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    オモナガな松田

    @mattun_omonaga

    なんかワンク置きたい系の絵とか、もしかしたら文章とかぽいぽいするかもです

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    オモナガな松田

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    サニーがOMORIたちに姿を与えた時の話。
    相も変わらず自己解釈強め。ホンペ軸の数年前にサニー家が日本で暮らしてる時のお話です。

    鋳型の夢「サニー、」
     僕の方など見ずに、お父さんはそう言った。僕の隣に座っているマリがスイッチが切れたみたいに静かになって、僕は床に散らばった茶色い箸を見つめることしかできなかった。
    「もうすぐ7つだろう。どうして箸一つまともに持てないんだ」
     僕は固まったままその言葉を聞く。マリとお母さんの食器がカチャカチャと音を立てて、お父さんの箸がカタンと机に並んだ。
    「マリはお前の歳には箸は勿論、ナイフとフォークも正しく使えたんだぞ。……いつまでもそうやって『出来ない』ことを免罪符に諦めるのか?」
     さすがマリだ。僕とは違う。
    「……ごめんなさい」
     お父さんは溜息をついて立ち上がり、僕の腕を掴んで廊下まで引っ張っていく。ご飯を食べ切るまでは座っていなきゃいけないけれど、お父さんがこうして引っ張った時は別だ。
    「行儀が悪い怠け者は家には要らない。今日はもう食うな」
     そう言ってピシャン、と居間のすりガラスの扉が閉まった。今更遅い「はい」の返事を零して、僕は泣き虫が悪さをするせいで流れそうになった涙を拭った。
     間違ってるのは僕だ。なのにどうしてか、お父さんのあの顔とあの仕草を見ると涙が出てきてしまう。きっと僕の心にずっといる泣き虫が、お父さんを見た僕を困らせるために泣かせるんだろう。
     僕は知っている、廊下に立たされたからといって部屋に戻ってはいけない。それは僕が正しいお父さんを馬鹿にしたのと一緒だから。みんながご飯を食べ終わるまでここで待って、マリが部屋に行った次にお父さんが出てきた時に「ごめんなさい」を言うのが正しい。
     廊下の染みを数えていたら、三人の楽しそうな声が聞こえてきた。さすがだな、偉いわね、ありがとう、もっと頑張るね。マリがまた学校でいい成績を取ったんだろう。僕もマリみたいに出来たらいいのに。
     マリは小さい頃、外国に住んでたって言っていた。僕が生まれて少しの時に、日本に引っ越してきたんだって。でもマリは日本語だって、外国語だって話せる。友達もたくさんいて、頭もいい。料理も掃除も得意で、お父さんもお母さんもマリを叱るところなんて見たことない。それにとってもピアノが上手だ。マリのピアノは、まるで譜面に絵が描いてあるんじゃないかと思うほど、色鮮やかで滑らかで、僕の一番好きな安らぎをくれる。
     対して僕は、外国のことはちんぷんかんぷんだ。日本の勉強なのに、クラスで一番になったこともない。成績表には三角がいくつもあって、三者面談の時はいつも先生が難しい顔をする。話しかけられないまま友達らしい友達もいない。料理も掃除も苦手で、お父さんもお母さんも僕にいつもガッカリしている。折角、内緒でマリが触らせてくれたピアノも、運指だとか均一なリズムだとかが出来なくて、全然弾けなかった。
    『お前は何もできやしないんだから、しょうがないさ』
     僕の頭の中で、僕の考えがそう独り言を言った。その通りだ、僕は何も出来ない。しかも、お父さんの言う通りこれはきっと『出来ない』僕に甘えてるだけの、悪いことなんだろう。
    『早くどっか行きたいなあ。オトナは楽でいいよね』
     そうかなぁ、と僕は僕の頭に返す。大人は仕事がある。僕は仕事が上手くできる大人になれる気がしない。きっと大人になっても何度もガッカリされて、その度に泣き虫になって、歳を取ったお父さんとお母さんにもガッカリされるんだ。
    『面倒くさ。だったら早く死にたいね』
     えぇ?
    『嫌だよ、死ぬの痛いかもじゃん』
    『痛かったら止めるの? 根性なし』
    『お前も根性なしじゃん、僕と同じ癖して』
     僕の頭の中がぐちゃぐちゃになるみたいな感覚で、僕は慌てて頭を振った。僕の考え同士が喧嘩をするのは今に始まったことではないけれど、最近は特に多い。しかもこういう日は、絶対に、
    「あ、」
     息が詰まったような声が出て、気がつけば僕の家は斜めになった。かと思えば背中が廊下にぶつかって、廊下のチカチカする明かりとお父さんたちが椅子を引いて立ち上がる音がどんどん遠ざかって、冷たい黒が僕を食べに来る。


     黒の中、僕は話していない僕の声がする。
    『やべ』 『お前のせいだからね』
     目の前はどこまでも真っ暗で、冷たい手を眺めてもそこには何も無い。僕自身が真っ黒になったみたいだった。
     時々、頭がぐちゃぐちゃになると僕はこの知らない黒の中にいる。マリにこっそり話した時、それは気絶だよって教えてくれた。
    『5番、行ってよ』
     そう言われると、誰かがどこかへ行く気配がした。なんで分かるのかは、僕も分からない。
    『また5番? アイツ無口で態度悪いのに、なんでアイツに任せるの?』
    『そりゃ3番、君よりはマシだから。……4番は使えないし』
     チッ、と僕よりも上手い舌打ちが聞こえた。すると、フワッと何かが消える感覚がして、僕の目の前に白い丸が2つ現れた。
     ハンフリーの目みたいにまんまるのそれをパチパチと瞬かせて、僕の声がまた言う。
    『やぁ1番。今日もお疲れ様。あとは任せて、どっか行こうよ』
     この黒の中で、僕は1番と呼ばれる。この黒の中でなら、僕は『1』を手に入れることが出来るのだ。
     そして僕が気絶している間、僕はこの黒の中で好きなことをする。綺麗なものも楽しいことも、想像すればなんだって手に入った。
     最初は早く帰りたかったけれど、マリに『気絶』と教わってからは帰ることを諦めた。気絶の長さは、僕の思いでどうにもならないらしい。
     きっとここは、気絶している間に見る夢なのだ。
    「ありがとう、2番」
     僕は僕の声にそう言う。そして最近ずっと考えていた、今日の見たい夢を伝えた。
    「僕、みんなの顔が見たい」


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