「へえ、食べてみたいな」とフィガロが言った。先日シャイロックのバーで提供された、薔薇の花びらを模したチョコレートの話をしたら。可憐で儚い薄紅色のチョコレートは、とろける甘さに微かなリキュールの風味を忍ばせた、覚えたての恋のよろこびみたいな味だった。
ファウストを煽動したのは、思い返したチョコレートの味? それとも、右手に持つグラスの底で揺らめくワイン?
ちろり、ちろり、とデスクの上のキャンドルの灯が揺れる。
眼差しの先、欲望の言葉を落っことしたくちびるをそっと見つめながら、眠たげにひとつまばたきをして。
「なら、僕のことは?」
寝間着のストールをしどけなく肩から滑らせているファウストは、上目遣いで微かに笑んだ。
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