冬ぬくし 冬は寒いものだと思っていた。
キンと冷えた空気が肌を刺す。それを肺に入れないよう細く息を吸いながら、魏無羨は足早に歩いていた。今夜は月が明るい。雪に覆われた景色は、冴え冴えとした光に照らされてまるで銀色に輝いているようだ。
亥の刻はとうに過ぎ、雲深不知処内はひっそりと静まり返っている。静けさと冷たい空気が相まって耳の奥がつきんと痛む。
そんな静寂に包まれた銀世界に暖かい明かりがひとつ。静室だ。自分のために灯されたそれに向かって魏無羨は弾むような足取りで駆け出していた。
「ただいま、藍湛!」
勢いよく扉を開けると、暖かい空気とそれよりももっと暖かい腕に包まれる。
「おかえり、魏嬰」
魏無羨は躊躇なくその腕に飛び込み檀香の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。それだけで、抑えようのない感情が湧き上がって口角が緩む。
全身に冷気を纏わせたまま、にこにこと上機嫌な魏無羨に、藍忘機はそっと顔を寄せた。魏無羨の赤くなってしまった鼻に藍忘機の形の良いそれが触れる。
「……! 魏嬰、早く沐浴を」
氷のように冷え切った肌に藍忘機が慌てて湯の用意をしに行こうとするのをしがみついて止めた。
大丈夫とかぶりを振って魏無羨はちゅっと触れるだけの口づけをする。
灯された明かり。抱きしめてくれる腕。愛しいぬくもり。
冬は寒いものだと思っていた。
だけど、今は。
「藍湛! 俺、今すごくあったかいんだ!」