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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 67
    現パロ ネロファウ
    ※殺人描写があります
    ※犯罪行為を許容・推奨するものでは一切ありません

    ##1日1ネファネチャレンジ

    叶うなら、地獄の果てまで『ファウスト』
    陽の光の下で、柔らかくとろけて滲む蜂蜜色の瞳が好きだった。
    水仕事で所々のかさついた、あたたかい手が好きだった。
    優しくて穏やかな、ネロという男が好きだった。


    「……ファウスト」
    フードを被ったままの男の足元には、先ほどまで人間だったモノが転がっていた。
    好きだった瞳は今、月明りの下で爛々と、襲い来る雀蜂のように輝いている。
    好きだった手には今、血を滴らせながら鈍く光る銀の刃が握られている。
    優しくて穏やかなはずの男は今、ファウストに冷たく向き合っている。
    「あんた、なんでここにいんの」
    ネロが着ている黒い上着の腕に刻まれた紋章は、治安組織のそれを逆にしたもの。
    ――ほんとうに、いるのか。
    治安組織の特別部隊。表で対応できない事案に対してのみ出てくると言われている、所属している人員も人数も、ましてや存在すら公にされていない影の部隊。
    そういう奴らがいるらしい、と都市伝説のように語られていた集団は今まさにファウストの目の前に実在しているだけでなく、恋人はまさにその関係者であった。
    「……うちに、忘れ物しただろう」
    「ん?あー、確かにサブバッグ忘れたかも」
    「それを、届けようとして」
    「わざわざ?明日でもよかっただろ」
    「……届けて、少しでも会いたかったから」
    ぱち、と見開いた目は普段ファウストに相対する時の輝きに戻っている。会いたかったの、と問いかける声色も、今日何食べたい?と献立を聞いてくる声と変わらない。
    先程感じた冷たさは嘘のように、普段通りのネロに戻っている。
    「……それ」
    「ん?」
    「その人、死んでるの」
    「うん」
    「きみが、やったの」
    「うん」
    何でもないように淡々と幼い返事で返すネロは、本当に何でもないような顔をしている。今日の夕飯に使う魚を捌いてきました、と言われても疑いの念すら抱かないほどに普段通りで、転がっている死体の方が場違いなのではと思ってしまう。目の前の光景とネロの態度がちぐはぐで、ショートしかけた思考回路でファウストは頭痛がしてきた。
    分からない。少なくともファウストの知るネロは優しくて穏やかで、家に入り込んだカナブンの一匹すら「もう迷い込んでくるなよ」と外に逃がしてあげる男だ。つい数十分前だって、ファウストのことを甘やかして、週末はどこか出かけようなんて約束もして。
    「……表に出ていないだけで、断罪されるべき人間はごろごろ転がってる」
    ファウストの思考を遮るように、ぽつりとネロが零す。
    「人の命を奪うことに合法も何も無いのかもしれない。けど、利権や、癒着や、クソくだらないモンに守られて、裁かれるべきなのにのうのうと生きては罪を繰り返す人間がいて。そいつらに苦しんでる人々を踏み台にした平和が合法だって言うなら、俺達はそれに逆らうよ」
    だから治安組織の逆になってんの、とネロは左腕の紋章を握り締める。
    暗闇に慣れたファウストの両目は、その姿をしっかりと捉えている。どこにも返り血なんて浴びていないのに、全身傷付いて血塗れのように映るネロは、この社会の闇に傷付いていた。
    「……ネロ、」
    「ファウスト、早くここから立ち去りな。もうすぐうちの人間が来る」
    「どうして」
    「これ、片付けないとだし。見ちまっただろ。あんたを巻き込みたくない。言い訳なら得意だから」
    「……」
    「……頼むよ」
    善悪なんて分からない。もしかしたら、そんなものすら存在しないのかもしれない。
    法律だって所詮、誰かが勝手に決めた決まり事だ。本当に正しいのかは誰も分からないし、正しい事とは何かすら、絶対的な答えを持つ人間は存在しない。
    本当は『善い』とされること・『正しい』とされることに動かされるべきなのだろう。
    「……ここに残ったら、共犯者になれる?」
    「は?何言って」
    「僕、これでも薬学の専門だから。薬は裏返せば何になるか、分かるだろ」
    なんで、とネロが悲しそうな、絶望した目をしている。足元に転がる男を殺めても表情ひとつ変えることすらしなかったのに、ファウストが同じ道を歩もうとした途端に表情を歪める。
    ソファに並んでニュースを見ていても興味無さそうな顔をしていたネロが、その実ずっと傷付いていたことを見抜けなかった。気付かせてくれなかったネロが腹ただしくて、痛みに手を当てさせてくれないネロが悲しかった。
    「やだよ。あんたは綺麗なままでいてよ。俺みたいにならないで。あんたが綺麗だから、俺は生きていけるのに」
    「きみが綺麗でないと言うなら、綺麗でないきみを抱き締めるのに、綺麗なままじゃいられないだろう」
    お綺麗なまま飾られて、美術品みたいに愛してほしいわけじゃない。
    救われない誰かのために獲物を刺すその両目も、血に染まったその手も。その全てを愛しているから、独り汚れたままにさせたくなかった。

    車のエンジン音が聞こえてくる。この距離では、どう走ってもファウストがこの現場にいたことを隠すことはできない。
    諦めたようにネロは目を閉じ、強情、とため息をついた。
    知ってるくせに、とファウストは笑った。
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
    2216

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