螺旋③(冒頭のみ)「ふっ……んぁ……く、ぅっ」
灯りの消された室内に抑えられた喘ぎ声が密かに響く。喘ぎ声と微かな衣擦れ。そしてくちくちと粘りを帯びる湿った音。
くちゅ……くちり、ぐちゅり。
こんなことをしては駄目だと、頭ではそう解っているのに、ぬるつく両手を止められない。きっと部屋に満ちたこの香りのせいに違いない。
時は亥の刻。
家規に則り就寝しようと寝台へと向かった魏無羨は、そこで見慣れぬ小瓶を見つけた。手に取ろうとしてうっかり倒してしまい、不運にも蓋が開いて零れた中身にその正体を知る。
それは藍忘機がいつも持ち歩いている例の香油だった。
彼が忘れていったのかと思う間にもトプトプと零れていくそれを咄嗟に掌で拭ってから、まずいと思った。思ったところで後の祭り。
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