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    オモナガな松田

    @mattun_omonaga

    なんかワンク置きたい系の絵とか、もしかしたら文章とかぽいぽいするかもです

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    オモナガな松田

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    こういうサニとオモとボを永遠に吸ってたい

    なんでボがピアノ室にいたかは、『OMORI』って役職をいつも通り恋しく思ってピアノを見に来たけれど「ここオモの部屋と化してるよな」って思って虚しさに苦しめられたからです
    入る隙が無かったぜ。

     青と赤が絶妙に混ざり合った、目を焼くような鮮やかな紫の世界で、彼は一人座り込んでいた。鈍すぎて回りそうもない思考は、まるで彼に思考そのものを放棄させているようだ。
     視界に飛び込む色彩はどれも鮮烈であるはずなのに、彼はそれを不快と判断しなかった。彼は今、紫の宇宙空間にぽつりと浮かんだ、真っ白な綿雲の上にいる。時折蠢く綿雲の中からは赤黒い金魚が跳ね、再び綿雲の中へその姿をくらます。
     彼は右手にスコップを持っていた。園芸で見かける柄の短いそれを、彼は誘われるように雲の中へ突き刺していく。
     ザク、と雲の見た目とは反したその感触で驚く彼に、理性が流れ込んでくる。風が吹き込むように流れだした思考が早く目覚めろと警告を送るも、彼は意図的にそれを無視した。
    彼が「あと少しだけこの酩酊感で、この虚無感で思考を止めていたい」という、とうに決壊した思考のストッパーの頭でそう願おうと、それが叶うはずもなかった。
    彼が突き刺したスコップを持ち上げれば、そこには無数の金魚の尾びれだけが山となり、雲の隙間から覗く尾を失くした無数の金魚と目が合う。
    「あ、」
     まずい、と本格的に彼の停止していた理性と思考が動き出すと同時に、その腕が強く掴まれた。


    「シショサン」
     図書館の最下層にあるピアノの部屋の隅で、オモリはシショの腕を強く引いた。辺りにはサイゴノ楽園でよく見る、煙の出る紙のような物が数本散乱していた。部屋はすっかりこの紙が発する独特の香辛料にもハーブにも似た、言うなれば甘ったるい歯磨き粉の匂いが充満しており、オモリがピアノの練習をしようと図書館へ下ってきた時から既にうっすらと香っていたため、慌ててマスクを装備したほどだ。
     シショの右手には欠けた彼のナイフが握られ、虚ろにペタンと座り込んでいた彼の膝には数か所の切り傷からマゼンタ色の液体が溢れ出している。
     オモリに腕を引かれたシショは息を荒げて、オモリの向こうの何かを見ていたものの、次第にその虚ろな鋭い瞳孔がオモリに焦点を合わせた。
    「……は、……っは、おも、りか」
     真っ青な表情と先ほどの様子から推測するに、良いトリップではなかったことをオモリは悟り、あまり自分を『オモリ』とは呼ばない彼の珍しい呼称にはリアクションをせず「うん」と小さく頷いた。
    「なんでここなの」
     シショが散乱させた紙屑に触れないようにしながら、オモリもシショの隣へ座る。まだ完全に幻覚から抜けきっていないのか、ゆるゆると首を振りながらシショは部屋を見回した。
    「ここ、ピアノ室。シショサン、いつも自分の家で吸うのに」
     シショがトリップを求めて、こうしたクスリに手を出すことは今に始まったことではない。しかしその多くは彼が一人になれる場所、つまり彼の『部屋』とも言える鶏を失くした風見鶏があるあの場所で行うことが多く、彼は当初サニーに与えられた『大人の人格』から逸脱した自分を他人に見せることを酷く嫌っていた。
    「なん、で、だっけ」
     息を整えて、シショはようやく自分の現実に気が付いたらしく、自分の膝を見ると顔を顰めた。シショたち人格が持つ仮の姿が痛みを感じることは稀だが、それでも彼らの主人格であるサニーは、傷ついた彼らを見ると悲しい顔をする。
     次はもっと大切にする、とサニーと約束したことを思い出し、シショはまた悲しい顔をするであろう創造主へ申し訳なく思った。
    「どうやったら換気できる? ぼくマスク暑くてイヤ。……ピアノの練習もしたいし」
     サニーが装備品として作ったマスクは、空気を吸うことで起こる特殊効果を防いでくれる優れものだったが、かといって付け心地はそこまで良くはなかった。オモリにとって、マスクをつけたままピアノの練習をするのは御免だったのだ。
     一方のシショは、オモリの矢継ぎ早の言葉を処理できず、ましてや先ほどの質問の回答を思い出そうと思考回路を巡らせており、彼の質問に対して俯き、正気の色を灯しつつある瞳を宙に向けて黙ったままであった。
     と、その時、遠くの方から機械のモーター音のようなものが聞こえてきた。オモリは顔を上げて、そして階段を降りる時のドタバタという不安な足音で誰が来たかを察し、安堵する。
    「だ、大丈夫?」
     精神世界であるにも関わらず疲労で息を荒げ、けたたましい音を出すスティック掃除機を両手に持ったマスク姿のサニーは、そう言ってピアノ室を覗き込んできた。
    「だいじょうぶ、ありがとサニー」
     ぷは、とサニーがマスクを外す姿を見て、オモリもマスクを外しそう返した。まさか換気ではなく、そんな漫画のような方法で空気が変わるとは、と相変わらずのサニーの発想力に心の奥で拍手を送り、オモリは自分がピアノの練習をしに来るとシショが喫煙し、自傷に走っていたことを伝えた。
     一瞬、驚いた表情でオモリを見つめるサニーであったが、やがてシショの膝を見ると尻尾を踏まれた猫のような声を出して、シショに駆け寄りその膝に手を翳した。
    「シショさん平気? 痛くない?」
     ほどなくしてシショの膝の傷が縫い合わされるように徐々に塞がっていく。サニーのその問いに答えることなく、彼の姿を見たシショの顔がくしゃりと歪みかかった。
    「さに、ごめ……、やくそ、く……っ」
     ふい、とその姿を見てオモリはシショから視線を逸らす。シショに対するオモリなりの気遣いであった。正気になった時には記憶にないかもしれないが、それでもやはり、オモリの心に棲む良心がそう提案したのだ。
     シショの瞳孔は相変わらず鋭いままであり、サニーはこの状態の彼がいつもよりも幼稚に、言うなればかつて彼を『オモリ』に選んだ日のサニーの年齢に近いことをよく知っている。
     サニーにとってはこの時のシショの方が、サニーの気持ちをそのまま伝えることができ、またシショもそれを湾曲して受け取らないため話しやすかった。
     サニーは首を左右に振って、自分より少し背の高い彼の目を真っ直ぐ見つめた。
    「気にしないで! 約束は、守ろうとすることが大事だと思うから」
     終いには青年の見た目にそぐわずボロボロと泣き出したシショの頭を撫でながら、サニーは隣で黙ってピアノを見つめていたオモリにも微笑んだ。
    「オモリもありがとう。シショさんを助けに来てくれて」
    「ぼくはピアノの練習しに来ただけだから」
     サニーをチラリと横目で見て、オモリがそう言うとサニーはまたキョトンとした顔になり、それからまたクスクスと笑った。
    「大事なバイエル、持ってないのに?」
     あ、とオモリが小さく呟く。まさかサニーが自分をきちんと観察しているとは思わなかった。
     オモリはいつもピアノの練習にバイエルを使う。それはサニーの記憶の本棚の深くに眠っていた物の一つであり、オモリに初めて託された『サニーの記憶』の一部だ。サニーがかつて果たせなかった『OMORIを弾きたい』という願いを、今のオモリが代わりに担い、その夢を追っている。
     しかし今のオモリの手元にはバイエルがなかった。何故ならば、オモリはピアノの練習のために図書館を訪れたのではなく、なんとなくの『嫌な予感』で立ち寄り、中で挙動のおかしいシショを見つけ、そのトリップが良くない物と結びつくのなら阻止してあげよう、と待機していたからである。
     どうやらサニーには筒抜けなそれが暴かれた恥ずかしさと、自分の誇れる良心による善行をサニーに認められた嬉しさから、オモリの口角は自然にニヤリと持ち上がった。
    「えへへ」
     オモリのその態度を見れば、サニーも自分の予感が当たっていたことに笑い、シショを撫でた手でオモリの頭も撫でた。
     くすぐったそうに目を細め歪に笑うオモリを見つめた後、サニーは「よし」と立ち上がって、持ってきた掃除機で部屋に散らかった紙屑を吸引した。
    「もうちょっとお喋りしたら帰ろっか!」
     サニーのその言葉でオモリとシショも頷き、サニーは満足げにその場に腰を下ろした。

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