天高くそびえるビル群を等しく照らし出す月。淡く儚い光を纏い夜を見守る。が、隣合う建物のそれぞれに人影がふたつ、物々しい様相を呈す。
「っ~~~~いい加減にしろ盗っ人!そこから降りてこい」
「いや、盗んでないし。運んでるだけだから」
「派手に金庫を破っておいて何が運んでいるだ!」
「おにーさんまっじめ~」
屋上の手すりに乗り上げて器用に歩きながら小脇に抱えたものをクルクルと回して遊ぶ青年に相対する男は怒りが収まらない。男とて普段は声を張るような事は滅多にしない。しかし幾度となく仕事を妨害され請け負った責務を十分に果たせなかったとすれば自ずとどうなるかなど自明の理。その矛先が彼に向いたとて不思議では無い。
3307