ジョハリの箱庭・補遺『蛇足』
昔むかし、あるところに鬼狩りの少年がいました。
少年は、とても優しい心の持ち主でした。刃を向けるべき相手である鬼にも慈愛の心を忘れず、もし対峙した鬼から後悔や悲しみの念を感じ取ったならば、必ずその心に寄り添っていたのです。
けれども、少年はある日ひとりの鬼と出会います。その鬼は夢を操る眠り鬼で、優しい、いつわりの夢を見せて、人の心を蝕んではそれを愉しんでいたのでした。
少年も、夢を見せられました。失った家族の夢です。
勿論、少年は怒りました。人の心に土足で踏み入り、それを嘲笑うことは、許されないことなのだと。
首を刎ねられ、死んでいくときも、眠り鬼には己の所業への後悔なんてひとかけらもありませんでした。きっと、ひとの身である頃から彼は歪んでいたのでしょう。だから、少年も彼のことは絶対に許さないと心に誓ったのです。それは、今に至るまでも変わりません。
3542