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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 46
    魔法舎 ネロファウ

    ##1日1ネファネチャレンジ

    言霊を飲み込んで思っていることと正反対の言葉が出てしまう。
    「はい」は「いいえ」に、「暑い」は「寒い」に。
    五ヶ国先生会議の差し入れに、と持ち込まれた砂糖菓子はどうやらよくあるパーティーグッズだったようで。

    「だからって、そんなしかめ面するかね」
    『うるさい』
    「ご丁寧に魔法で文字を空中に書いてまで」

    この世の終わりのような顔をして訪れたファウストを迎え入れてから、ネロはどうしたものかと考えあぐねている。落ち着くようにと淹れたハーブティーは口を付けられないまま、テーブルの上で冷め切っている。所詮おふざけの魔法がかかっただけなのに、何をそんなに意地になっているのか。ファウストの心境が分からない。

    「ファウスト、俺のこと好き?」
    『聞くな』
    「それじゃあ効果が切れたかどうか、確かめられないだろ。あんたがはっきり言ってくれる言葉の方が分かりやすくていいし」
    『言葉を安売りするな』
    「じゃあなんで俺の部屋きたの」

    どうすりゃいいんだよ、と困り果てるネロを、ファウストは口を真一文字に引き結んだまま睨むように見つめた。目は口程に物を言う、とは言ったもので、ファウストの双眸は「どうして分かってくれないの」と切々と訴えている。でも、分からないものは分からないのだから仕方がないだろう。怒っているわけではないのだと伝わるように「なんで?」と努めて優しく問いかけたネロに、ファウストは口を開きかけて、閉じた。

    『きみに、嫌いだなんて言いたくない』

    ネロのことが好き。大好きだから、それだけ強い真逆の言葉が出てしまう。例え魔法のせいだとしても、大事な人を傷つける刃をファウストは振り下ろしたくなくて必死なのだ。
    言葉には重みがあり、言葉には力が宿る。
    魔法使いは心を言葉に乗せて魔法を使う。

    『僕に、きみを傷つける言葉を言わせないで』
    「魔法のせいって分かってるし、慣れてるから大丈夫だって」
    『嫌だ』
    「あんたからの言葉なら、呪詛でも罵倒でも、何だっていいよ」
    『絶対に嫌だ』
    「頑なじゃん」

    ――頑なにもなるだろう。
    慣れてる、だなんて言わないで。
    慣れてしまうまで心無い言葉をぶつけられてきたことを、当然のように思わないで。
    沢山傷付いたきみには優しい言葉だけをかけてやりたい。
    優しい言葉があるのだと、照れて恥ずかしがって困り果てるほどに教えてやりたいのに。

    ファウストの訴えは伝わったけれど、ネロはその心をやはり理解できないでいる。
    だって今更だ。六百年生きてきて、世界の醜悪さなど見飽きるほどに見てきた心は瘡蓋だらけのひどいもので、年若い魔法使いのように傷のないつるりとした美しい面など、もうとっくに残っていやしないのに。

    「(魔法で自分の声を出せなくしてるのも、そのせいか)」

    こんなに必死に守るものでもないだろうに。
    ネロはそう思うけれど、ファウストはそうは思わないということだろう。
    難儀な男を好いて、好かれてしまったファウストに、今更ながら同情する。

    「……もう。頑固なやつ」

    泣きそうな顔をして首を横に振るファウストに、ネロは駄々をこねる子供に向けるような眼差しで笑いかけた。ふ、と吐き出した苦笑は、優しすぎる彼への呆れと、その優しさに正面から向き合えない自分への呆れ。
    二人の間に沢山ある、価値観の溝。躓きながら、時折埋めたり深くしたりしながら生きていくしかない。

    「声が出せなくなる魔法は解くよ。そんなしんどいこと、自分でしないで」
    『嫌だってば』
    「言いたくない言葉が出そうになったら口塞いでやるから」
    『すけべ』
    「そのすけべの所に来ちまったファウストが悪いよ。ほら」

    <アドノディス・オムニス>

    両手で優しく包んだ頬を撫で、少し顔を上向かせる。はくりと酸素を吸って少しむせたファウストは、この後何を聞かれるかを察しているらしく、悔しそうな眼をネロに向けている。

    「ファウスト」
    「…………なに」
    「俺のこと、好き?」

    ぐ、と白くなるほどに引き結ばれた薄い唇が、やがて震えながらゆるりと開く。
    どちらの言葉が出てきても塞いでしまおう、とネロはファウストに顔を寄せた。
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
    2216

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