唾液と一緒に洗面台へ散らばったのは、白と赤が交じった花びら。白地のタイル地な洗面台に、まばらに落ちる赤い花弁は目を引く。
今まで二色の花びらを吐いた事はなかった。隔離生活をして二日目、ついに病状が進行したのかと、ドクターは唇を引き絞った。
荒れた息を整えようと、シャツ越しに胸を撫でる。
「はぁ、はぁ」
慣れてはきたが、咥内から花を吐くのも連日だと結構辛い。文字にしたら甘美なのだろうが、実際は体力の消耗が著しいものだ。
洗面台に散った蘭を思わせる尖った花びらを一枚摘まんで、ドクターは採取袋に丁寧にしまい込む。二色の花は初めて吐いたから、サンプルとして保存しておく。
鉱石病の患者に反感を持つ者が、飲み物に混ぜた液体が原因で、ドクターは花びらを嘔吐する症状が出ている。
2646