ワンライ(マグカップ) 西の大陸のとある国で、初めて『家』に滞在することになった。
チェズレイと同道を始めてからこれまでは、各地のモーテルやホテルを転々としてきた。次の作戦では、一つの拠点に長く滞在する必要があるという。そのためにチェズレイが用意したのは、聳え立つマンションの一室だった。
リビング、キッチン、バスルーム。この家に一つきりのベッドルームには、清潔なベッドが二台、行儀よく並んでいた。
家具は一通り揃っている。ただ、人が住んでいる気配だけがなかった。開業したばかりのホテルの一室。そんな空気感だ。
言うなれば、まだ血の通っていない家。
今日からここで暮らすのか。
妙に現実味が薄いのは、放浪していた二十年間、『家』と呼べる場所とは、ほとほと縁遠かったせいだろう。
1928