記憶のカケラ(予定) ああ、それは。
遠い遠い過去の記憶。
幼さ故に泡沫した記憶なのか。
年とともに忘れ去られた記憶なのか。
自分が過去に『そうあって欲しい』と望んだ夢や幻想の記憶なのか。
────それとも、
人為的に。故意に。
忘れさせられた記憶なのか。
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「────しぇりーぬ!しぇりーぬ!」
すがたがみえるたびに、ぜんりょくでぼくはかけよった。──とはいっても、ぼくのみじかいあしでは、『とてとて』とつたなく、はしってもはしっても、あるいている『あにうえ』と『あねうえ』よりもかなしいほどにおそかったし、すぐに『はぁ…はぁ…』と、いきがあがってしまっていた。
まえにそのこうけいをみたははうえは、『うーん…残念。アナタほんとに体力無いわね』と、カラカラわらっていた。『ぼくのじゃんるじゃないんです!』とむきになって、ちょっとのいかりと、ちょっとのはずかしさから、おかおがまっかになってしまったのを、いまでもそれはそれはせんめいにおもいだせる。
それでもぼくは、がんばってがんばって、ぼくがだしうるぜんりょくしっそうで、アリエスのりきゅうのろうかを、かのじょの──セリーヌの──もとまで、はしっていった。
ぼくは、だれよりもやさしくて、ハルのセイにも、ツキのセイにもみえる、うつくしい『フェアリー』のようなセリーヌと、はやくいっしょにあそびたかったんだ。
「はぁ…。はぁ…。はぁ……──しぇ、しぇり〜ぬ〜〜〜!」
ぼくはぜんりょくでさけんだ。
「────ん?」
セリーヌはようやく、ぼくにきづいたようで、はるのめぶきのようなりょくはつをなびかせて、こちらをふりむいた。ぼくはうれしくなって、セリーヌまで、あとすこしというところで、ここまでがんばって、はしりながらも、おとさずにもってきたゴホンを、おかおのまえにかかげた。
「しぇりーぬ〜〜〜!。いっしょに!ゴホン!。ゴホンよもう!────ほわっ!」
「────っと、コラ。ルルーシュ。危ないだろう?」
ふわふわもこもこした、ぬの──ドレス──のかんしょくと、あたたかな、それでいて、ははうえよりもやさしいてつきによって、ささえられた。どうやらぼくはまた、ころぶすんぜんだったようだ。
「大丈夫か?怪我は?────良かった。大事無いようだな」
「──…ごめんなさい」
「いいんだ。今度からはちゃんと前向いて歩けよ?」
セリーヌはそういって、さっさっ──と。ぼくがころびかけたひょうしに、すそについてしまったのだろう────ホコリをはらってくれた。
それから、ふっ──と。セリーヌのはちみついろのひとみが、やわらかくほほえむと、ぽんぽん、と。ぼくのアタマをなでた。そして、ながれるように、セリーヌのおおきくてあたたかい、てが、ぼくのほっぺにかかった────そのしゅんかん
「───ふぇ?」
むにむに、むにむに、と。りょうのてのゆびで、かるくひっぱられた。
「ひぇ、ひぇりーふ〜〜〜?。なんれ、ひっはるのぉ〜?」
「ん〜?。お前のほっぺがぷにぷにしてて、気持ち良いからさ。それにしても──フフ、お前。間抜けな声だな?」
「ひょ、ひょれは!。ひぇりーふが、ひっはるかられひょう!?。はなひへ〜!。は〜な〜ひ〜へ〜よぉ〜!」
「ハイハイ。────悪かった。悪かった。」
「もぉ〜!しぇりーぬ、やめてよね!────あっ!ゴホン!」
ころびかけたひょうしに、ゴホンをなげだしてしまったのをおもいだした。──どうしよう。
キョロキョロとあたりをみまわす。──ない!なんで!?
「足元見てみろ」
「えっ」
セリーヌにいわれたとおり、ぼくのあしもとをみてみると、ゴホンを、ようやくみつけた。
「あったぁ〜!」
ホッとして、ゴホンをひろいあげる。よかった。パラパラめくってみる。どうやら、おれめのひとつもないらしい。…そういえば、セリーヌはなぜ、ぼくがゴホンをさがしていることがわかったんだろう。そうおもって、セリーヌをみあげた。すると、セリーヌは「ふふっ」とわらったあとに、
「顔に書いてあるからさ」と、こたえた。
ぼくはびっくりして、おめめをこれでもかというぐらいにまるくしてしまった。
────もしかしてセリーヌは、こころをよむことができる、エスパーとかいう、ちょうのうりょくしゃなんだろうか……。
たしかに、おにんぎょうさんのようにキレイなおかおに、はなびらをおいたかのようなうすもものくちびるといい、わかばいろのりょくはつと、コハクのようなおうごんのひとみもあいまって、セリーヌは、ひとならざるもの──まさしく、フェアリーのようだ。だからこそ、そんなのうりょくがあってもおかしくはない。
『しぇりーぬは「フェアリー」なの?』
はじめてあったとき、だいいちいんしょうをそのままに、セリーヌにいったら、『魔女の間違いだろ?』と、ふしぎなかおをされた。よこにいた、ははうえは『プッ…』とふきだしたあと、『アハハハハ──』とおおくちをあけてわらった。そのあとに『はぁ〜、お腹痛い』と、つづいたものだから、ぼくはしんぱいして、ははうえにかけよった。『だいじょうぶ?』とこえをかけたら、『大丈夫大丈夫。ちょっと腹筋崩壊しただけだから』と、いみふめいな、こたえがかえってきた。『要するに、笑い過ぎたんだよ』とセリーヌはかいせつしてくれた。
そうやって、かこのかいそうともに、げんざいしんこうけいで、ぐるぐるとかんがえているうちに、いつのまにかセリーヌが、てをつないでくれていた。どうやらへやまで──ぼくがころばないようというのもすこしあるかもしれないけど──いっしょにいってくれるようだ。
「フフ、また本か?」
「うん!。だってね、おもしろいんだよ!。ゴホンはね、ぼくの知らないことをね、いっぱい、い〜〜〜っぱい、しっているんだ!『ずかん』とか『せんもんしょ』とか!」
ぼくは、にこにこ〜、と、じかくのあるまんめんのえみで、『ゴホン』がどれほどすばらしいものかをかたった。きっとセリーヌには、このえがおにキラキラとしたエフェクトがかかってみえていることだろう。
ふふっ──ちょっとひきょうかもしれないけど、ぼくはセリーヌがこの『ぼく』のおかおによわいことをしっている。だからといってなにかある、というわけではないけれど、しいていうなら、セリーヌもきれいなえがおで、わらいかえしてくれるからだろうか。ほんのちょっとしたやりとりだけど、ぼくはそれがすごくうれしいんだ。
そういっているあいだにも────ほら、
「そうかそうか」
セリーヌはやさしくほほえんで、あいづちをうってくれた。
ぼくはやっぱりうれしくなって、ニコニコとほほがゆるんだ。ひとしきり、うれしさのヤマをこえると、セリーヌはひとつだけ勘違いをしていることをおもいだし、したをむいてしまった。ぼくはセリーヌもわらってくれるから、そのえがおがすきで、いままでいえなかったんだ。そのせいか、セリーヌに『よみきかせ』をしてもらっているとき、こころがいたい。このいたみをおわらせるためにも、ホントのことをはなさないと。
ぼくはこころをきめて、くいっ、と。つながれた、てをかるくひっぱった。
「────ん?」
セリーヌはぼくのいへんにきづいたようで、たちどまってくれた。
「でもね、」
「うん?」
「しぇりーぬ、じつはね?」
「────うん」
「────ぼく、あんまり『どうわ』とか、すきじゃないんだ。」
もってきた、ゴホンをセリーヌにみせる。てにしてるのは『にんぎょひめ』だ。
「────は?。待てルルーシュ。お前、いつも『童話』しか、もって来ないじゃないか」
「うん」
「────嫌いなのに読むのか?」
「うん。だってね。ははうえが、『好き嫌いしちゃダメよ。アナタは皇子なんだから、コレを真似して、シャルルみたいに、可愛い女の子をた〜くさんGETして、お嫁さんにしちゃいなさい☆』って……」
「それは……。なんとも、マリアンヌらしい……。というか、アイツは幼い息子に何教えてるんだ?────それで?。何故ルルーシュは『童話』が嫌いなんだ?」
「えっ?。だって……。その、なにがどうなって、そうなったのか、わからないんだ」
「?。どういうことだ?」
「だってほら、あまりにもふぁんたじっくすぎて、げんじつみがないでしょう?。」
「ちょっと待て。……ルルーシュ?。お前今、いくつだ?」
「2さいだよ。しぇりーぬもしっているでしょ?」
「……うん。そう、だよな。2歳…。2歳か……」
「────それにね?」
「…ん?」
「それにね……ぼく。ものがたりは、しぇりーぬによみきかせてもらうのが、いちばんすきなんだ」
「おや?。マリアンヌよりもか?」
「うん!。だって、しぇりーぬはホントにフェアリーみたいだもん。だから、どうわのないようが、アタマにはいってきやすいんだ!。あっ!、でも、ははうえには、ないしょだよ?────ぼくは、しぇりーぬがよんでくれるから、まえよりも『どうわ』すきになったんだ!」
「────そうか」
「ね?ね?。はやくはやく!。ゴホンよんでよ、しぇりーぬ!」
「ハイハイ。────ほら、おいで?」
そういってセリーヌは、ふかふかのソファーにこしかけると、ぽんぽん、と。じしんのひざをしめした。────そこが、ぼくのとくとうせき。よみきかせのていいちだ。
「うん!」
ぼくはいそいでソファーをよじのぼった。
セリーヌはぼくがすわるのをかくにんすると、ぼくがもったきた『どうわえほん』をひらいた。そのさい、『ペラッ』というよりも、やはりそこは、はじめてよむ、しんしょのゴホンだからなのか『パキッ』と、どくとくのおとがした。
「────『深い深い海の底に、人魚達が住まう国がありました。』」
𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃
ここまでが、ルルーシュの夢の中の回想という体で、物語が進んで行く予定です!!