Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    Σフレーム

    ちまちま

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 100

    Σフレーム

    ☆quiet follow

    始末屋×運び屋
    フェス伊とフェスぐだ♂

    #伊ぐだ♂

    天高くそびえるビル群を等しく照らし出す月。淡く儚い光を纏い夜を見守る。が、隣合う建物のそれぞれに人影がふたつ、物々しい様相を呈す。

    「っ~~~~いい加減にしろ盗っ人!そこから降りてこい」
    「いや、盗んでないし。運んでるだけだから」
    「派手に金庫を破っておいて何が運んでいるだ!」
    「おにーさんまっじめ~」

    屋上の手すりに乗り上げて器用に歩きながら小脇に抱えたものをクルクルと回して遊ぶ青年に相対する男は怒りが収まらない。男とて普段は声を張るような事は滅多にしない。しかし幾度となく仕事を妨害され請け負った責務を十分に果たせなかったとすれば自ずとどうなるかなど自明の理。その矛先が彼に向いたとて不思議では無い。

    「何故俺の邪魔をする」
    「何故と言われても、……仕事なので?」

    何が仕事か。
    腰の獲物に手をかけて鯉口を切るも相手は隣のビルにいて今からでは追いつけない。ぎりりと奥歯を噛み締め睨めつけるも、

    「残念タイムアップだ」
    「なっ……!」

    背面より重力に逆らわずに宙に身をなげうち消えた姿に目を疑う。屋上の手摺を歩いていたのも大概だが男がいるビルの屋上ですら5階である。対して消えた青年がいたのはそれよりも高い建物。
    当然なんの用意もなければあの世しか待ってない。

    「ッ!」

    フェンスを乗り越え壁を蹴り非常用の階段の踊り場へ着地。そうして駆け足にて落ちたであろう箇所へ急行するもそこには痕跡すらなく道行く人達が怪訝そうな視線を寄越すだけだった。

    「……お前は、……何者だ」



    「それで任を果たせなかった、と?」
    「面目次第もない……」
    「たわけ。元よりきな臭い連中だ。手が切れたと思えば良かろう」
    「しかし成功報酬が……」
    「諦めろ。それより借金の催促がまた増えたぞ?いくら仕事を回しても首が回らんなこれでは」

    パサリと無造作に置かれた紙の束。その内容の殆どが先方からの契約違反による違約金、あるいは器物損壊により補填といった具合で伊織の眉根は更に下がる一方。
    何も伊織自身が意図的に引き起こしている訳ではない。それはテーブルを挟んだ向かいに鎮座する人物も分かってくれている。だからこそどうにもならない現実を前にして天を仰ぐぐらいしか今の彼にできることなどないのだ。

    (アレの送金分を差し引いたら今月も赤字か……、どこかで単発のバイトでも入れるか?)

    瞬時に暗算をしてしまう自分が憎い。飢えることはないにせよまたコツコツ貯めていた貯蓄を切り崩さなければならない現実にため息が出る。頭を抱えて悩む姿に「確認が済んだらさっさと帰れ。邪魔だ」と金髪の雇い主に冷たい言葉に肩を落としながらとぼとぼと事務所を後にした。

    何事向き不向きはある。
    かくいう彼もその例に漏れず学生の頃から器用貧乏を地で行き運動も勉強もそれなりで当たり障りなく生きてきた。施設育ちというのがそれらを育んだ土壌だったのは否めないがそれでも縁あって剣の師に出会い他人よりも秀でた才があったことが彼の幸いであった。苦学の末大学を出て就職しようにも世間は大国の不況の煽りをうけているとあってはしがない3流大学出身では書類選考で落とされること星の数。就職留年できるような身の上にはなく結果的に師に働き口の斡旋をしてもらい今に至る。それがどうにも向いていた、何事なければ割の良い仕事ただそれだけのこと。
    これが宮本伊織という男の実情である。

    「まずは食わねば始まらんか……」

    いつまでもくよくよはしていられない。あの盗っ人は考えるだけで腹ただしいがそれとは別と言わんばかりに腹の虫は元気に鳴る。今更ながら昨日の昼から丸一日何も食べていない事を思い出して足はいつもの場所へと歩き出していく。雇い主の事務所から2駅程、大通りから路地へ入り少し行った先に質素な佇まい。金属の年季の入ったドアの取っ手を手前に引けばカランコロン、とこれまたレトロな鈴が来訪者をお知らせ。

    「いらっしゃいませー」

    落ち着いた雰囲気の中から明るく元気の良い声。声の主はエプロン姿の店員でテーブルを拭きながらこちらに挨拶をしていたようだ。伊織に気づいた途端にパタパタとやってきてあちらにどうぞと窓際のテーブル席に案内された。ちらりと店内を見遣れば伊織以外の客は居らずまだ開店したての平日ともなれば納得する。
    しかしここで疑問が浮かんだ。学生の頃よりこの店には度々訪れており今なお通う所謂常連というやつだが先程の青年は見たことがない。基本的に年齢不詳の白髪のウェーブのかかったたまに高笑いが飛ぶマスターが1人で切り盛りしている喫茶店だ。席数もそこまでないし評判なのはマスターの入れるコーヒーと軽食だが知る人ぞ知るといった店なのでそもそもそこまで人も来ない。バイトの類がいてもおかしくはないが一見して気難しそうな店主のお眼鏡にかなう者がいるのかと思うとそれもまた難しいように思うのだ。

    (とはいえ初めて来た時より10年位は経つからマスターが老いても不思議はないか…)

    とても老いとは無関係な見た目をしているせいで簡単にそうだとは考えづらいのもまた事実。
    4人掛けのテーブル席に座ってすぐに注文をするとテキパキと動く彼の姿に思わず感心した。見た目からして学生のように見えるが最近の人の見た目は当てにならない。

    「おまたせしました。たまごサンドセットになります。ご注文の品はお揃いですか?」
    「あ、あぁ。すまない、つかぬ事を聞くがマスターは不在だろうか?」
    「マスターですか?奥にいますよ。ただ忙しくなるまでは多分出てこないと思います……」
    「?」
    「凝り性なので新作メニューの開発に余念が無いんですよ。あはは……」

    乾いた笑いを浮かべた青年にこれ以上は聞くべきではないと判断し礼を言う。「ごゆっくりどうぞ」と朗らかに立ち去って行った彼を見送り目の前の馳走に手を伸ばす。
    卵3個を贅沢に使用したたまごサンドはこの店の名物のひとつだ。食パン1斤を半分に切りトーストした後に特製たまごサラダを上からどっさりとかけたなんとも大胆不敵なひと品。これにセットでコーヒーとサラダをつけてもお手頃価格というのだから度々世話になってしまう自分がいる。
    自炊をしなくもないが昼夜逆転の生活でいつ依頼が入るか分からないとくれば外食が主になるのは必然。懐的には痛いがその分稼げばいいと考えればなんのことは無い。

    「コーヒーお代わり如何ですか?」
    「頂こう」
    「失礼します」

    丁寧な所作で空になっていたカップにコーヒーがトクトクと注がれていく。少し苦味が強いが鼻から抜ける香りは爽やかで後味はしつこくなくさっぱりとして食事にも合う。夏場であればきりりと冷やされたアイスもおすすめだが伊織は熱い方が好みだ。頭の中がスッキリとして冴え渡る感覚、カフェインの覚醒作用だと理解はしているがそれでも好きなのだ。
    注がれるコーヒーを見つめていると不意に視線の先にあった店内のテレビから速報がテロップされ思わず食い入るように見てしまう。注ぎ終わったコーヒーの注ぎ口を拭きながら青年は尋ねる。

    「気になるんですか?」
    「いや、まぁ……職業柄な」
    「そうなんですね。あー……あの議員さんかー」

    ただの店員にしては随分砕けているが他に客がいない分彼も暇なのだろう。初対面ではあるがそれなりに好感が持てる相手に伊織も悪い気はしない。
    速報もすぐに切り替わり今度は誰が買うのか需要が読めないテレビショッピング。妙齢の女性アナウンサーが慣れた謳い文句で商品の説明をして都度入るガヤ。もう見る必要はないと視線をテーブルに戻す。
    あれだけあったたまごサンドもぺろりと平らげて全てを空にした後に伝票を持ち会計へ。

    「ありがとうございました。また来てくださいね」

    ぺこりと頭を下げた青年に背を向け店を出る。本日は晴天だがこの後一雨降るらしい。そうなる前に野暮用を済ませて早めに帰路につこうと決めた。

    (取り逃したツケは早めに払わねばな)

    できることならアレには遭遇はしたくないが。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏💖💖☺😍😍😍😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    lunaarc

    MOURNINGバレンタインで失恋して部屋を出たら晴信さんに会って、察せられて泣いちゃったところを追いかけてきた(タケルに言われて)伊織が目撃する伊ぐだ♀
    …のつもりで書いてたんだけどたぶん最後まで書ききれないと思うのでここまで。

    伊織いないけど伊ぐだ。晴信とぐだ子は×じゃなくて+(兄妹みたいな感じ)
    サムレムはコラボしか知らない+第一部と1.5部ちょっとしかやってない知識量のマスターです
    どうやって部屋に戻ったんだろう。腕いっぱいに抱えた仏像を棚に並べて、立香はしばし立ち尽くす。
    わかってはいた。一緒に駆け抜けた偽の盈月の儀の最中、ことあるごとに、傍で見てきた。
    片方が記憶を失っていても、あの二人の絆は強固なものであると。その間にぽっと出のマスターが割り込むなんてもっての外だと。わかっていても。
    「……はぁ…」
    それでもやっぱり、寂しい。
    そのやりとりを微笑ましいと思っていたのは確かだ。戦闘時には抜身の刃の化身のような鋭さを持つ青年の雰囲気が、彼の相棒が一緒だと柔らかく変化していく。それを見ているだけで十分だと、最初はそう思っていた。
    ただのマスターとサーヴァント。その垣根を超えるような接触をしてきた者は他にもいた。けれど立香はそれでもマスターでいられた。一人の人間としてではなく、サーヴァント全員のマスターとして。そうあることが自分の存在価値なのだと割り切っていたからだ。
    1563