密やかに、強引に「また肥える気か?」
「え?」
耳を心地良く擽っていた、弾む鼓動。それは、今しがた聞こえた声でピタリと止まった。折角の喜悦の情が台無しだ。文句の一つでも言いたいが、今日は我慢。善逸は頭を振って、フツフツと沸いた苛立ちを押し込めた。
「獪岳、帰ってたんだ。おかえり。コレ、美味しいよ。食べる?」
善逸が一人で座る台所のダイニングテーブルの上には、食べかけのケーキが載った白い皿が一つ。善逸は涼しい顔で、それを持ち上げた。獪岳の嫌味など、意に介していない振りをして。見破られてるのは、百も承知だけれども。
ネクタイを緩める獪岳の眉間に、深い皺が寄った。まだ何か言われる。善逸は聞こえないよう、諦めの溜息を吐いた。
「要らねぇ。今、何時だと思ってんだよ」
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