かれていた包帯を向かい風の中でも解けぬよう強く強く巻きなおしてくれるように頼めば、陸遜が今からでもこの大隊を離脱して軍営本部へ向かう気だと気付いた医療兵たちは青ざめていた。これではまるで怪我をしたのが陸遜ではなく彼らのようではないか。

    「都督殿、どうかおやめください。二度同じことが短期間に起これば、脳が耐え切れずに死ぬ可能性があるのです……!」
    「だから行くのです」

    陸遜の一言に、医療兵たちは口を噤むほかなくなってしまう。

    「敵軍が最も恐れることは、正確な情報と適した軍略を持った軍師が軍営本部で本隊と合流する事。そして本隊にとって最も意味を持つ伝令は、孫権殿からの信頼を頂いた都督の指示」

    味方を鼓舞し、檄を飛ばし、闘志を底上げする。そのために命を燃やすのだ。

    「僕でなくてはならない理由が、あるのです」

    ひとり、またひとりと陸遜の傷の手当てに加わる。固く巻きなおされた包帯にやや顔を歪めながらも、陸遜は冠を正して馬車の外に用意された馬に跨った。素早く護衛兵たちに行先と行程を伝え、馬を走らせる寸前に振り返る。馬を用意してくれた兵は慣れない様子でおどおどと陸遜を見つめており、それに笑みを返してやった。

    「所属は」
    「あ、五番隊の小隊に属しております! 名は──」
    「なるほど、新入兵ですか。素早い対応が見事でした。無事に軍営本部へ辿り着けたら、賞与を申請しておきましょう」
    「っは、はい! 光栄です!」

    それでは、と馬を蹴って軽快に走り出す。状況は芳しくはない。先行している少数精鋭の兵たちは陸遜らが合流する二刻は前に到着してしまうだろう。きっとその時、陸遜が敵兵により落馬したという報せは軍営にざわめきを呼ぶ筈だ。

    けれど不思議と──心は軽い。まだ、あの偉大な人々の背を追っていた青年の頃のような、そんな心持ちで自分は馬を走らせている。きっと日々に忙殺されていただけで、この心は昔から変わらないのだろう。

    状況が芳しくないからこそ行くのだ、と笑みすら零れた。

    先行した兵たちは陸遜が落馬し頭を打ち付けた事を知っていても、安否を知らない。軍営に広がった不安の中に陸遜が姿を見せ、敵兵など恐れるものかとこの身を以て示すのだ。それが何よりの激励となることを、陸遜はよく知っている。芳しくない状況の中で戦い抜いた者たちを見て来たからだ。この瞳で、しかと。

    燎原の火は未来に向けて燃え盛り、その行く手を阻むものは一つとして無い。

    「江東の未来を阻むものは、僕が全て焼き尽くして見せましょう──そうでしょう?」

    歴代の都督たちの顔が脳裏を過る。
    呉の武将たちの顔が、新旧問わずに瞼の裏を巡る。

    ──随分と、いい顔をするようになったな
    ──いやはや、お陰で安心して休めるというものです
    ──陸遜。まだ君には早いさ

    そんな都合の良いまやかしのような夢は、灼灼とこの胸で燃え盛る焔に。

    「皆で守ってきた江東を守り抜いてみせます。必ず」
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    Replies from the creator

    みちとせ🍑

    DOODLEオリアカワンドロワンライ、開催ありがとうございます

    家園の歩練師さんの思い出で時間が進むごとに恋から愛に変わっていく感じがとても素敵だなと思ったのでそこらへんの雰囲気らくがきです

    オリアカの歩練師さんと孫権さん夫婦かわいくて好きなんですけど、あの、史実……二宮の変のことが頭を過ると陸遜の関連ダメージが入るのでかなり胃痛がします 史実って何?(知らないふり)
    あなただけにあなたの傍にいたいと、願った。

    ◇◇◇

    貴方に嫁いだ日の事を、よく覚えている。

    「後宮に入ったら、もうこのように臆病じゃだめだぞ」

    柔らかな声で諭してくれた貴方の顔が見られなくて俯いたままのわたくしを責める事も呆れる事もなく、ただ優しく頭を撫でてくれた貴方の手のぬくもりを。

    その瞬間はまるで時が止まってしまったかのようで、けれど、その永遠のような一瞬の静寂の中で──わたくしの心臓だけは、鼓動が貴方に聞こえてしまうのではないかというくらいに高鳴っていた。

    今思えばわたくしは、あの瞬間に恋をしたのだと思う。
    貴方を好きになることは──この世界のどんな事よりも当たり前に思えたのだ。

    ◇◇◇

    「今度の戦いには自ら顔を出すのですか?」
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    みちとせ🍑

    DONEオリアカワンドロワンライ「陸遜」の開催、ありがとうございます。

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    おーい、と呼びかけるような声。それから肩を軽く揺らされて、意識を引きずり上げるように瞼を開いた。ちかりと光に眩んで、幾度か瞬きを繰り返した先で二人分の影が目に入る。

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    身なりをささっと正して先ずは礼を。寝起きだろうがその身体に染みついた礼儀作法は消える筈もなく、ただ縁側に腰かけて柱に頭を預けていたせいか陸遜の冠は微かに頼りなく揺れていた。当人は後から気付くのだろうが、それを目の当たりにした周瑜はまだまだ若いなと笑みを零す。

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