あたらしいあそび 今日はC.C.と娘の3人で黒の騎士団へ来た。
今回は何か重要な案件や事件があるという訳ではないが、強いて言うなら『里帰り』みたいなものだろう。俺とC.C.の間に娘が出来てから、月に1度は黒の騎士団──ナナリーやスザク、その他のみんなに顔を見せに行く事が、いつの間にか習慣付いていた。
幾つもの扉を開いてやっと辿り着いた、他よりも重厚な扉。横に備え付けてある指紋認証に手を翳す。
────シュッ
「ななちゃん!すーにぃ!かれんちゃん!」
興奮したような大きな声で呼ぶと共にパッと解かれた小さな手。ぺたぺたと可愛い足音を立てて駆けてく愛娘。その光景に、ふっ、と柔らかい笑みが、つい零れてしまう。
娘より一足遅れて入室する。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです、お兄様、お義姉様」
「久しぶり、ルルーシュ、C.C.」
「ふふ、3人とも元気そうだな」
「アンタ達こそ元気そうね、ルルーシュ、C.C.」
出迎えてくれたのはナナリーとスザクとカレンの3人だ。
「今日もお預かりかい?」
「いや、今回は顔を見せに、な」
「まあ、それでは沢山お話ができますね!」
「うん!いっぱいおはなししよ!」
「なら、とりあえずあっちのソファーに座ろうか」
「そうね。あっ、ちゃあんとお菓子も準備してあるわよ〜!」
「おかし!?やった〜!!」
楽しい。嬉しい。愛娘の喜びの感情が笑い声になって室内全体に響き渡る。それに釣られ引き出される和やかな雰囲気。──子供の笑い声はすごいな…。そう思い始めたのは何時だったか…。
その笑い声が聞けるのも、自らの命を賭して、拓き、創り上げた、『平和』への道の上にあるからだと思うと、感慨深い何かが込み上げる。
「…?。ルルーシュ、どうしたんだ?」
僅かに俺の表情が変わった事を察したのだろう。幼子を挟んだ横に座ってるC.C.が、不思議そうな顔でこちらを見上げてきた。
「ん?…いや。ただ、感慨深いなぁ…と」
「何がだ?」
「それは──」
──ああ、今。この世界に、生きていて良かった。と
「──いや、やっぱり。なんでもない」
「…はあ?」
そう言ってすぐに気恥ずかしさを紛らわすようにC.C.の髪を指に絡めた。何がなんだかよく分からないけど、俺が満足そうに微笑んでいた為だろう。少し頬を赤らめて拗ねたような顔になった。
ふと、腕時計を見る。
「…もうこんな時間か。──そろそろ帰るか」
「ええ〜!!かえっちゃうの!?」
真っ先に聞こえたのは愛娘の悲鳴だった。その顔には分かりやすく『もっとあそびたい』と書いてある。
「そんな悲しい顔をするな。また、すぐに遊びに来るんだから、少しの辛抱さ」
ぽんぽん、と小さな頭を優しく撫でてやると、
「うーん、はぁい。じゃあ、さいごにいっこだけ!やりたいことがあるの!」
「やりたいこと?」
「うん!──すーにぃ!アレやって!」
「「アレ?」」
C.C.と全く同じ調子で首を傾げた。
「ああ!アレだね。いいよ、おいで」
わーい、という掛け声と共にスザクに猛突進した我が子。難なくひょい、と軽い動作で持ち上げたスザクは流石だな。スザクは『アレ』に心当たりがあるようで、娘を片腕に抱き上げると、頬を近付けて────
「ジョ〜リ、ジョリジョリジョリジョリ〜!」
「きゃはははは!」
「──は?」
……なんだ、それ。
「あ〜、ホントそれ好きよね〜」
「ふふ、お二人とも楽しそうです!」
何をやっているのか直ぐに理解出来ず、ぽかりと空いた思考回路の空間に、C.C.がポソりと呟いた、納得したような声が俺のトドメを刺した。
「あ〜、なるほど。ルルーシュには(薄すぎて)髭が無いものなぁ…」
「ゔっ!」
──なんだ、このやるせない敗北感は…。
「ルルーシュにはやって貰えないのかい?」
「おとーさん?。おとーさんはね、スベスベなんだよ!」
────グサッ
鋭利な物が心に刺さったような気がする…。
「ルルーシュお前、もしかして、傷付いてるのか?」
「うぐっ、…うるさい」
────その後、育毛剤を買って色々試して見たものの、コードのお陰と言うべきか、全く変わる事無く、「俺に髭が無いことにより、娘を喜ばすことが出来ないのかッ!」と葛藤した末、恐らくC.C.が気を効かせたのだろう、愛娘が『おとーさんのスベスベおはだもだいすきだよ!』と言ってくれるまで、暫く引きずった。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
おしまい