テマリ様は告らせたい 人を好きになり、告白し、結ばれる。
それは、とても素晴らしい事だと誰もが言う。
だが、
それは間違いである!
恋人達の間にも、明確な力関係が存在する。
搾取する側と、される側。尽される側と、尽す側。
つまり、勝者と敗者が存在するのだ。
気高く生きたいのであれば、決して敗者になどなってはならない。
恋愛は戦。
好きになった方が負けなのである。
♥️ ♥️ ♥️
鉄の国、忍連合本部!
かつて第四次忍界大戦を機に結ばれた五大国同盟が基となった、忍界になくてはならない組織である!
現在は五大隠れ里のみならず、大陸全土の隠れ里が参加を表明。各里より選出された忍達が百名ほど常駐しており、日夜忍界の発展のために働いている。
しかし、平和を望む気持ちは同じであっても、全ての垣根が完全に消え失せたわけではない。各里それぞれに事情や思惑があるため、忍連合には属する里の違う忍同士を率いて纏め上げる確かな存在が必要である。
そこで、連合の発足人たる五影達によって抜擢されたのが、忍界の次代を担う十人の若き忍達だ。
当然ながら、そんな選ばれし十名が凡人であるはずもなく――――――――!
「ねぇ、見て! 会合が終わったみたいよ!」
「やっぱ風格あるなぁ……!」
「歩く姿も凛々しくて憧れちゃうわ!」
興奮を隠し切れない様子で囁き合う忍達の視線の先にいるのは、定期会合を終えて円卓の間から出てきた十名の選ばれし者達だ。
廊下の中央を堂々と歩く彼らは皆、次代の影になる器とされる忍界屈指の実力者。その全員が羨望の的である事に違いはないが、そんな中でも特に注目を浴びている二人がいる。
一人は砂隠れの里の忍代表、テマリ。
先代風影・羅砂の長子にして当代風影・我愛羅の実姉である彼女は、正真正銘の姫である。
その血の優秀さを語るが如く、風遁においては忍界トップクラスの実力者。加えて分析力・交渉力に長けており、外交官としても極めて優秀。
それが、砂のテマリという女傑だ。
そして、そんなテマリと共に注目を浴びているのが、彼女と連れ立って歩く一人の男。
木ノ葉隠れの里の忍代表、奈良シカマル。
剛毅朴訥、聡明叡智。知能指数は200以上。格上相手にも怯む事なく、その並外れた頭脳で活路を見出して挑むキレ者である。
次期影忍の内定者を含む忍界屈指の猛者が集う会合にて、満場一致の推薦で抜擢されたリーダー。その類まれなる聡明さは今や忍界中に知れ渡り、「忍連合に木ノ葉隠れのシカマルあり」と謳われているほどだ。
そんな二人が一体なぜ、十名の中でも一際注目を浴びているのか。
それは――――――――、
「ほら見て! またお二人一緒よ!」
「いつ見てもお似合いだわ! あれでまだ付き合ってないだなんて……!」
「お二人とも里にとって重要な方だから、上層部の都合で公にさせてもらえないんじゃない?」
「それ有り得るわね! うちの上層部、考え方が古いもの」
「つまり、お二人はすでに秘密の恋人関係って可能性が……!」
「ちょっと、アンタ達は砂忍でしょ。テマリさんに聞いてみてよ」
「聞けるわけないでしょう 相手はテマリ様なのよ」
「そうよ! だいたい、そんな簡単に聞けるなら私達とっくに聞いてるわよ! もう三年近くずーっと気にしてるんだからっ!」
砂のテマリと、木ノ葉のシカマル。
里が違う二人の関係性には忍連合本部に常駐する忍達の多くが注目しており、こうして二人一緒の姿が目撃される度に、決まって二人の仲を話題にする者が現れるのだ。
上官にあたる者をネタにしているわけなので、彼女達が本人を前に大声で盛り上がる事はないが、弾む小声は彼女達が考えているよりもずっと響きやすく、周囲の静けさによっては本人達の耳まで届く事もある。
ヒソヒソと噂話が飛び交う廊下の中央を素知らぬ顔で堂々と歩いたテマリは、角を曲がってからその口元をそっと緩ませた。
定期会合が終われば基本は解散。一緒にいる必要はないが、テマリは会合で使った資料を片付けると言うシカマルに手伝いを申し出て、そのまま穏やかな表情で隣を歩く。
「その……くノ一達が騒がしくしてすまないな」
資料室で二人きりになってから、テマリはシカマルに話しかけた。
「噂なんて面倒なもの、お前は嫌だろうに……」
資料を棚に戻していたシカマルは、テマリの横顔にちらりと目を向けて「あー…」と口を開く。
「オレは別に構わねぇけど。アンタの迷惑にさえなってなきゃ……」
「お前がいいなら私は構わない」
言葉を選びながらゆっくりと話すシカマルに対し、テマリはきっぱりとそう告げた。
それに、とテマリは胸の内で言葉を続ける。「実際、私達はデートしている仲じゃないか。だからこの期に及んで迷惑など思うわけがないだろう」と。
数週間前、テマリはうずまきナルトの結婚式に参列した。結婚祝いについてシカマルから相談された際のすったもんだは無事解決し、式場では仲直りしたシカマルと手を繋いで歩いた。
明確な言葉で想いを確認し合ったわけではないが、デートらしい洒落た店で食事をし、人前で手も繋いだ。接吻はまだだが、知り合ってからはすでに七年。二人とも年頃の男女なのだから、近いうちにそれも経験する事になるだろう。そして、その先も、きっと。
シカマルが望むならば、テマリは全てを捧げる気でいた。
すでに心の準備は出来ている。里を超えた恋愛になるのだから、生半可な気持ちで育む気はない。すでに想いは通じ合っていると信じているからこそ、関係を進展させるのに口約束は必要ないとも考えていた。
しかし、男だ女だと口うるさい古風な面を持つシカマルの事だ。関係性を明確にしないまま手を出してくる事はないだろうから、おおかた今は何十通りもの告白シチュエーションを検討中に違いない。
つまり、告白されるのは時間の問題。
黙々と資料を片付けるシカマルの横顔をちらりと見上げ、テマリは資料で口元を隠しながらこっそり勝ち気な笑みを浮かべた。
さあ、シカマル。
いつでもかかってこい!
――――――――などと、待っているうちに。
特に何もないまま、半年が過ぎた!