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    ドッジボール優勝賞品の温泉に後日いく神巫の話、書きかけのまま進まなそうなので出しちゃおっていう…あれ

    神巫温泉 神代は、本日の説教を終え礼拝堂から本部室へと戻る通路を歩いていたところだった。コツコツと廊下を歩く足音に紛れて上着のポケットに入っていた神代のスマートフォンから、やや控えめにメッセージが届いたことを伝える可愛らしい音が鳴った。
     神代はそれに気がつくと、1人静かな廊下で立ち止まり、ポケットからそのスマートフォンを取り出しメッセージを確認した。

     送られてきたそのメッセージを確認すると、自然と神代の口角が上がっていく。

     そこに神代の背後から突然「…なーにニヤニヤしてんだい」という少し呆れた様な声が飛んできた。
     
    「廊下の真ん中で立ち止まると迷惑だよ」
     
     神代の背中を背後からポンポンと軽く叩くと、その声の主である年配女性が神代の横に並んだ。まさに〝おばちゃん〟と呼称するに相応しい見た目の彼女は、神代の顔を見るなり、その不機嫌そうな顔を綻ばせ、優しい微笑みに変える。
     
    「…あ、すみません、虎子さん。」
    「教祖様は全く困ったもんだねぇ」

     そう冗談混じりの会話を交わすと、神代は虎子に微笑みかけ2人並んでその廊下を歩き始めた。
     
     「なんだい、また例の眼鏡の兄ちゃんかい?」

     虎子がニヤニヤした顔でそういうと、神代はエッ!?と驚いた顔を一瞬見せ、困った様に眉を下げて笑った。
    「はは……えっと…どうしてわかったんですか?」

     神代が不思議そうに虎子の顔を覗き込む様に尋ねると、虎子は自分の人差し指を魔法のステッキに見立てて軽く振りながら
     
    「おばちゃんはね、魔法使いなのさ。」

     と、得意げに答えた。
     神代は苦笑いで、ははは…と困った様な笑い声を口にしながら、共通の目的地である本部室の扉を開くと、虎子に目配せし、さながらエスコートする紳士の様に、虎子を先に通し入室した。

    天命教会館の本部室は公民館の会議室に近い見た目をしていた。囲む様に並べられた長机と年季の入った座布団が敷かれた木製の椅子が十数脚並んでおり、部屋の奥には数個のロッカーとファイルが敷き詰められた大きめの本棚があるだけの簡素な広めの部屋だった。
     
     この本部室には天命教の幹部とされる人間、および教祖の神代しか立ち入ることはほとんどなく、たまに用のある信者が訪ねてくるくらいで、ほぼ幹部と教祖の談話室兼休憩室となっていた。その机や椅子には、今日揃っている数名の幹部たちの簡単な荷物が置いてある。
     
     虎子は自分の定位置にどっしりと座ると自分の鞄をゴソゴソと探り、小袋に入った可愛らしい飴を神代にふわっと投げた。神代がそれを慌てて不恰好にキャッチしたのを見ると、虎子はニヤリと笑った。

    「……最近よくあの子と一緒に出かけてるみたいじゃないかい。珍しいねぇ…」
     
    虎子は勘ぐっているような声色でニヤニヤしながらひとり会話を続けた。
     
     「信者じゃあない奴には、アンタ気味悪がられてことごとく避けられるのにねぇ…」
     
    「…………」

     神代はそんな虎子の様子に少し緊張し照れながらも聞き流した。

    「……ま、おばちゃんは嬉しいよ。アンタがちゃーんと友達作ってくれてサ。」

     そう言い終わると同時に本部室の扉が開き、もうひとりの幹部が品よく入室した。
     
    「お疲れさまです、教祖サマ!今日の説教も、とっても素晴らしかったですよ。」

     彼の髪が揺れるたび真っ赤なインナーカラーがチラリと覗き、片耳のピアスがチカチカと光る。彼は虎子などまるで居ないかの様にただひたすら神代だけを視界に入れて会話した。
     そんないつも通りの彼の入室に、虎子は「やれやれ…」と言った表情でため息をついた。

     「ああ、はい…真道くんもお疲れ様です。今日も配信の手配ありがとうございました。」
     
     神代がそう言って彼に微笑むと、真道智明は口元をピクッとひくつかせた後、やたらソワソワした手振りで「いいえ、これは俺の役目ですから」とお面の様な貼り付けた笑顔で、彼ご自慢のMacBookを長机に置いた。

    「〝はいしん〟とやらくらい、このおばちゃんにだってきっとできるよ。アンタの仕事は忙しいんだろう?こんなに頻繁にココに来ることないよ……」
     
     と、虎子は横目で呆れる様にちあきに話しかけた。ちあきはというとほんの1秒真顔になったかと思えば、またあの何を考えてるかわからない笑顔を繕うと、「いいえ、俺がやった方が効率的かつ確実なんで」とさも当然と言った態度で堂々と言い放った。
     真道はその後も、わざと虎子のわからない難しい用語を並べて説明した後、いかに自分が必要なのかを淡々と述べるとぐるりと神代に向き直り
    「……ですよね、教祖サマ?」
     と神代に意見を聞いた。

    神代はというと、スマートフォンを確認していた様で、急にそう問われると画面から慌てて目を離し「えっ、はい…!…………はい?……えっと、なんでしょうか?」と混乱しながら苦笑いで聞いた。

    「…………」
     
     真道はただ神代を見つめながら笑顔のまま数秒フリーズすると、……パン!と手を叩いて
    「ま……、俺が来られる日は、俺が全力で教祖サマをサポートしますから…」と話を雑にまとめて会話を切り上げた。

     神代は再び自分のスマートフォンの画面に目を落とした。小渋さんからのメッセージには「今度の火曜日に時間ができそうだから、この間言ってた温泉に行かないか?」という簡単なメッセージがあった。神代は少し指を迷いながらスマホを軽く撫でて「はい是非!行きましょう!」と返した。

     ――――――――――

     約束の日、小渋巫律は温泉へ行くための簡単な荷物を持って神代と待ち合わせをしていた。
     駅前には週末ほどの人気はさほどなく、程よい賑わいが行き交う人の波を生んでいた。
     小渋は待ち合わせ場所でスマートフォンの画面を眺めていたが、ふと顔を上げて見れば、遠くからでも歩いてくる約束の相手の姿が確認できた。
     白くヘンテコな衣装、ほどほどに高い身長、長い紫色の髪……あれは神代賢悟である。
     その整った容姿も相まって雑多な人並みに決して紛れることのできない神代を見つける事は、小渋にとって至極容易なことだった。

     神代は1人待つ小渋を見つければ、ぱぁっと無邪気な笑顔で手を小さく小渋に向けて振った。
     
    「…小渋さん!早いですね。」
    「や…なんか…早く着いちゃってさ」

     ……小渋巫律は決して楽しみだから早く着いた、などというわけではなかった。本当に〝どうしてかわからないが早く着いてしまった〟のだ。
     今日が全く楽しみでなかったわけでは決してないのだが、この会話の流れとシチュエーションがまさにそう神代に取られかねないことを、言ってしまった後から無駄に悶々と危惧した。
     
     29にもなった男が、男友達と一緒に仲良く温泉に行く約束をして、それをあまつさえ楽しみにして早く着いてしまった〜などと、良い大人が、いささか恥ずかしい事なのではないか?と小渋は考えてしまっていたからだった。
     
    「そうなんですか!私は……ふふっ。その、恥ずかしいんですが……」
     
    神代はキョトンとする小渋を気にする様子もなく少し照れるそぶりをしながら続けた
      
     「…小渋さんと温泉だなんて、何だかワクワクして……私は早めに着いたつもりでいたので先に小渋さんが待ち合わせ場所にいて、驚いてしまいました。」

     「子供みたいですみません」と神代は口元を抑えてはにかんだ。

    「いやっ…!いいよ……!俺も、友達と温泉とか、経験なくってちょっと楽しみだったし!!」

     小渋巫律は今までうだうだ考えていた内心を吹き飛ばす様に、力強くそう返した。

     ――――――――――

    電車に揺られて十数分、ついにその温泉へと2人は到着した。
     
     賞品で貰った無料券が使えるその温泉は、神尼蒲市内にあるごく一般的な日帰り温泉施設だった。天然の木材を主に設計されているだろう新しくもどこか懐かしさを感じるその内観は、なかなか温かみを感じられた。

     神代と小渋が想像していたのは〝銭湯〟に近いものだったのだが、ここはどちらかというと感じは健康ランドの様だった。
     というかそもそも、この神尼蒲市内にテレビでよく見る様な温泉など存在しないと思い込んでいたが、どうやらここはれっきとした天然温泉を引き湯して使っているようだ。
     
    どうやらこの施設は券売機で発券して先払いするシステムのようだったが、貰った賞品の無料券を受付の人物に渡すと、「浴場はあちらになります、どうぞごゆっくり」とごく普通に通された。
     

     神代は脱衣所のロッカーの前に立ち、あのヘンテコな教祖着を簡単に畳みつつ衣服を丁寧に脱ぐ。神代のあの特徴的な長い髪は水に浸からぬ様、バレッタの様なもので止められていた。小渋はというと、そんな神代を特に何も気にする様子はなく「なんかここ、けっこー広い露天風呂があるらしい。さっきロビーで書いてあるの見た」などと世間話しつつ脱衣の手を進めていた。

     神代は一通り脱ぎ終わると、腰にしっかりタオルを巻いて、これぞ銭湯スタイル!と言わんばかりに嬉しそうにしていた。
     
    「さ、いよいよですよ小渋さん!今日はたくさん疲れを癒して帰りましょうね!」

     神代はそう宣言すると、堂々と浴場に1人入って行った。

     小渋は神代のそのちゃっかり巻いてある腰布姿を見て、何も思わずさらけ出していた自分の股間をそっと片手のタオルで隠して、神代の後について入った。


    ――――――――


     浴場は室内浴場と屋外の露天風呂に分かれていた。バスシェットがでるものなどさまざまな面白い風呂があり、サウナもどうやら設置されているようだった。
     その湯の熱気で小渋のメガネは一瞬にして曇り、神代をクスリと笑わせた。小渋はそんな神代の様子も見ることはできず、見えにくそうに眼鏡を拭いたり外したりして1人 四苦八苦していた。

     2人は軽くかけ湯を済ませると、当然のように露天風呂へと直行した。
     外に出ると風が露出した肌に当たり、少しひんやりする。
     小渋の言った通り、なかなか広い石造りの露天風呂がここにはある様だった。既に何人かの先客がまばらに入浴しており、それぞれの疲れをそこで癒していた。
     
    「わ、ずけーな、マジで広いじゃん」
     
     小渋はそう言いながら、特に躊躇することもなく、その広い露天風呂ざぶざぶと入り肩まで浸かった。
     小渋が早くお前も入れよと言わんばかりに神代を見ていると、神代はおずおずとゆっくりその湯に片足を入れてみる。

    「ああ、結構熱いですね…」と神代はそう言いながら両足を入れると腰に巻いていたそのタオルを取り、ゆっくりと身体全体を湯に浸けた。

     2人はゆっくりと湯の温かさが体に染み入る心地を感じる。涼やかな風は、温められすぎた頬を適度に冷やす。この絶妙なバランスの組み合わせが、極楽と呼ぶにふさわしい心地を生んでいた。これこそ露天風呂の醍醐味だろう。

    「〜〜…」

    「…気持ちがいいですねぇ」

     小渋が顔が出るギリギリまで湯に体を沈め天を仰いでいると、神代は湯に浸かったままスイっと小渋の隣に移動し、露天の淵の石に両腕を置き身を乗り出す様に体を預ける。


    「神尼蒲市内こんな温泉施設があるなんて、私、今まで知りませんでした。」
     
    「だな、俺も知らなかった。無料券、貰えてよかったな?」

    「ええ。頑張って優勝した甲斐がありましたね」

     神代は横目でそう言いながら微笑みを小渋に向ける。神代のその白い頬には血色の赤みが既に浮き上がっていた。まるでりんごの様な頬だな、なんて考えながら見ていると、神代は急に小渋の頬を触れるくらい近くで指差した。

    「小渋さんって肌、赤くなりやすいんですねー。ふふっ…茹で蟹みたいですよ」

    「え?」

     小渋は自分の頬を抑えてみる。確かに頬は熱を持っていた。自分の肩を見ると真っ赤になっているのがよくわかった。

    「お前もだろ」

     そういうと小渋はニヤニヤ笑いながら神代にパシャリとほんの少し湯をかけてやる。

    「あ、いいことを思いつきました!温泉たまごの様に、温泉で茹でる温泉蟹って良くないですか?」

    「 蟹を?源泉の温度次第だな。」

    「タラバガニと入る露天風呂、柚子湯ならぬ蟹湯…とか」

     小渋はそれを聞くと呆れたように

    「蟹から一度離れろ神代…」

     と神代の昂る想像力を嗜めた。
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