耳元で名を囁く声の甘さに、体の奥が熱くなった。
飲み明かすつもりかと問うリチャードに、求めていた言葉だと口づけを捧げれば、ほころんだ顔で手を引かれた。
二階に部屋がある、王宮の寝台より硬いかもしれないが水辺よりは寒くないぞ。と、凍えて死んでもいいと零したことをからかうような口調に、バッキンガムは小さく苦い笑みを落とした。
「静かだ……」
「あぁ」
悪魔の宴で踊り狂う悪魔たちの騒々しさも、森の奥にまでは届かない。
使用人を遠ざけても、夜が更けても、常に他人の気配はあった。
けれど、この屋敷には誰もいない。
王と公爵ではないリチャードとバッキンガムの二人だけだ。
リチャードとバッキンガムが言葉を交わさなければどんなに耳を澄ましても話し声は聞こえてこないし、呼びつけても誰も来はしない。
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