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    sigu_mhyk

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    1日1ネファネチャレンジ 68
    魔法舎 ネロファウ

    ##1日1ネファネチャレンジ

    禊げど過去は清まず「こんなところあるんだな」
    「北部の生活用水を引いている川の源流だ。精霊も多いから、魔力も落ち着くだろう」
    降り立った水源地は森の深部にひっそりと隠れ、岩の間を濁りひとつない澄んだ水がさらさらと流れている。時折木々が風に揺れ、流れる水に木漏れ日が反射してきらきらと空中に刹那の宝石を舞わせていた。


    東の国の気候は比較的落ち着いている。概ね薄曇りのようなはっきりしない天気が続きはするものの、極端な暑さ寒さに見舞われることは稀だ。人によっては過ごしやすいと言えるだろう。
    但し、稀であるだけだ。常夏のバカンスを思い起こさせる快晴が全くないわけではない。嵐の谷に媒介を取りに戻ったファウストと同行したネロは、今日まさにその貴重な青空の下を飛んでいた。
    箒で空を飛べば、それだけ太陽に近づいて暑い。のんびり飛んではいないのでそれなりの風が髪を揺らし、服をはためかせるのだが、黒い練習着がたっぷりと熱を吸収してとにかく暑い。温度を調整する魔法をかけてはいるものの、安全運転を第一にするとどうしても比重は飛行に寄りがちだ。全く魔法をかけていない時よりも中途半端にかかっている時の方が、事態は悪化することもある。
    『もーむり……。せんせー、ちょっと休憩しよ……』
    流石に堪えたらしいネロがギブアップの白旗を揚げたため、同じくそれなりに暑さにやられていたファウストは寄り道を決め、この地を訪れたのだった。

    「うお、結構冷たいな」
    ネロは靴を脱ぐと、ズボンを少し捲りあげて足を水に浸した。先ほどまで浴びていた太陽光の熱が嘘みたいに、この水は北国の雪を思わせる冷たさで一瞬鳥肌がたつ。
    「そんなに?」
    「お湯だと思って蛇口捻ったら水が出てきた時の気分」
    ファウストはネロに倣うように、手袋を外した手を水にさらす。本当だ、と呟いた細い真白な手が水を掬い、指の間から成す術もなく零れ落ちてゆく。
    「なんか、変な感じ」
    「なにが?」
    「先生、バカンスとか絶対来ないからさ。水辺にいるイメージがないんだよ」
    「水辺が嫌いなんじゃない。騒がしいところが好きではないだけだ」
    透明で清らかな水面に、二人の魔法使いが映っている。
    岩に腰かけたネロは両足をぱしゃぱしゃとばたつかせ、その隣にしゃがんだファウストは、水中で魚のようにゆらゆらと手を遊ばせている。
    「賢者さんの世界でも、水は神聖視されることがあるんだって」
    「そんなことも言っていたな。身体を水に浸けたり、浴びることで穢れを落とすのだと」
    穢れねえ、とネロが呟く。
    「俺の手はとてもじゃないけど浸けられないな」
    「まあ、食べるためとは言え魚や動物の命を奪っているからね」
    あっけらかんとしたファウストの返答に、ネロは面食らった表情をした。
    ファウストはネロの過去を模索しない。話してくれるのなら聞くけれど、話さなければそれでいい。ネロが盗賊団にいたことも、その手を血で染めていたことも。先ほどのようにぽろりと過去の欠片を落とすことは度々あるが、ネロが自分で渡してくるまでは拾わずにいる。
    死んでほしくない唯一を死なせないために殺め続けた手。
    水に浸けたらきっと、浴びた血でこの水流は深紅に染まるだろう。

    同じように、ネロはファウストの過去を模索しない。
    ファウストが脚を出したことはネロの記憶の中では一度もない。脚が露出する服装も見たことは無い。いつかの日にレノックスが突然見せてくれ、と頼んできたことがあったから何かあるのだろうなとその時は思ったけれど、それっきり。
    じ、とファウストを見つめるネロに、しゃがんだ脚をするりと撫でて問いかけた。
    「気になる?」
    「いや、気にしないよ」
    あの日の痕が、今も悔恨と共に残る脚。
    水に浸けたらきっと、憎悪の炎でこの水流は瞬く間に干上がるだろう。


    ネロの過去と秘密は手に。
    ファウストの過去と秘密は脚に。
    それぞれ隠したものを宿らせた身体は清らかな水に禊ぐことなく、ただ己の中に。
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    sigu_mhyk

    DONE1日1ネファネチャレンジ 85
    魔法舎 ネロ+ファウスト(まだ付き合ってない)
    発火装置晩酌の場所が中庭からネロの部屋に。
    テーブルに向き合って座ることから、ベッドに並んで座るように。
    回数を重ねるごとに距離は近付き、互いの体温も匂いもじわりと肌に届く距離を許してもなお、隣に座る友人の男は決心がつかないらしくなかなか手を出してこない。
    手を僅かに浮かせてこちらに伸ばすかと思えば、ぱたりと諦めたように再びシーツの海に戻る。じりじりと近付きながら、数センチ進んだところでぎゅうとシーツを握り締め、まるでそこにしがみつくように留まる。
    ベッドについた二人の手の間、中途半端に開いた拳ひとつ分の距離。ネロの気後れが滲むこの空間をチラリと視線だけで伺って、密かに息をついた。
    よく分からないが魚らしき生き物も、毒々しい色をした野菜らしき植物にも。鋭く研がれた刃物にも、熱く煮えた鍋にも、炎をあげるフライパンにすら恐れることなく涼しい顔で手を伸ばすネロは、そのくせファウストの手を同じように掴むことができないでいる。刃物よりずっとやわらかく、コンロに灯るとろ火よりも冷たいファウストの手は、ネロの手の感触を知らないで今日まできた。
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