ぬいとはじゅとー「これぬいってやつじゃん!うひゃーっ!かわいいー!」
撮影用に用意された小物として、俺と夏準さんのぬいぐるみが用意されていた。一目散に駆け寄り自分を手に取ると髪型はもちろん、服も細部まで作られていて感心してしまう。
隣に置かれていた夏準さんのぬいも目がくりっとしていてかわいい。ぬいはどこもかしこもすべすべで肌触りが良く、つい頭を撫でる指が止まらなくなる。みんながぬいを持って出掛けて写真を撮る理由がわかる気がした。俺もあとで個人的に写真撮らせてもらえねーか聞いてみよーっと!
「本当によく出来ていますね」
「ね!夏準さんのぬい、ちゃんとサングラスかけててちょーかわいいっスよ!」
「ありがとうございます」
夏準さんは自分のぬいを手に取り、確認をするように見ると机に置いた。「見せてもらってもいいですか?」と俺のぬいを見るので手渡すとやけにじっくりと見られた。まぁ、うん、いいんだけど、下からのアングルを見る必要is何?
そしてそのまま立ち位置に向かったので、慌てて夏準さんのぬいを持って追いかけた。な…なんで!?誘拐!?どのタイミングで返ってくるのだろうと見ているとカメラマンが言った。
「あ、互いの持ってるのいいね。そのまま撮っちゃおっか」
というわけでこのまま撮影はスタートした。自分のぬいであれば、片手で握るよう(巨人に捕まった人風)に持ってもいいが、夏準さんのぬいとなるとそうもいかない。どう撮ってもらおうか考えて、両手で持ってみたり胸ポケットに入れてみると好評で安心をした。
何枚か撮り終わり写真を確認すると、夏準さんの指が俺のぬいのあごを押して、変な顔になっている写真を見つけた。
「あー!夏準さんが俺のぬいに意地悪してる!」
「フフッ、すみません。あまりに可愛らしかったのでつい」
「つい!?」
悪びれる様子もなく、夏準さんはただキレイに笑うので、それ以上は何も言えなくなる。心理はわからないけれど、いじめたくなるほど可愛いと思われていると思うことにした。
それからスタッフさん達の話し合いを待っている間に、個人撮影の許可を貰ったので、好きに撮らせてもらった。夏準さんが何故か俺のぬいをなかなか手放してくれなくて困ったが、撮った写真を渡す約束をするとしぶしぶ貸してくれた。
◆
「これで本日の撮影は終了となりまーす!」
「二人共、そのぬいあげるから持って帰っていいよ」
「マジっスか!?やった!ありがとうございます!」
「ありがとうございます。ではお疲れ様でした」
そう言うなり、夏準さんは俺のぬいを持ってスタジオを出ていこうとするので、ちょいちょいちょい!と引き止める。
「そっちじゃなくないっスか!?」
「何がですか?」
「自分のぬい持って帰ってあげてくださいよ!」
「ボクには自分のぬいぐるみは必要ないので、差し上げます」
「え!」
「良かったですね、これでいつでもボクと一緒ですよ」
そう言ってウインクをすると、夏準さんは本当に俺のぬいを連れて行ってしまった。残された俺は頭の上にはてなが秋のとんぼ並みに飛び交っていた。