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    ApricotOrange18

    @ApricotOrange18

    小説を書きます。絵は描けません……。
    ぴくしぶからちょっとずつこっちに移行予定です。

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    ApricotOrange18

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    ささみゃーハロウィングッズの白い魔法使い平野さんとカボチャ男鍵くんがあまりにもかわいくて、魔法使いとカボチャ男のパロディが浮かんでしまったので書きました。
    ハロウィンのつもりが一切ハロウィン感ないです。設定も浅めなので雰囲気だけお楽しみいただけたら嬉しいです。
    ほんの少しだけ死ネタ未遂?があります。苦手な方はご注意ください。

    白魔導師とカボチャ男「平野、使い魔作る気ないの?」
     そんなことを言われて、平野は困ったように返答を濁した。魔導師として独立してしばらく経つが、未だその類の契約は結んでいない。作らないと決めているわけではないが、たとえ魔法による精製物だとしてもその存在を使役するだけの覚悟が必要だ。生涯の伴侶を決めろと言っているわけではないのにねと、魔導師仲間の半澤は笑った。
    「そのうち」
    「使い魔が面倒なら眷属でも作ったら?」
    「眷属は責任もって面倒みないといけないだろ」
     今はまだそれに値するだけの存在を見つけていないとまた返答を濁すと、また笑われた。
    「真面目だねぇ。平野らしい」
    「そういうお前はどうなんだよ、半澤。……いいや、魔導師協会長」
     言われて、半澤は含みを持たせた笑みでそっと唇に人差し指を当てた。
    「内緒」

      ◇

     東の丘の向こう側、森の入り口を少し行ったところには魔導師の小屋がある。
     この辺りは昔から魔法や魔術が盛んで、今もその末裔が知識と技術を受け継いでいるという。それを頼り共存する者もいれば、異端の力と恐れる者もいた。
     森の入り口を少し行き、沢の方へ進んだところにあるのは魔導師平野の小屋。魔法を扱う者の多くが黒を身に着ける中で、珍しい白のローブを纏っている。通称、白の魔導師。光を受けてきらきらと輝く金髪。深い碧色の瞳。表情を崩さずいつも涼しい顔で対応するその姿は美しいともっぱらの噂だ。
    「えっと、沢の方に来たから、ここかな……」
     紙に書かれた地図を頼りにたどり着いた小屋を眺める一人の男、鍵浦。つい最近東の丘の麓に越してきたばかりで、この街で暮らすなら一度白の魔導師に会ってきたら良いと言われて訪ねて来た次第だ。共存派にそう進められて興味本位で来てみたわけだが、その間に何度も拒絶派に止められた。行ったら最後、魔法で豚に変えられて食われてしまうとまで言われたので正直少し怖い気持ちもあるが、挨拶に来た者をそうすぐにどうこうしないだろうと自身に言い聞かせ、ドアをノックした。
     すみません、と声をかけると、ドアが開く。
    「……あ?」
     そこにいたのは白いローブを纏った金髪の、目付きの鋭い男だった。
     あれ、と鍵浦は思わずドアに伸びていた手を引っ込める。
     確かに光を受けてきらきらする綺麗な金髪。確かに綺麗な深い碧色の瞳。街で聞いた美しい白い魔導師の特徴そのものなのだが、かの男は今、その深い碧色の瞳を細めてあらん限りの形相でこちらを睨みつけている。
    「あ、あのっ……、えっと、最近麓の街に越して来まして」
     しどろもどろにそう言葉を紡ぐと、魔導師は目を大きく開いて、あぁと納得したような声を出す。
    「鍵浦くんか。話は聞いてる。悪いな、寝坊した」
     そう言って、大きなあくびを一つ。言われてみれば、怒っているというより寝起き特有の眩しさを嫌うような目をしていた。
    「どうぞ。上がっていいよ」
     先ほどまでの形相はどこへやら、優しい声色でそう言い、白の魔導師は開けたドアを押さえて鍵浦を中に招き入れてくれた。

     それから他愛もない話をたくさんした。平野と話すのが楽しくて鍵浦は毎日のように丘の上の家を訪ね、用もないのに来るなと呆れられることもあった。じゃあ用事を作ると駄々をこねて毎日街で買ったパンを届ける係を申し出たところ、交換として人間に使える薬や薬草知識などを教えてもらう関係にもなった。
     魔導師を恐れる者も少なからずいるが、平野にそういった恐ろしさや邪悪なものは一切感じず、鍵浦にとって誰より心安らぐ話し相手になっていた。
     ずっと、平野さんと一緒に居られたらいいのに。
     そんな思いが無意識下に現れるまで、そう長い時間は要さなかった。

     これは、人間が白魔導師と共存する話。

      ◇

    「平野さんは、使い魔っていないの?」
     何度か訪れた部屋の中を見回しながら、鍵浦はふとそんな疑問を口にする。
    「あぁ、作ってねぇ。使い魔を一から作るって結構大変なんだよ。それなりの素材を集めないと質がいいのは作れねーし。その点だけなら眷属の方が作りやすいけど」
    「眷属?」
    「あー、従者? みたいな。眷属は生き物とは精霊とか、そういったものと契約を交わして結ぶ関係。眷属側はデメリットも多いから、相手の同意がないと成立しない魔法なんだ」
    「ふーん」
     いろいろあるんだ、と呟きながら出された紅茶を一口。静かな森の中の静かな部屋を見ていると、ここで一人で暮らしている平野は寂しくないのだろうかという疑問がふと浮かんだ。
    「俺、平野さんの眷属にだったら、なりたいな」
     そんな言葉が口をついて出た。もちろん本音だが、頭で考えるより先に言葉になってしまったような感じで、思わず笑ってごまかした。一方の平野は一瞬面食らった様子で、それから複雑そうな顔をする。
    「サンキュー。気持ちは嬉しいけどな、眷属ってのは――」
     言いかけて、息を飲むように言葉が切れる。ただならぬものを感じて顔を上げると、そのまま窓の外を睨んだ。
    「鍵くん、ここにいろ」
     そう一言だけ残して出て行ってしまう。何だろうと思いつつ言いつけを破るのは気が引けて、そっとドアの隙間から外を垣間見た。
    「悪魔の手下め、さっさとこの森から出ていけ! 街に近付くな!」
     男の声がする。
    「要求には応えかねる。ここは俺が守っている土地だ。街には必要時以外立ち寄らないし、危害を加えるつもりもない」
     平野が冷静に対処する声も聞こえる。
     魔法使い拒絶派だろう。麓の街は比較的魔法使いに友好的な人が多い印象だったが、やはり未知の力を恐れる者は少なからずいる。
    「魔法使いの言う事なんて信用できるか! どうしても退かないのなら……!」
     男は手に持っていたものを構える。小さな薬瓶のようなものだった。それが何なのか瞬時に理解した平野の表情が凍る。
    「馬鹿やめろ! そんなものどこで手に入れた! 闇市の魔道具なんて、お前が嫌悪する魔法使いよりたちが悪いぞ!」
    「うるさい!」
     男が小瓶を投げつける。足元で砕けたその中から、容量の数十倍に膨れ上がった黒い塊が平野目掛けて襲い掛かった。
    「危ない――!」
     考えるより先に、鍵浦は外へ飛び出していた。
     視界が覆いつくされる。鍵浦の手が平野の肩を掴んで押し退ける。
    「鍵く――」
     視界が黒に染まる。その瞬間に、鍵浦の瞳は平野を捉えた。

     よかった。平野さん、無事みたいで。

    「――っ」
     黒い塊は鍵浦を覆いつくすと、そのまますぐに霧散した。
    「鍵くん! おい! 鍵浦!!」
     倒れて来た鍵浦を抱きとめた平野が呼びかけるが、返答はない。
     小瓶を投げた男はしばらくぽかんとしていたが、状況を理解すると一目散に走り去っていった。
    「何で出て来たんだよ! くそっ」
     息を整え治癒魔法をかけるが、みるみるうちに生命力を失っていくのがわかる。このままでは危ない。

     使い魔が面倒なら眷属でも作ったら?

     俺、平野さんの眷属にだったらなりたいな。

     半澤と鍵浦の言葉が脳裏でこだまする。
     眷属契約をすれば魔法使いは眷属に魔力の供給ができる。そうすれば治癒魔法をかけるより圧倒的に回復が早い。今の鍵浦を助けるには他に方法がない。
     ただ、眷属の契約には相手の同意、意思の確認が必要不可欠。口で何と言っていようと、意識がなかろうと、本心で望んでいなければ契約は成立しない。
    「……鍵くん。さっきの言葉、信じていいんだよな」
     そう呟いて、立ち上がった。

      ◇

     平野から連絡を受けて飛んできた半澤は、そこで応急処置を施された瀕死の人間を見て眉を寄せた。
    魂喰らいイーター? どこの闇市にそんなのが流れてたんだ」
    「知らねえ。男は逃げた。俺を庇って鍵くんが生命力食われたんだ。治癒魔法じゃ根本解決にならねえ」
     対象の生命力を直接奪う禁忌魔法で、使用は当然のこと魔道具による使い切りの流通も厳しく制限されているはずだが、何故そんなものをあの男が持っていたのか。そんなことを思案したのも最初だけで、今の平野にとってそんなことどうでもいい。
    「平野、本気?」
    「本気だ本気。この状況で冗談言ってるように見えるか?」
    「確かに眷属作ったらとは言ったけど、相手は人間だよ?」
    「わかってる。でもこのままじゃこいつが契約に耐えられない。……鍵くんには悪いが、依り代通して契約する」
    「眷属契約で眷属側が受けるデメリット、理解してるよね? 彼を助けて、お前が恨まれない保証はないよ」
    「それもわかってる。……全部俺のわがままだ。責任くらい取ってやる」
     短く息を吐き、虚空に手をかざすと杖が現れる。二言、三言呟くように何か唱えると、足元に魔法陣が浮かび上がった。

     ◆

     あたたかい、春の日差しのようなものを感じる。
     目を開くとキラキラしていて、体が浮いているように心地よかった。
     そういえば、自分はどうなったんだろうとぼんやり考える。
     それから、平野さんは、と考えたところで、光の向こうから自分を呼ぶ声がした。
     平野さんの声だ。
     声は周囲に反響し、どこから聞こえるのかはっきりしない。それでも確かに、自分を呼ぶ平野の声だと確信が持てる。
    「平野さん!」
     呼びかけると、声が吸い込まれる場所がある。そちらに向かって手を伸ばした。

      ◆

     引っ張り上げられるように意識が浮上する。目を開くと、随分と疲れた顔でこちらを覗き込む平野と目が合った。
    「……平野さん」
     無事でよかった、と開口一番そう呟く。平野は意外そうに目を丸くして、それから大きなため息をついた。
    「こっちの台詞だ」
     指先でこつんと額を突かれる。痛い! と文句を言いながら体を起こすと、そこで初めて違和感に気付いた。
    「……?」
     植物の蔓のようなものが腕に巻き付いている。視線でたどると、それは腕から胸の辺りを中心に渦巻いていた。
     平野は、ばつが悪そうに顔を伏せる。
    「……悪い。鍵くんに説明しねーといけないことが二つある」
     そう言うと、後ろでずっとこちらを見ていたもうひとりの魔導師を紹介してくれた。目が笑っていないその人は、半澤というらしい。
    「こいつの助けを借りて、鍵くんの治癒と魂の修復をした。その時、失った生命力を保つためにより生命力の強い依り代を使った」
    「依り代……」
    「魂の器みたいなもん。それで、この時期俺の手元にあって一番生命力が強かったのが……」
    「カボチャだったんだよねぇ」
     それまでずっと笑いを堪えていた半澤が、ついに吹き出した。腹を抱えて笑っているが、平野は笑い事じゃねえと咎めている。
    「だからその、……本当に申し訳ないと思ってる。俺のエゴで鍵くんを助けたが、……人間のままにはできなかった」
    「えっと、カボチャ? になったの? 俺」
    「半人半カボチャってとこかな。ふ、くくっ」
    「笑うな半澤。殴るぞ」
     右手に握りしめる魔術道具が鈍器に見える。
    「それともう一つ。依り代に入れても回復しきらなかった分は俺の魔力で補った。そのために、眷属契約をさせてもらった」
    「眷属……」
     その言葉には鍵浦も覚えがある。魔法使いと主従関係を結ぶ契約だ。平野の眷属にならなりたいと口走った記憶がある。
    「いいかい、鍵浦。眷属契約は眷属側のデメリットが大きいから、たとえ意識がなくても意識の奥底から同意が得られなければ成立しない。それが成立したということは、お前はこれに同意したんだ。ここに関しては、平野だけの責任じゃないよ」
     それまで部外者のようにしていた半澤が、不意に真面目にそう告げた。それは少し厳しいことを言う粛然とした態度だったが、今の鍵浦にそんな厳粛さは届かない。
    「じゃあ俺、平野さんとずっと一緒に居られるの?」
     鍵浦にとって眷属の認識とは、そのくらいのものなのだ。
    「……有り体に言えばそうなんだが……。眷属は主である魔法使いの魔力供給を受ける代償として、体がそれに耐えうる形に変容する。やがて契約主の魔力がなければその存在を保てなくなるんだ。鍵くんの場合は瀕死の状態から俺の魔力で回復させてるから、俺からの魔力供給が途絶えたら、その……」
     口籠る平野に、鍵浦は首を傾げる。それに呼応するように、腕に巻き付く蔓が中空でハテナマークを作った。
    「平野の命が尽きる時、お前も一緒に眠りにつくことになるってことだよ」
     代わりに口を開いた半澤がその事実を叩きつけると、初めて鍵浦は二人の言う、眷属側のデメリットを理解した。
    「それが、眷属側のデメリット……」
    「そうだ。……恨んでくれて構わないぞ」
    「えっ、何で?」
     深刻そうな顔をする二人の魔導師をよそに、カボチャ男となった鍵浦はけろっとしたまま更に首をかしげた。蔓のハテナが増えていく。
    「だって、それって生きてる限り平野さんとずっと一緒ってことでしょ? 恨まないよ。だって嬉しいもん」
     その事実が嬉しくて、他の事はとりあえず後で考えようと笑う。そんな反応は予想外だったのか、平野と半澤は目を丸くして顔を見合わせた。
    「平野、魔導師協会に行ってちゃんと眷属申請しよう。元人間の彼に一からこちら側の教育を受けさせるのは骨が折れるぞー」
    「何で楽しそうなんだよ」
     何か勉強させられる空気を感じて顔をしかめかけたが、どうにか耐える。耐えたのに、蔓がくるくる回って勉強を拒否したい気持ちを表現し始めた。確かに、この制御は学ばないといけないかもしれない。
    「助けてくれてありがとう、平野さん」
    「先に助けてくれたのは鍵くんだろ。ありがとな」
    「えへへ。……これからよろしくお願いします」

     これは、元人間が、白魔導師とずっと一緒になる話。

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