不器用ヒーローは、人間だ。無敵じゃない。
だから、当然風邪だって引く。
熱が出たのは一昨日で、一番酷かった。ただ、そっから今日までずっと微熱が続いている。別に怠いとか辛いとかそういうのはなくて、悪寒は少しあるけれど何か羽織れば普通に過ごせるくらいだった。
今、オレ以外のメンバーは、パトロールなり司令からの市民活動だったりで、今は部屋に一人だけ。
(……腹減ったな、何か食うか。)
自分のベッドから体を起こし、その辺にあった上着を羽織る。暖房は付いているが少し寒かった。
共有スペースに足を運ぶ。
カウンターには、オレのため用意してくれたのか、スポーツドリンクや簡易なゼリーが袋に入ったまま置いてあった。
「…おいおい、ちゃんと冷蔵庫に閉まっとけよなぁ…」
そんな独り言を言いながら袋を持ち上げ、一個一個冷蔵庫に仕舞う。…冷えたら、後で有難く頂くことにするか。今はそんな気分ではなく、ガッツリと何か食べたい気分だ。
しまうついでに、冷蔵庫の中身を見る。特に目ぼしいものはなく、アイツが好きなピザの具材が入っているタッパーがあるだけだった。
「……、ピザしかねぇな……たまにゃいいか。ピザでも。」
ピザの具材と睨めっこした後、それらを取り出した。
我ながら珍しい選択だ。いつもはピザを見るだけで胃もたれするのだが、ずっと寝たきりだったせいか腹が減って仕方ない。
具材は元から切ってあるため、包丁を使わず済んだ。ひと回り小さいピザ生地にトマトやミート、チーズを適当に乗せていく。ある程度乗せたところで、他にも何か汁物が欲しいなと、ふと、棚下にあるインスタントスープが目に入った。いつぞやディノが通販で買ったやつだ。あの時は、必要ないと怒ってしまったが、今はとても有難い。これなら何とか腹が膨れるだろう。
「…インスタントなだけあんな。楽でいいわ」
側面にある説明文を読みつつ、ビニールを引き裂き蓋を開けていく。
やかんに水を入れているところで、遠くからドアの開く音。
「ただいま〜って、……誰も返事はしないよな」
「お〜、ディノか。おかえり。」
「あっ!キース!体調は?!」
声をする方へ駆け寄ってくるディノに対し、変わらずだと伝えると今すぐ寝てくれと心配そうに言われた。
「寝過ぎて逆に疲れんの。それに、ふつーに腹減ってるしよ。誰もいねぇから自分で作るしかないだろ。」
「なら、オレが作るよ!キースは、大人しくしてて。」
ぐいっと両手で背中を押され、オレはディノによってキッチンから即追い出された。抵抗しようと思ったものの、怪力を持つディノには今は勝てっこない。大人しくカウンター椅子に座りそこで待つ事にした。