Luciola cruciataの生涯 目の前を、ちいさな光が通り過ぎる。
ゆるやかに明滅するそれは浮き上がって暗闇の一点へと止まり、黒に沈んでいた木立の輪郭をわずかに削り出す。そんなささやかな明かりがいくつも飛び回り、川面をちらちらと星の代わりに照らしていた。ねっとりとした夏の空気が肌に絡みついて汗を呼びつけるけれど、水の上を渡ってくる涼やかな風のおかげで、不快感はほとんどなかった。音のない夜が、俺たちを包み込んでいる。
「わぁ……」
飛び回る蛍の群れに、俺は感嘆の息を漏らす。突き出した背の高い草に足が触れて、掻き分けられた地面から蒼い匂いが立ちのぼる。水面を踏まないぎりぎりのところまで身を乗り出して、俺は両手を掲げた。
「見えますか、民尾先生? 綺麗ですねぇ」
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