館にて水場 続き #Hadesテキスト
口づけの合間に漏れた吐息が、濡れた唇を愛撫する。腰から首すじにかけて、身震いに似た小さなさざなみが駆け抜けていく。
この先に待つ快楽への期待。甘美な恐怖へまっすぐに落ちていくことへの、痺れるような陶酔。互いの境界を侵し合い、その果てに己の輪郭を失うことが……恐ろしくて、待ち遠しい。
自分の腰に走った震えを自覚しながら、ザグレウスはゆっくりと目を開いた。
「ンン……ザグ……ふ、」
「……タ、ン……!」
部屋に入るなり、ふたりは性急に求め合っていた。寝台ではなく、そのすぐ横の壁際に追い立てられたタナトスは不思議に思ったが、互いの呼吸を奪い合うようなキスですぐに思考が溶けていく。灯の落ちた室内で王子の葉冠だけが淡く燃え立ち、ときおりぱちりと爆ぜるのを、ぼやけた視界の端で捉える。
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