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    4230Eri

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    ユアモラ(ユキモモ)

    戦いの中でのワンシーン

    #ユキモモ

    もう怖くないよ「くそっ……本当にキリがないな」

    ショットガンの弾をリロードしながら、この終わりのない状況に対して悪態をつく。倒しても倒しても湧いてくるギャザード。一つ一つの個体はたいして強くないが、数が多い。ゆえにこちらの体力や弾がいつ切れる分からないという状態だ。なんとか見える範囲の敵は全て倒し、安全なところへ避難させていたモランくんの元へ向かう。

    「モランくん、大丈夫?怪我してない?」

    厳重に作っておいたバリケードを退けて、大人しく隠れてくれていた彼に話しかける。だが、彼からの返事は無い。不思議に思って彼の姿をよく見ると顔は青ざめているし、首にかけていたヘッドホンは頭に付けていて完全に耳を塞いでいる。まるで、何の音も聞きたくないといわんばかりに。

    「ねぇ、どうしたの?何かあった?」

    とにかく状況を把握しようと思い、モランくんの肩に手を置いて軽く体を揺らす。すると、やっと僕の存在に気付いたのかモランくんが顔を上げて口を開いた。

    「……あ、ユ、ユアムさん」
    「こんな所で待たせてごめん。改めて聞くけど、どこも怪我してない?大丈夫?」
    「あ、うん。大丈夫。噛まれたり引っかかれたりもしてないし、ギャザードとも遭遇してないよ」

    まだ顔色はあまり良くないが、ちゃんと受け答えは出来ているし、見たところギャザードに襲われた形跡もない。とりあえず彼が大丈夫そうだと分かり、そっと胸を撫で下ろす。

    「そうか。なら良かった。とりあえずこの辺のやつらは片付けたけど、ここも安全とは言いきれない。悪いけど、また移動しないといけないみたいなんだ。動けそう?」

    僕がそう尋ねると、モランくんは首を縦に振って頷いた。だが、立ち上がろうとして体を動かした瞬間、モランは体勢を崩してその場に倒れ込んでしまった。

    「?!モランくん!」
    「あ、あれ……?なんか立てないや……」

    不安になって彼の傍に駆け寄る。気付かない間に足でも捻ったのかと思い体に触れると、彼の体が小刻みに震えている事が分かった。そういえば先程も青ざめた顔をしていたし、ヘッドホンをした状態で体を小さく縮めていた。もしかして、何か怖い思いでもしたのだろうか。

    「ねぇ、モランくん」
    「な、何……」
    「正直に答えて。僕が来るまで、本当に何も無かった?」
    「……」

    モランくんの顔が、より一層青くなる。これは確実に何かあったと、僕は確信した。

    「大丈夫、何があっても君の事は守るから、僕に教えて。お願い」
    「うん……」

    一呼吸おいて、モランくんが話し始める。

    「実は、さっきこの辺りにまでギャザードが来たんだ。と言っても、もうほとんど動いてなくて、地面を這い蹲ることしか出来ない程度の。それで、オレどうにか退治しようと思って攻撃したんだけど、焦っちゃって上手く倒せなくてさ……本当にギリギリの所でなんとか倒せたんだけど……」
    「うん」
    「……なんかさ、さっきまで皆と一緒だったから大丈夫だったのに、急に、こわく、なって……あ、オレ、もしかして、ここで、っ……終わっちゃう、かもって……思っ、て……」
    「……うん」
    「で、そしたらさ、ますます、怖く……っ……なっちゃったんだ。もう何も見たくない、し、聞きたくない。怖い。こんなの嫌だ、って……」
    「そう……よく頑張ったね。偉いよ」

    話ながら泣き出してしまったモランくんの肩を抱き寄せ、優しく背中を擦る。すると緊張の糸が切れたのか、彼は僕の肩口に頭を押し付け、声を押し殺しながら泣いていた。後輩や自分より怖がってる人もいる手前、無理して強がっていたのだろう。だけど本当は怖くて、それを表に出さず一人抱え込んでいたようだ。いくら映画やゲームみたいな状況とはいえ、自分の命が危険に晒されるなんてこと、誰でも嫌に決まっている。僕としても、こんな場所からは一刻も早くおさらばしたいものだ。

    モランくんが落ち着くのを待ちながら、この後の動きについて思考を巡らせる。 出来ることなら無理やりにでも施設の壁を壊して外からの救助を要請したいところだが、生憎ここは地下なのでそんな事をすれば最悪自分達が瓦礫の下敷きになってしまう。それに今はどこの部隊も出払っていて、救助を待っていても助かる望みは薄い。やはりこれまで通りギャザードを倒しながら進む他ない。だが、このままではモランくんの精神がどんどんすり減っていってしまう。下手をすればパニックを引き起こすかもしれない。考え抜いた末、僕は彼にある事を提案することにした。

    「モランくん、大丈夫そう?」
    「うぅ……ごめんなさい、みっともない所を見せて……」
    「無理もないよ。急にこんな事になったんだから、不安になったりするのは当然」
    「そう、かな」
    「うん。だからさ、君さえ良かったらなんだけど……」
    「?」

    首を傾げるモランくんにむかって、僕は自分の手を差し出した。

    「ここから出るまで、手を繋いでいよう」
    「え……?!」
    「怖がる君を一人で歩かせたくないし、何より手を繋いでいれば、とっさに君の手を引いて守ることが出来る。それに触れている分、体温とか脈の変化にも気付きやすい。今の状況としてはかなりメリットが多いと思うんだけど、どう?もちろん、君が嫌なら無理にとは言わないけど」

    普段であれば歩きづらいからとか動きづらいとか、色んな理由をつけて人と手を繋ぐことを拒んでいただろう。だけど、何故かこの子の手を取らずにはいられなかった。彼が自分にだけ弱みを見せてくれたからなのか、民間人を守らなければならないという自分の使命から来るものなのかは分からないが、彼を自分の手で繋ぎ止めておきたいと心の底から思ったのだ。

    「えと……ユアムさんの、お邪魔にならないのであれば……是非……」

    少し悩んだ末、モランくんが差し出していた僕の手を取り、そのまま握ってくれた。緊張と恐怖でまだ少し震えているし冷たさもあるが、なんとかここから移動出来るぐらいには回復しているようだ。

    「よし、じゃぁ引き続き気を引き締めて移動しよう。何あったらすぐに僕に教えてね。隠したりしなくていいから」
    「はい!」

    手を握る力が、ぐっと強くなる。繋がれたこの手は、僕と彼の決意だ。絶対に生きてここから出るという、果たさなければならない約束を胸に僕たちは歩みを進めた。
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    以前フォロワーさんらと話していたLOVE/LESSパロ…というか耳の設定だけ拝借したはなし。

    耳あり時空だと同棲時代がますます甘苦しい泥沼になりそうでモモちゃんが切ないね。
     耳のないアイドルってどう思う?
     自分の心臓が大きく一度、跳ねたのがわかった。
     即座に、なんてことないふりをした。どうゆうことー、と殊更明るい調子を装って、ジョッキを揺らして酔っ払いの真似事をしながらどうか、きっとほんのコンマ一瞬、こわばった顔を見られていませんようにと願った。
     耳が落ちる、とは。
     耳を持たないということ。とは。
     自分ではない知らない誰かに身体の奥深くまで愛されたことを堂々と白昼に晒して、そんな生々しいパーソナルデータを周囲に見せつけて、それで笑っていられるのかと言外に言われた気がした。
     アルコールが揮発して満ちた部屋の中に自分の吐息から嘘が溶け出して、異臭を放つような錯覚。誰も気づかないで。落ち着きなく、ぬるくなったビールで唇を湿らす。口の中が乾いていく。喉が引きつって、うまく笑えているか分からなくなる。
     みんなから愛されたいと願いながら、みんなに愛してほしいと訴えておきながら、もうたった一人の誰かの腕に抱かれてしまったオレの真実に気づかれたくなくて怯えている。
     ――嘘。
     本当はもっと怖いものがあるよ。
     可愛いねと微笑んで指差すその耳が本物じゃない 2762