『幸福とは、とても甘く愛おしい。』髭セトif SS 子有
セトを眺めるだけで癒され、触れると吸い付くような肌触り、耳の後ろに鼻を押し当て、息を吸えば酔いが回るような心地よさ、柔らかな唇にキスをして甘い唾液を啜る。
依存というにも生ぬるく、セトに対する愛情の異常さに異国の神は眩暈がした。
男神のわりに柔らかい身体を抱き上げて、それが我が物のように頬にキスをする。
赤い絹糸の様な髪がさらさらと白い肌を滑る。
癖のない髪は、随分と珍しい髪質をしていたが、赤毛でありながら光沢のある艶やかな赤髪は、まるで猫の毛のように細い。
「んぁ…う、ぜ…眠らせろよ」
微睡の中にいたセトが掠れた声でそう言う。
昨晩の事情で枯れた声は妙に色っぽく、内耳から脳へと染み渡るように、セトの掠れた声が異国の神の心に落ちていく。
「…セト、私の可愛いセト」
自分でも驚く程、切実で縋るような声を隠すように、異国の神はセトの柔らかな唇を食んだ。
たったそれだけの愛の行為。
愛しい、愛しい者に対する異国の神の加護を、セトは有ろうことか食んだ口にガリッと音を立てて噛み付いた。
「…んっ、どうやら私の可愛いセトは、ご機嫌斜めでしたか。甘噛みが心地良いですね。もっと噛みます?」
半神が力を入れて噛んだとて、大した痛みでもない。
まるで仔猫が間違えて噛んだ様な力無い抵抗に、わざとセトの口内に舌を捩じ込んで噛ませてやれば、苛立たしげにセトは異国の神の髪を引っ張った。
「…はいはい。わかりましたから、そう気を立てないで…」
「いちいちムカつくんだよ。けむくじゃらが。俺は休みたいって言ってるだろ。良い加減寝かせてくれ」
腕に抱いた肌から伝わる熱が、普段よりも少し熱い。
熱っぽいセトに、昨晩無理をさせすぎたか。と、苦笑した異国の神は、「では、寂しいですが恋人の時間はまた後で。子供達の様子を見てきますね」と言って、セトの頬にキスをして、名残惜しそうに抱きしめた後、腕の中で瞼を閉じて眠りについたセトを蜂蜜色の瞳で眺めた。
幸福とは、とても甘く愛おしい。
おわり