とんっと肩に温もりが触れる。映画を流しているテレビ画面から顔だけを右側に向けて見れば柔らかな紫色が私の肩に乗っかっていた。咄嗟に「浮奇?」と声をかけてから、もし眠ってしまったならそのまま寝かせてあげた方が良いかと気がついて空いている左手で自分の口を覆う。
「ん……ごめん、眠くなっちゃった」
「……寝ていいよ? 映画はいつでも見られるし」
「んー。でも、せっかくスハとデートなのに……」
「私のそばで浮奇がのんびりリラックスしてくれるなら、私も幸せだよ。それに浮奇の寝顔は可愛いから好きなだけ見られるのは嬉しいし」
「……恥ずかしいから見ないでよ」
囁くような小さな声は照れているように聞こえたから、私は浮奇の頭を落としてしまわないように気をつけながら顔を覗き込んだ。私の動きで察して上目遣いでこちらを見遣る浮奇と視線が絡み、ゆっくり瞼を閉じた浮奇に誘われるまま唇を重ねた。
本当に眠たいみたいでいつもより動きが緩慢な浮奇の舌は可愛らしいけれど、好きな人のことを一番に考えて早々に唇を離した。いつもより短いキスに目を開けた浮奇は不思議そうに私を見つめる。
ちゅっと甘やかすキスを送り、肩を抱いて浮奇を抱き寄せるようにしながら私はベッドに倒れ込んだ。今朝洗ったばかりの真っ白いシーツに浮奇が頬を埋める。
「いいにおい……」
「柔軟剤かも」
「洗ったばっかり?」
「うん、そう」
「ふふ……ふぅん……?」
「……」
「でも、ちがうよ。おれがいいにおいって言ったのは、柔軟剤じゃなくて、スハのにおい」
「……私?」
「部屋の中全部スハの匂いがするけど、ベッドが一番、ドキドキするスハの匂いだ……。スハの香水の香りも好き……でも、やっぱりスハ自身の匂いが好きだなあ……」
眠さのせいでとろけるような柔らかい口調で、浮奇は私を煽るようなことを言い、ふわふわとくすぐったいくらいの笑い声を溢しながら私との距離を詰めた。心臓の音が、聞こえちゃいそう。
「ごめんね、ほんとうに、ねちゃうかも」
「……うん、いいよ。起きたらまた私に構ってくれる?」
「ゆめのなかにも会いにきて」
抱き枕のように私を抱きしめ顎にキスをしてくる浮奇を少しだけ抱き上げて、優しく唇を重ねる。触れ合うだけの甘いキスをしてから、ほとんど閉じかけの目で私を見つめる浮奇におやすみを言うために顎を引いた。でも浮奇の手のひらが私の頬を撫でて「もっと」と囁くから、やっぱり、あともうちょっと。
抱きしめた浮奇の体がいつもより温かいのは眠さのせいか、私のせいか、どちらだろう。印象的な瞳が瞼の裏に隠れてもなお美しい浮奇の寝顔を見つめていたいと思うのに、心地好い体温に私まで眠気を誘われてそっとあくびをした。
私の背中に回った浮奇の手にわずかに力がこもって、求められるまま私は浮奇との距離をこれ以上ないってくらい近づける。慣れてない腕枕はきっと気持ちのいいものではないのに、浮奇はすうすうと穏やかに寝息を立てていた。
「……おやすみ、うき」
甘えるように擦り寄ってくる頭を優しく撫でて唇の端にキスを送って、私も眠気に抗わずに瞼を閉じた。
映画を見ている時の真面目な横顔も、私のことを見つめる可愛らしい上目遣いも、あどけなさの残る安心したような寝顔も、本当は全部ずっと見ていたいけど、抱きしめ合って一緒に眠るのだって大好きなんだ。
目を合わせてキスをできない分、夢の中できっと会おうね。せっかくだから、二人で空の上にでも遊びに行こうよ。